第17話 仕事が嫌なら賭博で稼げばいいじゃない。

「うおーっ!イカサマ!イカサマじゃーっ!」


酒を飲み干して完全に酔っ払った勇者は、そう叫んでテーブルに突っ伏して、ぐぉーぐぉーといびきをかきながら寝てしまった。


ブラックアウト


ギャンブル中毒者が陥る現象だ。野次馬たちは勝負のついたテーブルから興味を無くし、勇者だけが残った。俺は乱闘騒ぎになったりしなかったことに胸をなでおろした。


「あいつ、もう20万ゴールドはいかれたな」


「ああ、あのディーラーには絶対勝てないのに」


勇者は二人の用心棒らしきガタイのいい男に担ぎ上げられ、店の外に出された。俺はテーブル席についた。そこは勇者の残した負の遺産でぐちゃぐちゃだがかまいやしない。


「ディーラ、チップをくれ200G分」


酒瓶や空グラスを片付けながらもディーラは愛想よく俺にチップを配る。


「じゃ、100GのBETで」


チップの半分を摘み上げて机の前に差し出す。代わりにカードが配られる。カードを眺め、すぐに勝負に出た。


「お強いですね」


チップは300G分に増えた。俺はこのディーラーにプレッシャーをかけながら勝負を続けた。


「この仕事長いの?」


50G 勝利


「今まで最高いくら勝負したの?」


100G 勝利


「やっぱ、ここぞって時はどうしても勝たなきゃいけないよね」


150G 勝利


「テクニックというかさ、仕掛けとかあったりして」


300G 勝利


「冗談だよ、そんなのがあったらって思っただけさ」


500G 勝利


「万が一、なにかネタみたいなものがあるとすれば」


1000G 勝利


「見破られた時にねぇ、大変じゃん」


3000G 勝利


「トリックを逆手にとって、連勝することができるんだから」


5000G 勝利


俺は5000G分のチップを掴み上げ、じゃらじゃらとその感触を味わう。


「あ、のどが渇いたな。ちょっと飲み物持ってきて。ソフトドリンク、レモンジーナ」


勇者との対戦を、俺はモブマントで気配を消し、じっと見ていたんだ。そしてトリックを見破った。この勝負も俺の勝ちだ。


「5000Gのbet、よろしいですか?」


ディーラーは相変わらず無表情のままだ。コールしようとしたその時、なんだか嫌な視線を感じた。


「ちょっと休憩だ」


俺は一旦席を立った。なんだろうこの嫌な感じは。絶対に誰かに見られている。注意深く辺りを見回してみると、人が倒れているのが目に付いた。


アレは一体なんだ?


・・・なんだ、勇者か。


さっきの嫌な視線は勇者だったのか?


そんな気がしたわけではないのだが。


「うへぇ~あんたぁ~ちょっと~き~てよ!きてぇ」


ろれつの回らない声で呼ばれるのは正直いい気分じゃねぇ。モブマントで顔を隠す。 面倒くさいがこんなところにほうりだされたまま、ほおっては置くわけにはいくまい。


「へへっ、なああんた~なんで世の中平和なのかわかるか~」


「私が~日夜努力してるから~キミらみたいな人らが~」


「安心して~~暮せるんだぁ!!!!」


勇者は完全に酔っ払って、管を巻いている。酔っ払いを真正面から捕らえて観るのは初めてだが、結構面白い。


「わかったから、お兄さん。ここじゃ危ないから、とりあえず移動しよう」


警察24時!によくでてくるやりとりみたいである。


俺は勇者に肩を貸してあげ、馬車乗り場までつれていってあげることにした。


「なー私はね、勇者なんですよ、実はね、勇者!知ってた?」


勇者は誰に話しているのか、空を見上げながらぼそぼそしゃべる。


「剣のやつが、ぜひ働いてほしいとか、俺にいうのよ~むにゃ~」


「御者!この御仁を宿まで」


俺は馬車乗り場にたむろしていた連中に声をかける。かなり柄は悪いが仕方ない。その中の1人がチッと舌打ちし


「その男は駄目だ さっき博打で有り金全部巻き上げられたからな」


「オケラちゃんはさっさと歩いてお帰りなさいな~」


とても客商売しているとは思えない態度だが。まあこんなもんか。


「宿までいくら?」


返ってきた答えは法外な金額だが、今の俺なら払ってもどうということはない。


「チップ込みだ」


俺はこの国の最高額紙幣を差し出す。が、突然、紙幣を受け取ろうとした男の手を勇者が払いのけた。


紙幣がひらひらと地面に落ちる。ああ、この紙切れ一片のためにどれほどの苦労をしているのか。我が生涯、一片の悔いなし!といって使いきってしまいたいものである。


「てめぇ、何しやがる!」


「私から~金をボルとは~何事だ~」


勇者が御者に絡み始めた。


「いいですか~、あなたがたが商売できるのは御心あってのことなのですよ」


「現世にふさわしくない、邪悪なものがはびこることの・・・」


「だからあなたがたは、お父様とお母様に感謝しないといけませんよ~」


「ふえっ!ヒヒヒ!!」


散々わけのわからないことを一方的にしゃべりまくった勇者は、満足したのかニタニタしながら宿にむかう道を歩き始めた。男たちは始終、殴りつけるタイミングを図っていたみたいだが、最後の「ふえっ!ヒヒヒ!!」に毒気を抜かれたようである。 世界一どうでもいい人間に絡まれてしまったといった表情である。


あの笑い方は完全に放送事故である 警察24時でもカットされるな・・・


てか俺の金は!?


ああ・・・当然勇者のポケットの中か。

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