第45話 仕事に集中だ!

「岬さんいませんねぇ」


「むぅ、ここには来てないのではないか」


「今朝、資料を見てたからきっときていると思いますよ」


サティアンと匿ちゃんは俺の話をちゃんと聞いてくれていたのだろうか?マニアックな話をすると時たまこういうことが起こる。そして思う、世の中は常に流転している


切り替えて仕事に戻る


俺の見解では勇者と若者がまともに戦ったらまず若者が勝つだろう


俺の中の勇者スカウター


腕力、体力、技  どれも勇者が劣ってる


財力、装備、今まで宿泊したホテルの数  勇者優勢


頭脳、カリスマ、正義、性技  微妙


勇者はというと、しれっと扉の前に立っている。先ほどの騒ぎで列が乱れた隙に移動したのか。一番最初に店に入る気だ


「おい勇者、みんなお前の事なんて呼んでっか知ってるか?馬鹿モノだぞ!」


若者が罵声を浴びせるが


「私のことをそう呼ぶものもいるらしいね、まああとはご自由に」


といってプイと向き直り背を向けてしまった


「はぁ?自由にって?」


若者の横からレポーターがすっと現れ、メモ帳を取り出しながら勇者に話しかける


「勇者さん、あんたが魔王討伐に失敗した時は我々はどうなるんでしょか?その時のことについて何か思うところがありましたら教えてください」


「質問には一切答えられません」


(・・・今どうなっているのか話すのが当然だろ)


細身の男性が声を上げる


「俺はあんたの仲間に、うちにあったサーベルを持っていかれたぞ、あれ役に立ってるのか?」


「残念ながら、ノーコメント」


(そんな、あれ祖父の肩身の品だったんだぞ?)


「ふざけるなちゃんと答えろよ」


「そうだそうだ」


勇者に向かって不満たらたらでヘイトばかり言いだす人だかりができてしまった


「おいお前、本当は俺と勝負するのが怖いんじゃないのか?」


若者が憮然と呟く


くるりと勇者が向き直り答えた


「黙れ」


「え・・・・?」


「アイム ラブ イン イット! ブン回すぞ・・・モブめらっ・・・」


ゾワ・・・ゾワ・・・


「お前らの質問に答えるのは容易い、だが俺が魔王に倒されたときのことを聞いてどうなる?」


「そんな話が聞きたいのならいくらでもしてやる・・・しかし、ここにいるお前らにその話の裏をとるすべはない、それでも聞きたいというのか?」


ゾワ・・・ゾワ・・・


「お前らはいま、魔王軍との戦いになすすべもなく、ここにいる」


「誰からもあいつがきっと何とかしてくれる、などど思われることなく、地べたを這いつくばりここにいきついたのだ、ということがわからんのか?」


レポーターがおずおずと勇者に声をかける


「しかし、どうしてまたカジノ、ギャンブルなのですか?遊んでるだけでは・・・?」


「みろ、ここのカジノの景品リストを!まるでチート級の装備品が目白押しではないか」


ゾワ・・・ゾワ・・・


「ただ、これらの景品を手に入れるにはいくらかの元手がかかる、そしてそれはとてもじゃないが今まで特権で集めさせてもらったものでは足りない」


「お前らが今すべきことは、カジノに参加してこの勇者と勝つこと、そうすればパーティに加えてやることも一考しよう」


「心に刻むのだ!戦うとは剣を振るうことだけではないということをだ!」


「それでは、開店いたします」


オールバックの店員が叫ぶと扉が開いた。勇者は店内に飛び込んでいった。うーむ、いつ見ても勇者の回避行動は鮮やかである。つい先ほどまで勇者に対してカッカカッカしていた人たちは、今やギャンブルにカッカカッカしている。


まさに本日は激アツデーだ


ここまでくるともう惚れ惚れしてしまいそうになる・・・いかん、集中して仕事に取り掛からんと、特に勇者に絡んでいたあの若者には要注意だ。勇者は右から2番目スロットマシンに興じている。若者はカジノは不得手なのか、ロビーの前あたりをのそのそしたり、様子を伺ったりしている。


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