文永の役
部屋に戻っても酒盛りの続き。壱岐を占領した元軍は、
「松浦半島に攻め込んどるな」
なんか西に向かってるけど、
「理由はあれこれあるんかもしれんけど、半島から北九州に来る時の伝統的な航路やったぐらいちゃうか」
「魏志倭人伝もそうでしょ」
直で博多を目指さないのが当時の常識かもね。この辺は博多には日本軍の主力が待ち受けているの観測もあったのかもしれない。とにもかくにも平戸や唐津沖の鷹島も占領して博多湾の能古島も占領したんだよね。
「たぶんそうや」
「なんとなく一個ずつ占領してったのじゃなくて、分散して一挙に襲った気がする」
ここからが文永の役の本番になるのだけど、
「文永の役だけやない。二度に渡る元寇で唯一の主力決戦や」
そうだっけ。
「そうよ。弘安の役は期間こそ長かったけど、東路軍は江南軍をひたすら待ち続けたし」
「江南軍が来たら台風に見舞われて終わってもたやないか」
そうだった。決戦の様子は覚えて来たぞ。元軍は博多の西側の百道ぐらいから上陸したんだ。日本軍も迎え撃ったのだけど、元軍に押されるのよね。この時の日本軍は麁原山に本陣を置いていたのだけど、元軍は麁原山にまで攻め寄せ、日本軍は赤坂を越えて博多に後退させれてしまうんだよね。
博多にも元軍が雪崩れ込んできたから日本軍は大宰府に撤退、水城を最終防衛戦にしてその日の戦いを終え、明日の決戦に備えたぐらい。なのに元軍はなぜか船団に撤退してしまい、帰ろうとしたところを嵐に遭って大損害を出してしまうぐらいだったはず。
「最後に大損害を出したんは史実で良いと思う」
「博多の西側から上陸作戦を行ったのもよ」
はぁ? それ以外は、
「そやからそれは八幡蒙童訓やと言うたやんか」
それも聞いたけど、どうして間違ってるの。
「元軍の進攻蕗はかなり計画的やったでエエと思うねん」
「そしてね、当面の戦略目標は大宰府だったはずよ」
そういう話だったけど、
「そやったらどうして翌日に大宰府を攻めへんかってん」
どうしてだって言われても困るけど、うんと、うんと、栗田艦隊謎の反転。
「栗田艦隊の反転より謎過ぎるわ」
「栗田艦隊はあの時点でかなりの損害を蒙っていたけど、元軍はそうじゃないじゃないの」
それはそうなんだけど、
「百道から大宰府までナビ上やけど二十四キロぐらいあるねん」
「つまりは六里だから普通に歩いても六時間かかるのよ」
そんなにあるのか。
「六里もあるのに抵抗する日本軍を撃破しながら一日で行けるわけあらへんやろ」
「この時期の日の入りは五時半ぐらいだし」
でも反転したのは史実でしょうが。
「そうや。そやけど、八幡蒙童訓の戦況で元軍が反転する理由があらへんやんか」
「そうよそうよ、どう見たって予定通りじゃない。翌朝を期して水城に攻めかかるしかあり得ないじゃない。それをするために、はるばる半島から海を渡って来たんでしょうが」
それはそうなんだけど、反転したものはどうしようもないじゃない。元軍の大将に聞いてくれ。
「反転したんは事実やし、反転したことで結果的に大損害を受けたんも事実や」
「だから元軍はあの日の合戦で反転するだけの理由があったと考えるのよ」
考えるたって、
「歴史研究の方も進歩してるんよ。そやから八幡蒙童訓やないこの日の展開をそれなりに推測しとるんや」
コトリさんはまず地理の説明から入ってくれた。今は博多も福岡も一つになって大都会になってしまってるけど、元寇の頃は博多が港町で、福岡はガランとしていたぐらいに考えたら良いって。
博多の西側はちょっとした丘陵地帯になっていてそこに今の福岡城が建っているそう。その辺が文永の役の赤坂で、博多から見ると衝立みたいな感じになるそうだ。日本軍は大宰府にまず集結して博多に進んでいるけど、
「この辺はコトリの推測も入るから割り引いてや」
この日の合戦で元軍は博多方面にも上陸した説もあるんだって。コトリさんは否定的なんだけど、
「上陸まで行かんでも偵察艦隊が沖合におってもおかしないやろ」
これも上陸をする気で来たかもしれないけど、博多に日本軍が来たことぐらいわかるはずだし、日本軍だって存在を隠そうとするより、沖合の元艦隊に日本軍がここにいるぞってアピールしてもおかしくないはずだって。
その情報を得て、元軍は日本軍が見えない博多湾の西側一帯からの上陸にしたってことか。とにもかくにも元軍が博多湾の西側から上陸したのは事実だよね。上陸して目指すのは博多だけど、
「博多に行くのに赤坂がまず問題になるのは元軍かってわかっとったはずや」
それに対して日本軍がどう反応したかも説が分かれてるそうで、
・元軍の侵攻を食い止めるために赤坂に布陣
・赤坂から博多に呼び込んで平地決戦
実際はどうであったか不明だけど、元軍と日本軍が赤坂で激突したのだけは間違いなさそう。その結果なんだけど、
「日本軍が押し勝ってるんや」
赤坂から押し返された元軍だけど、赤坂の少し西側の麁原山に本陣を置いて態勢の立て直しをしたそう。この辺はとにかく大軍の上陸戦だから、赤坂を攻めた元軍は先鋒部隊ぐらいで、麁原山で後続部隊も集めて決戦を挑んできたぐらいかもしれないって。
そこからが蒙古襲来絵詞にもある鳥飼潟の戦いも含む本格決戦になったのじゃないかと考えられてるそう。かなりの激戦だったみたいだけど、元軍は攻勢に出ると言うよりも、段々に押し込まれていたんじゃないかと見られてるらしい。
「それでもがっぷり四つに組んでの戦いやったともされとるけど、元軍に予想外の事が起こったんや」
日本軍は九州全域から軍勢を呼び寄せようとしていたけど、この日の決戦に間にあってなかった軍勢がまだいたんだよ。その軍勢は、ちょうど麁原山の背後に現れるような形になってしまったらしくて、
「元軍にしたら、正面の日本軍の攻勢を支えるのに目いっぱい状態やのに、背後に新たな日本軍が現れて動揺したんやろな」
そりゃすると思うよ。ついに崩れた元軍は百道に向かって敗走を余儀なくされてしまったのか。待ってよ、待ってよ、だったらこの日の決戦に勝ったのは日本軍じゃない。
「そうや。だから元軍は帰国を選んだんや」
「そういうこと。勝ってる状態で謎の反転をしたのじゃなく、上陸作戦に見事に失敗したから船に戻ったのよ」
それはそれで、説明として納得が行くけど、
「納得もクソも元軍は上陸戦からの大宰府占領を目指したんやけど、博多にもたどり着けんと負けてもたんや」
「スッキリよ」
いやいや、スッキリと言うけど、どうして対馬でも、壱岐でも、松浦でも猛威を揮った元軍が負けちゃうのよ。
「それは簡単じゃない。博多の日本軍が多かったからだよ」
「そうや、対馬や壱岐、松浦は小勢過ぎたから負けたんや」
なんかスッキリしない。
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