体育会系JK 観音寺あかりは秋に走る
北川聖夜
1話 柳都学園高等部一年三組
俺の名前は
お察しの通り、この国において名前も苗字も「多い順」からそれぞれベスト10に入りそうな没個性の名前のせいだ。もっとも最近は「一郎」と言う名前は逆にレアかもしれないが。
一方、俺の目の前に座る彼女。
名前は
ネットで「全国苗字ランキング」を調べたところ、ベスト一万位にも入らない珍しい苗字、おまけに花の女子高生にもかかわらず、空手の腕前は少年段位ながら黒帯を有し、その
俺とは真逆で名前も運動神経も個性抜群の彼女。しかも小柄ではあるが、くりっとした黒目がちな目と明るい性格で、男女問わず誰からも好かれている。
風通しが良いとは言え、若者の熱気に溢れる教室。昼休みにサッカーでもしてきたのであろう、ショートカットから覗くそのうなじには汗が光っている。
そんな後ろ姿をぼーっと見てると、突然、うしろから声を掛けられる。
「あー、一郎、今あかりを見てたでしょ!」
やってきたのは
「み、見てねーよ! ぼーっとしてただけだつーの!」
「ええ~? ほんとに~?」
そんなやり取りに当のあかりもこちらを振り返る。
「ん? 一郎、どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ。里奈がヘンなこと言ってるだけ」
「私がヘンなこと? ふぅ~ん、まあいいや! それよりあかり! 当たっちゃった!」
すでに俺のことは眼中からなくなった様子の里奈があかりに話しかける。
「当たった? え、もしかして下り坂44!?」
「そうよ! 下り坂のライブ! 今、当選メールが来たの!」
「わあ、すごいじゃん! 里奈、やったね!!」
「これでついに真子様に逢える~! ああ~、生きてて良かった~!」
今や男女を問わず絶大な人気を誇るガールズユニット、下り坂44。そして常にそのセンターを務める絶対的エース
破顔で喜ぶ里奈と一緒に、あかりも我がことのように満身の笑みを見せる。
「で、ライブはいつなの?」
「もーう、聞いてよ! それが明後日よ! あと二日で真子様に逢えるのよー! あ~、もう〇にそうー!」
「えー、明後日? 急なんだね!」
「あったり前でしょ! 今や下り坂のチケットと言ったらプラチナよ! きっと転売とかの対策でもあるのよ!」
「そっか、なるほどね」
「まあ、だったら電子チケットにすればって話なんだけど、前回のツアーでシステムエラーがあって、大混乱したらしいのね。だからいまだにチケットが紙媒体なのが
「そっか。じゃあ、急いで発券しなくちゃだね!?」
「そうなのよ! だから今日、あかりのところに行くわ。今日はシフト入っている?」
「うん、今日は四時からだよ」
そう答えるあかり。
あかりは入学当初から、自宅近くのコンビニでバイトしている。俺も何度か偶然を装い・・・んんっ! 何度か『買い物に』行ったことがある。
「じゃあ、いったん帰ってからSマート行くよ」
「うん、待ってるね!」
ちょうど二人の会話の切れの良いところで、授業開始のチャイムが鳴った。
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