私の知ってる先輩は、私のことを知らない

都古 詩(みやこ うた)

私の知ってる先輩

 私は、不良という人種が嫌いだ。


『お前こんな本読んでんのかよ! オタクじゃん!』

『うーわ! 恥ずかしい〜!』


 自分の価値観を絶対的な正として、他人の価値観を貶める。




 私は、不良という人種が嫌いだ。


『うっせぇ! てめぇ調子乗ってんじゃねぇ!』


 すぐに腕力に頼り、物事を解決しようとする。




 私は、不良という人種が大嫌いだ。


『あいつと喋ったら、お前をハブるから』

『ハブられたくなかったらあいつを孤立させろよな』


 学校という狭い空間で構築された人間関係を、自分の望む形で無理やり壊そうとする。



 私は、そんな不良に逆らうことができない、自分自身が最高に嫌いだ。




 今までの自分をリセットしようと、地元から少し離れた高校に進学した。

 逃げかもしれない。けど、耐えることができなかったのだ。


 そんな私が通った高校にも不良がいた。


 学校一有名な不良。

 遠目から見ただけだが、たしかに威圧感はすごかった。


 でも、


『迷子か……店員さんは——うおぉう!? すまん、俺の顔が怖いのは勘弁してくれ!』


 その不良は、もしかしたら——


『あぁもう! ほら、これでどうだ! 怖くないだろ! この顔なら』

『……ぷっ! あははは! おにーちゃん、ばかみたいなかお!』

『バカってなんだよ、バカって……よし、その調子でバカなにいちゃんとお母さん探しに行くか!』


 ——私の価値観を、壊してくれるかもしれない。


 そんな可能性を、見せてくれたのだった。





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