天城つぼみと、デート日和②
「どうでした?」
喫茶店のソファーに深く腰掛け、ちゅーっとアイスティーを飲んでいる天城。
その表情はどこか……いや明らかに不満げだ。
だいぶ天城の表情についてもわかってきたな。
「……まぁ、予想通りって感じだったな」
問われたのは映画の感想だと思い、そんなセリフを返す。
映画が終わると、天城は「喫茶店、行きませんか?」と一方的に告げ、反論する間もなくツカツカと歩を進めてしまった。
もちろん、否定する気もなかったのでその後を着いていき、映画館近くの喫茶店にへと入ったのだった。
スタバやドトールだとクラスメイトがいるかもとのことで、近くのルノアールをチョイス。
まあ、ちょっと割高だけど落ち着けるしサービスいいし、俺は好きな場所だからいいんだけど。
「予想通り……どういう予想してたんです?」
再び、俺の奢りになるであろうアイスティーを口に含みながら天城はそんなことを聞いてくる。
「まあ……なんていうか……」
「あ、言葉は選ばなくていいですよ。私があげたチケットなのに〜、とかも気にしないでオッケーです」
「そういうことなら」
天城の了承ももらったので、遠慮なく映画の感想を言い始めることにする。
「俳優たちは確かにかっこいいし可愛いい。シナリオやカメラ演出もそれを全面に押し出そうとしてたな。……ただ、そこだけを武器にしてるせいか、話の内容は単純に面白くなかった」
話しながら、映画の内容を思い出す
あらすじはこうだ。
主人公の少女が、雨の日に傘を借りたことから、とある男の子に惚れてしまう。
しかし男の子には他に好きな人がいたり、主人公が他の男子に告白されたりといろいろと事件やすれ違いが起こる、というのが大まかなストーリとなっている。
ラストは、惚れた男の子が遠いところに転校することになったので、主人公は男の子のことを諦めてしまうというもの。
なんというか……思い出しても面白くないな。
たしかにキャラクターの心情はうまく描けてたから、「青春してるな〜」という感想にはなるかもしれないけど。
「ですよね! そうですよね!」
そんなことを考えていると、天城が興奮したように上半身をテーブルの上に乗り出しながら同調してきた。
急にどうしたどうした。
「……あ……すみません」
らしくない行動に気づいたのか、元の体勢に戻る。
「あ……でも、あの伏線はよかったよな。最初に主人公が食べてた料理が、あとであんな意味を持ってくるとは」
そういえばと、映画の中で唯一「おっ!」となった伏線があったことを思い出す。
「そう! そうなんです!」
それを話すと、再び身を乗り出して同調してくる天城。
そして思い出したかのように、もとの位置に戻る。慌ただしいやつ。
「どうした。急に」
「あはは……その、友達と映画を見てもこんな話ってなかなかできなくて」
「あー」
たしかに天城の友人とあの映画を見たら、俳優たちの容姿だけ語りそうだ。
「やれあのシーンがカッコ良かったヤバイとか、あのシーンが可愛かったヤバイとか、そういう話ばかりになるんです。まあ、視聴者が楽しいなら映像作品としては成功なのかもしれませんけど」
「まあ、ターゲットは学生とかメインだろうしな。そこそこヒットするんじゃないか」
「そうなんですよねー。あんなにつまんなかったのに」
うわ、この子はっきり言っちゃった。
「友達との会話についていくために見なきゃいけなかったんですけど……つまんないのわかってたんで行きたくなかったんですよね」
「まあ、共通の話題って結構大事だろうしな」
「……」
「? どうした?」
「いや、そういうのはわかるのになんで友達いないんだろうって」
「ほっとけ!」
「あはは♪ すみません。でも先輩、ちゃんと中身も見てくれてたので。なんかテンションあがっちゃいました」
と少し照れたように笑う天城。
そんな風に浮かべた笑顔が、どこかいつものツンケンしたものとは違って見えて変に照れてしまう。
「じゃあ、最初から振り返りましょうか! 映画!」
「……おう、いいぞ」
少しだけ間が空いて、肯定を返す。
「じゃあまずは最初のシーンから。なんであの主人公は傘もらっただけで好きになっちゃったんですかね」
天城は今の間に変な違和感は覚えなかったようで、冒頭のシーンの話を始める
俺もそれに答えるように、一度アイスココアで喉を潤すと、天城と一緒に考察話に花を咲かせ始めた。
◇ ◆ ◇
「ありがとうございました。新鮮な経験でした」
一通り映画の話を終えると、ふぅと一息漏らす。
溜飲が下がったのか、不満げな顔もなくなっていた。
「こちらこそ。誰かと映画の話するなんてなかったから」
「でしょうね」
ニヤニヤと笑う天城。おい。失礼だぞ。否定できないけど
「さて、この後どうしましょっか? 先輩なにかプランあります?」
「ない」
「即答⁉︎ もー、男ならちゃんと女の子を楽しませなきゃダメですよ?」
「そんなこと言われてもな」
実際本当にプランなんてないので困る。
それを察してくれたのか、天城も考えるように顎に指を当てて何かを考えるように「うーん」と唸り始めた。
少しの逡巡の後。
「とりあえず……アイスでも食べいきますか?」
そんな提案を天城はしたのだった。
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