失恋のご褒美

水天使かくと

第1話 失恋

夏から秋に変わる涼し気な季節。


私は意を決してある人に告白した。


「廣にい…好きです!」


「うーん、利子ちゃんは俺の妹みたいなもんだから…ごめんね。利子ちゃんには和樹の方がお似合いだと思うよ。」


とその大好きな人は、その大きな手で私の頭を優しくポンポンしながら言った。



私、冬馬利子とうまりこ、中学1年13歳はたった今、失恋した。


小さい時からのお隣さんの兄弟で同い年の弟…雪村和樹ゆきむらかずきと5つ年上の兄…雪村廣樹ゆきむらひろき(通称…廣にい)とよく遊んでいた。

いわゆる幼馴染というやつだ。


いつの頃からか好きになってたイケメンで物静かな優しい兄にやっとの思いで告白したのに速攻に撃沈…。


彼女がいるとかなんとか理由はいってたけど私の頭はショックからか真っ白になってて彼が何を言ってたかなんて覚えているわけがない。


妹かぁ…そりゃそうよね。

13歳と18歳じゃ大人と子供だもん。

相手にされるわけないよね。


それに和樹とお似合いだなんてそんなのないよー。和樹はまだまだ全然お子様なんだもん。


廣にいに振られた私。

もう顔合わせ辛いなぁ。

廣にい特製カレーも食べにいけなくなるなぁ…。


両親が共働きで遅かった私と彼らは、廣にいがよく作ってくれた特製カレーを食べてお喋りしながら寂しさを忘れていた。

楽しいひとときだった。



夕方、気が付いたら私は小さい頃からいつも遊んでいた公園のブランコに1人座っていた。

涙を流しながら…。


「よ!利子、どうしたんだよ、こんなところで。」


私が頭をあげるとそこには幼馴染で同級生の能天気お調子者キャラの弟、和樹が立っていた。


「うわ!何泣いてんだよ。顔ぐずぐずじゃねえかよ。」


「いいの!もうどうだって。しかもあんただしね。」


「なんだよそれ!失礼なやつだなぁ…ほい。」といってポケットティッシュをくれた。


「ありがと。」と私はそれを受け取り涙でぐずぐずになっていた顔と鼻をすすりながら拭き取った。


こんな感じで兄の廣樹とはちがって、弟の和樹のほうはいつも明るくて能天気なお調子者。

だけど私のことはいつも気にかけてくれる幼馴染の親友かな?


恋愛に発展しないのって?

ないない!だって彼、私より背も低くてお子様なんだもん。

とても男としてはみれないもん。


「失恋でもした?兄貴に…。」


「えっ!なんで知ってんの?」


「なんとなくな。お前兄貴のことずっと好きだって言ってただろ?でも兄貴、彼女いるよ。」


「言われたから知ってるよ。だから失恋なんじゃない。追い打ちかけないでよ、ばか。それにさ、妹みたいって言われた。」


私はまた目に涙があふれてきた。


「あー悪かったって。泣くなよ。よしよし!いい子いい子!」


といってわたしの頭をぽんぽんと撫でてくれる。

ほんとだったら、何やってんのよーと怒るとこなんだろうけど、今の失恋した私にはそんな気力もなくむしろそれが心地いいくらいで嬉しかった。


「いつかお前を癒してやれるカッコイイ男になれたら俺がご褒美をやる!その時は俺とつきあってみてくれる?」


いつになく真剣にいう和樹のそのまなざしに一瞬、ときめきそうになってしまったけどすぐに現実に戻った。


「何言ってんのよ!私よりも背が低いくせにー!せめて私より大きくなってたらね!」


と笑ってみせた。

いつの間にか笑顔になってる自分がいた。


「ひでー、俺の1番気にしてることをー。血も涙もねえな。」


こんなたわいもないやり取りだけど私はとても心が救われていた。


「よし!笑顔になったな!じゃあ言っても大丈夫だな。俺たち引っ越すことになったから…。」


私はしばらく言葉が出なかった。



それから数日後、隣の兄弟、廣にいと和樹は両親の仕事の関係で引っ越してしまった。


あの時みたいにもう、廣にいの作ってくれた特製カレーを食べることは本当になくなったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る