第52話 祝福
北からの一陣の風と共に叩きつけられた凍てつく冷気は鎧の上から羽織ったオーバーコートの片側を氷漬けにしていく。雪で湿っていた部分がパキパキと音を立て、そうでない部分も白く霜がつき、さらけだしていた
「
味方の一団に向かって駆け寄る。何人かは既に北側の
「動いたか! テーリカ、胴体に寄せてくれ。叩き切る!」
テーリカに
腐臭とドロドロとした黒い体液にまみれながら、ようやく
「
「そうだ! 貴様が
「黙れ!!!」
「――吾が名は混沌の息子、至高の執政者、平原の造物主、ナホバレクなり!」
「高慢と嫉妬の神よ! 貴様の
「だまれだまれ!!!」
再び襲い来る
私はわざと崖を滑ると、
首の下を潜り、丘の上まで駆け昇ると、再び
「どうした? 神に見棄てられし勇者の一撃などこんなものか」
「こ、これは……」
「愚かな! 吾が
再び襲い来る
「
私は
「おのれ小娘!!!」
嚙み合わせの悪そうな牙を上下させ、ボロボロと雪交じりの土をこぼしながら悪態を吐く怪物。喋る怪物など出会ったことも無い。人語を解す醜悪な存在。これならばあの黒い
丘を後退しながらも、襲い来る
輝く槍は
「効力観測! 雷撃、火球、共に有効! 眠り、麻痺、効果認められず!」
「引き続き制圧射撃!――姉さま! こちらへ!」
魔法での援護を受けながら、ルシアたちの元まで戻ると彼女たちの周りは完全に冷気が遮られていた。
「いったいこれは?」
「その、ルシアが何故か祈りを……」
そのルシアはというと、何か長い
「
『姉さま、下がって!』
耳元で聞こえたルシアの声に、身を翻して加護の内側へと戻る。
「
ルシアが
丘を迫りくる
「すまない。ジルコワルの
「いいえ、姉さまは何も間違ってません」
ルシアが私の左手を両手で取る。
「護ってやるつもりがルシアの手を借りることになった」
「そうではありません、姉さま。
「では手が無いのか……」
「姉さまには
「だが、
「あたしはあのとき気付きました。あたしの中の
ルシアは私の胸に指で触れる。
「私の……なかに?」
「はい、姉さまはもう十分、勇者たる資質を示されたと思うのです」
ルシアが指さす胸の中央に左手を当てると、そこからはあの四年間を共に戦い抜いた愛剣の
「おお……」
一団の溜め息のような声が漏れ出ると、
「やはり、姉さまこそ勇者です」
ルシアはにこりと笑うと、私の後ろに視線を移した。
「――
「そうか。わかった」
再び遠くから相まみえた虚栄の神は、竜を依代としているにも拘わらず、まるで人間のような怒りと恨みに溢れた表情を見せていた。その見てくれが、憐れな神だと私に感じさせる。
虚栄の神の依代は、頭周りの刺々しい鱗を逆立たせるかのように広げると、
いつ止まるかも知れない大きな揺れが続き、漸く立ち上がった時には目前まで
私は
確かな手ごたえがあり、
周りを見ると、ルハカを始め、皆が未だに立ち上がっていない。揺れに足を取られていたのではない。怯えていたのだ。
ルシアの美しい声が奏でる
魔法攻撃の支援を受けながら
「
三度目の
ズン――地響きのような揺れと共に依代の首は地面へと突き刺さった。
--
ナホバレクは特に意識していたわけではありませんが、よく悪神の元ネタにされる某グノ〇シス主義の悪神をフレーバーにしました。私もナグ・ハマディ文書の邦訳が出たときには即買ってよくゲームのネタにしていました。最近では元ネタとして珍しくも無くなりましたが。
"A Dictionary of Angels" なんかもよく元ネタにしていました。こちらもかなり後に日本語版が出ましたが(翻訳してる途中だったのに!)、よくファンタジー物の元ネタになってます。あと、震災で翻訳出版やめてしまいましたが、魔女の家booksはグリモアの邦訳をたくさん出版されていてネタの宝庫でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます