エピローグ


 喫茶店で先輩に、執筆したライトノベルの感想をたっぷりともらった後。

 電車に揺られながら、ゆっくりと家への道程を埋めていた。


「……ふふ」


 思わず笑みがこぼれてしまう。

 今日、桐生君たちとの大立ち回りの時。

 私は思わず飛び出してしまった。


 誰かを呼んでくることも、写真にとって後から先輩を助けることもできたはずなのに。

 思わず、頭で考えるより先に体が動いてしまったのだ。


 まるで、そう。

 入試の日に、街で見かけた先輩のように。


「…………」


 今でも鮮明に覚えている。

 学校に向かう途中。駅前の商店街で、迷子の子供に優しく手を差し伸べた先輩。


 私を含め、周囲の大人は誰も触れなかった少年に、先輩は気づくと迷わず声をかけていた。


 見た目は明らかに不良。

 中学生の私でも、噂くらいは聞いたことがある、札付きの悪。


 しかし、子供に接する態度は噂とは遠くて……。



 私は、不良という人種が嫌いだ。

 すぐに腕力に頼り、物事を解決しようとする。



 私は、不良という人種が大嫌いだ。

 学校という狭い空間で構築された人間関係を、自分の望む形で無理やり壊そうとする。



 私は、そんな不良に逆らうことができない、自分自身が最高に嫌いだ。


 それでも、この先輩なら。

 私の価値観を壊してくれるかもしれない。


 アニメイトで出会ったのはあくまできっかけ。

 それを利用して、先輩に近づいて、先輩を知ろうとした。


 打算込みのアプローチ。

 だけど、先輩はそんな私と普通に接してくれて。


「……ふふ」


 再び笑みがこぼれる。


 来週からは、先輩の不良レッテルをなんとかするプロデュース方法を考えてみよう。

 先輩がビビるくらいのオタクだと知って貰えばいいのだろうか。


 例えば、何かの部活動に所属するとか? 漫研みたいな。

 いろいろな方法がありそうだ。


 私の腕の見せ所だろう。


「……がんばろ」


 小さく呟く。


 私の知ってる——私だけの知ってる先輩は、とても優しい先輩だから。



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