前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました~今更仲間を返せと言われても返さない~
秋作
第一部
第1話 B級冒険者のおっさん、追放された少年を保護する
俺の名前はロイロット=ブレイク。
通称ロイ。
しがないB級冒険者だ。
上のクラスであるA級やS級、さらなる上のSS級が華やかな活躍をしている中、とても慎ましく暮らしている。
俺はそんな生活を大いに満喫していた。
前世がアレで、長いこと超ド派手な生活を送って疲れたので、今世はのんびり生きたいと思っていたので。
え……?前世は何かって?
いやいや、そんな立派なもんじゃないさ。
人にはなかなか言えない職業だ……いや職業と言っていいのか分からんが。
とにかくB級冒険者でも、実力と実績さえありゃA級冒険者が請け負うような金になる仕事が入ってくる事がある。
今日も村を荒らしていたギガントリザードを駆除したので、冒険者ギルドの館へ向う帰りの途中だ。
今は腹ごしらえのため、酒場に寄って飯を食べている所。
全長が人間の五倍近くある魔物を普通に持って帰るのは困難なので、
収納玉は小ぶりな卵程の大きさの魔石だ。
魔石とは魔法の力が込められた石のこと。
この収納玉の場合は物を収納する魔法が込められている為、呪文を唱えると物を収納するようになる。
この玉はアイテムや魔物を収納するのに使われている旅人必須のアイテムだ。
ギルドの館にこいつを届ければ、賞金はくれるし、倒した魔物を買い取ってくれるからな。ギガントリザードは牙と角、あと皮が金になるのだ。
これでしばらくは遊んで暮らせる。
そう、俺は今、それで十分満足なのさ。
ある程度の収入があって、美味しい食べ物、美味しいお酒を飲むことが出来たらそれで十分―――
「お前は役立たずなんだよ。お前に代わるSS級の冒険者を仲間に入れたんだ。お前はもう用なし。分かったか!?」
……そう。俺は、今、酒場の席で勇者様一行が、仲間を解雇しようとしている光景を目の当たりにしている冴えないおっさんだ。
その光景を絵にすれば、矢印でもつけないと分からないくらいの地味っぷりだと、自分でも思う。
勇者様の横には……なるほど、強そうな女戦士がいるな。
しかも肉感的な美女、波打つ長い髪はダークピンク、目の色はゴールド。
ビスチェタイプの鎧、帯剣の柄には金色に輝く魔石がはめ込まれている。額にはプラチナのサークレット。
女戦士は妖艶な笑みを浮かべ、勇者様の肩に手を置いてクスクス笑っている。
あー、よく見たら“渡りのローザ”か。次々と強いパーティーに鞍替えすることで有名な女戦士だ。
ついに勇者様一行までたどり着いたってわけか。
一方、ローザに代わって解雇されたのは、十七、八歳くらいの小柄な少年だ。装備も古く、服装もボロボロだ。あれは初心者用の旅人の服じゃないか。勇者の連れにしてはあまりにも粗末だ。
「そうそう。ユーリってさ、戦闘の時いつも突っ立っているだけだもんね」
小馬鹿にしたように笑うのは魔法使いらしき少女だ。彼女はオレンジ色の髪の毛を耳にかけながら、クスクスと笑っている。
すると少年が小さな声で反論をする。
「でも僕は武器を持っていないから、補助魔法でしか手助け出来ない……」
「誰が口答えしていいって言った!? お前如きに武器を買ってやる余裕なんかないんだよ!」
「……」
おいおい、仲間に武器を与えないってどういうこった?
持ち金、そんなにないのか? それだったら、ローザを雇う余裕なんかあるわけないのに。
この女は法外な報酬をふんだくることで有名だからな。実力はあるから、需要はあるのだけど。
そのローザが口を開いた。
「ねぇ、ロイ。あんたがこの坊やの面倒見てやってよ」
馬鹿女が、いきなり俺に振ってきやがった。
うぉぉぉい! 何、俺を表の舞台へ引きずり出そうとしてんだよ!? 俺の素晴らしき地味生活をぶっ壊すな!!
「万年B級の地味ロイにぴったりじゃない? その子」
ローザの言葉に、その場にいた客達が可笑しそうに笑う。
おい、コラ。B級を笑うんじゃないよ。俺は今のポジションが気に入っているんだよ。
笑っている客の殆どはB級以下の冒険者だ。自分のことを棚に上げて良くそんなに笑えるな。
俺はちらっと俯く少年の方を見る。
前髪は長く伸びていて顔全体は見えないけど、鼻筋、口元は整っているな……前髪あげたら男前と見た。
一方、仲間を見下す勇者様。茶色がかった黒髪、鋭く切れ長の青い目、顔は良いが何とも軽薄な印象――いや、これ以上は申しますまい。
俺はため息をついて立ち上がった。そして解雇された少年の肩を叩く。
「行くぞ。次の職を探しにギルドまで案内する」
俺の言葉に、少年は目を見張ってから頷いた。
面倒事には関わりたくないのだが、ろくな装備もしてない状態で、追い出された少年を放っておくわけにもいかない。
こっちも笑いのネタにされたから気分が悪い。
酒代と飯代をテーブルの上に置いてから、俺は少年と一緒に酒場を後にした。
◇・◇・◇
まずは冒険者ギルドの館に向かわないとな。
ここの近場にもギルドの館はあるが、新たな職を探すのであれば都会の方がいいだろう。
酒場から少し離れた広場に出ると、俺はウエストバッグから収納玉を取り出し、呪文を唱えた。
「
収納玉からもくもくと煙が出る。やがてその煙から現れたのは一頭のワイバーンだ。
乗馬の馬より二回りは大きい。ドラゴンの亜種、と呼ばれるだけに、パッと見た目ドラゴンによく似ているが、二本足なのが特徴だ。
体の色は緑色なのが殆どの中、ごく希に黒い身体のワイバーンが生まれる時があって、他のワイバーンより一回りデカく力も強い。
少年は呆気に取られる。
「わ、ワイバーンだ……しかも大きい」
「ああ、ギルドから借りてるから、俺の乗り物じゃないけど」
「……でもワイバーンって確かS級でも乗るの難しい魔物じゃ……」
「細かいことは気にするな」
ブラックワイバーンに騎乗した俺は一度手綱を引いた。
オォォォォォッ!!
咆哮と同時にブラックワイバーンは蝙蝠のような翼を上下にはためかす。
すると思わず顔を庇いたくなる程の突風が生じた。
「落ちるから、俺の前に乗れよ」
差し伸べた俺の手を少年は頷いてから掴んだ。そして、恐る恐る鐙に足をかけ、鞍に乗る。
「まずはエトに行くぞ」
俺がもう一度手綱を引くと、ブラックワイバーンは空へ飛び立つ。
追い風が吹いているから、半時間もしないうちにエトにたどり着くだろう。
「うわぁ、あっという間に雲の上だ」
「飛空生物に乗るのは初めてか?」
「乗っていたけど、こんな高く飛ぶ奴じゃなかったよ」
「……」
勇者のパーティーが飛空生物で移動している所は、町で何度か見かけたことがあるし、確かさっきもワイバーンとミディアムドラゴンで移動してここに来ていた。
多くの冒険者は
勇者も例外じゃない。
一般的な飛空生物として一番多いのはミディアムドラゴンだ。安定していて乗りごこちがよい。ただ貸出料金は高い。
ワイバーンは貸出所に一頭いるかいないかだ。S級でも乗るのが難しいからな。
自分専用の飛空生物を持っている冒険者もいるが、ぶっちゃけ飼うのが難しい。
餌代も馬鹿にならないし、魔物との意思の疎通が図れないと逃げられてしまうこともあるので、魔物使いによってちゃんと調教された飛空生物を借りる方が安く済むし、無難なのだ。
飛空生物を貸し出す店は大きな町なら必ずあるから、多くの冒険者はそこで借りている。
この少年は武器や新しい服すら買って貰っていなかったみたいだからな。彼のために高い飛空生物を借りるお金を出すわけがないか。
乗り心地も悪く、安定も良くない、高く飛ぶことのない最安値の飛空生物で何とか移動していたんだろうな。
勇者たちのムカつく顔を思い出し、俺は手綱を持つ手をグッと握りしめた。
今すぐ戻って、あのすかした勇者の顔をぶっ飛ばしたい。
「空から見える景色、綺麗だな」
「……」
まぁ、今は空の景色に感激している少年の為に、遠回りしてやるのが一番だな。
少しでも長く空の光景を見せてやる方がいいだろう。
彼からすれば、自分を捨てた仲間のことなんか一刻も早く忘れたいだろうから。
とりあえず回り道をしつつ、商都エトへ向かうことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます