ゲームばっかりしてないで デートして世界救ってよ!

クミンゴ

プロローグ

「もしも今日世界が終わるとしたら、何したい?」


 帰りのホームルーム、担任が来るのが遅く暇を持て余したクラスはめいめいに時間をつぶしていた。

 大抵は友人と呼気のような雑談をしている。少女は、友人からの暇つぶしの問いかけに顔を上げた。

 赤いリボンでまとめた長い髪を耳にかけ、優し気にゆっくり瞬きする。少女の名は喜緑川 詩緒(きみどりかわ しお)。よく気が付く少女だ。


 質問の主、荒川は詩緒の仲良しの友人で、髪の毛を二つに結んだ活発な少女。問いかけは詩緒だけでなく周辺の席の友人にも投げられていたらしく、詩緒の後ろから声がした。

「そりゃ、全財産はたいて寿司とか焼肉とか……食べたいもん全部食うかな~」

 そう答えたのは購買のパンを持った恰幅のいい男子、馬場だった。柔道部の彼は部活前のエネルギー補給に余念がない。

「前に言ってたもんね、一生かけて世界中の美味しいものを食べたいって」

 相槌をうった詩緒に大きくうなずいた。

「詩緒ちゃんの弁当もいつか食べたいものリストに入ってるからよろしくな!」

「最後の晩餐の話になってんじゃん」

 呆れたように肩をすくめるのは、馬場の隣の席の千代田。

「ねぇ、詩緒ちゃんはどう?」

 千代田は詩緒に対して少し気障だ。詩緒は少し困ったように笑うと口を開いた。


「好きな人と、デートがしたいな」

その答えに千代田は慌てふためいた。

「詩緒ちゃん、恋人っ……いるの?」

「いないよ」

「そ、そうなんだ……じゃあ」


「ねえ、佐藤君は?」

 おっとりした彼女らしからぬ俊敏さで、何列か離れた俺の席に駆け寄って話しかけてきた。

「俺なんてどうかな」という千代田の声は詩緒のスピードに追い付けず、彼女に届くことはなかったようだ。

 荒川が肩を落とす千代田の背中を叩いている。


 俺は佐藤。自分の席でポータブルゲーム機に興じているところだ。

「…………俺?」

 実はずっと聞いていたけれど、今聞いたという風にゆっくりと顔を上げた。眠たそうな緩慢な動きで詩緒を見上げる。

 長めの前髪と分厚い眼鏡を通しても分かるくらいに、詩緒はにっこりと微笑んだ。

「うん! 今ね、みんなで話してたの。『世界が終わる日に何をしたいか』って」

「……ふぅん」

 俺は再びゲーム機に目を落とす。あぶない、もう少しでやられるところだった。ボタンを操作している俺に詩緒の視線が注がれているのを感じる。

「やめとけって、詩緒ちゃん……転校生にきいたって……」

「千代田! 感じ悪いよ!」

「コイツだって感じ悪ぃよ! 話しかけてもずっとゲームしてるし」

 荒川と千代田が乱入してくる。いつも騒がしい二人だ。

 俺はいったんスルーして、手の中の戦況を持ち直すことに徹する。

「千代田の悪いのはお口かもね」

「ひててて! ほっへ引っはんにゃ!」


「ゲーム」

 上がった声に、周囲の動きが止まる。

 俺の声だ。詩緒が答えを待っているのが分かったので口を開いた。

「ゲームをする。この世界が終わる瞬間まで」



 永遠に続くと思われた平穏な生活……。

「まさか本当に世界が終わっちゃうなんてね……」

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