第3話『再会』
画面にニュースキャスターの女性が映り、淡々とした口調でニュースを読み上げる。
『昨日朝方、
そのニュースを耳にした途端、美由紀は驚愕の顔でテレビに釘付けになった。
『和真くんはベッドで仰向けの状態で、口の中に土が詰め込まれた事による窒息死だと断定されました。警察はこれを殺人事件とみて捜査すると発表しました』
ニュースのコメンテーターが事件の内容を喋り始める。
『口の中に土を詰め込むなんて残虐極まりない。自分の子供にできることじゃないです』
『身近な人間の仕業としか考えられませんよ。これって虐待でしょ?』
もう既に、その子の親が犯人だと指し示す言動が飛び交う。
「可哀想にな」
「梨花、口に土なんて絶対に嫌っ」
やっと朝食に口を付けながら、ふたりは他人事のように話していた。だが、美由紀は違う。
美由紀は谷山和真を知っていた。
正確には、和真の母親を知っていた。
あの神社の話題が出た瞬間から、背筋が凍るような恐怖感が美由紀を襲う。自分にも何かが起こると、何故だか直感した。
子供と夫を送り出し、美由紀は未だに感じる不安に怯えながらリビングへと戻る。すると、それを狙ったかのようにしてスマホから着信音が鳴り響いた。
画面に表示された名前は“
少し出たくない衝動に駆られるが、美由紀は嫌々ながら通話のマークに指をスライドさせる。
「はい」
『美由紀、久しぶり』
「久しぶり……朝からどうしたの?」
『テレビ見たわよね』
さっきのニュースを差しているんだと直ぐに分かった。
「ええ、見たわ」
『それについて話があるの……今日会えない? 場所はあの神社で』
「えっ? 別に神社じゃなくてもいいでしょ!」
『確かめたいことがあるのよ』
正直、鐙子とは関わり合いたくなかった。
彼女とは小学校時代からの腐れ縁。昔から自己主張が強く、傲慢で、人を見下すようなタイプ。けど、当時は逆らうことができなくて従うしかなかった。
あの時も、そうだったように……
『聞いてる?』
なかなか返事を返さない美由紀に、少し苛立った口調で言う。
「わたし、今からパートに行かなきゃいけないのよ」
やんわり断ろうとしたのだが、鐙子はそれを許さなかった。
『だったらパートが終わってからでいいでしょ? 何時に終わり?』
「二時だけど……夕食の準備もあるし」
『そんなの適当でいいでしょ! いい? 待ってるから必ず来なさいよ!』
そこで強制的に通話が終了されてしまう。
別に行くことはない。彼女と無理に会わなきゃいけない理由はないのだ。なのに、昔から染み付いた習慣のようなものなのだろうか。鐙子を拒んだ後の事を考えてしまい、行くしかないと思ってしまっている自分がいた。
午後二時をまわり、パートを終えて美由紀は結局、神社へと足を向ける。嫌々ながらも来てしまう自分が情けなく、自己嫌悪に苛まれた。
かなり、気が重い。
本当なら、二度と来たくはなかった。
「美由紀っ」
神社の目の前に来た途端、階段上から手を振る鐙子の声が届く。顔をゆっくり上げると、美由紀の表情が違う意味で曇った。
二十年も経てば、老けるのは自然の原理。だが、現れた鐙子はあの頃とあまり変わっていなかった。顔もそうだが、お洒落なブランドものの服を着こなし、メイクや髪型も流行りを取り入れた若々しいスタイル。同じ三十代後半を向かえる女性とは思えず、かなりショックだった。
無意識に乱れた髪を耳にかけ直し、俯きながら階段を上っていく。鐙子と向かい合ったと同時に、美由紀は軽く会釈した。
「お久しぶりです」
「なーに? 他人行儀ねぇ……私たち友達でしょ?」
同級生なのは認めるが、友達だなんて一度も思ったことはない。頭の中でそんなことを考えながら、美由紀は話を切り出した。
「それで? 確かめたいことってなんなの?」
「あれよ、あれっ」
鐙子が指差した方へ顔を向ける。そこには昔と変わらず聳え立つ杉木があり、嫌な記憶と重なったせいか、不気味さを漂わせているように見えた。
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