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うらの陽子

1章

第1話

 緑の木々の間から青い空が見える。二十分ほど歩いた。身体には薄っすら汗が滲んでいた。木々の間を通り抜ける風。頼子は火照った身体を冷ましてくれるその風を心地よく感じる。

 後楽園は園の中に入らずともその魅力を十分に堪能することができる。頼子は通い慣れた後楽園の外周を歩く。蓬莱橋を渡りそのまま正面から後楽園に入れば良いのだろうが、頼子はいつも南門まで歩く。土の地面。両側を木々に囲まれた細い道。横には川が流れる。木々の擦れ合う音と川の流れる音。その全てが頼子にとっての癒しであった。もう少し歩けば右に黒い天守閣が見える。岡山城だ。

 初めて後楽園に来たのは二十三年前。夫との結婚が決まり、岡山に越してきた次の日。夫が、歩いて行ける距離にある岡山の名所、後楽園と岡山城に連れて来てくれた。あの時は、岡山での新しい生活に意気揚々としていた。過干渉な家族と縁を切り、清々としていた。あの時の選択は間違ってなかったと今でも思う。そうでなければ頼子は十年前に壊れていたかもしれない。

 頼子は足を止める。木々の奥に見える岡山城。左には、木々の間から後楽園の中がチラリと見えた。

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