プライスレス

 ある日私は暴走するトラックにはねられて気を失い、気がついたときには2070年の日本と思われる場所にいた。


 想像した未来が目の前にある!私は異世界に来た不安もいっとき忘れ、街の中の様々な文化を見物して回った。ここではさまざまなものがデジタル化されており、新聞、雑誌、紙の本といった、私の慣れ親しんでいた旧世代のメディアは一切廃止されてなくなっているようだった。


 しかし50年先とはいえ、私が想像していたようなハードウェアの進化はあまり見られず、ソフトウェアやメディアを中心とした想定内の変化しかしていないように感じられ、私は多少がっかりした。

 まあ悪いことばかりではない。おかげでファッションも50年前とそう変わらないし、言葉もひとまず通じる。


 陽がかげってくるころ、私は最初の興奮から覚めてだんだん我に返ってきた。取り急ぎ、今晩泊まるところを確保しておきたい。

 とはいえ手持ちのクレジットカードの有効期限は50年前に切れている。財布の中の現金は残りわずかだし、物価も高騰しているので大した価値にならないだろう。


 しかし、肌身離さず着けていた機械式の高級腕時計は、今ならかなりの高値になっているはずだ。私は期待を込め、繁華街にあるブランド品の買取店に足を運んだ。


 店の奥から物憂そうに出てきた初老の店主は、私の時計をひと目見るや顔色を変えて「少々お待ちを」と言ったきり、また中にひっこんでしまった。


 恐らくレア物すぎて価値を調べるのに時間がかかるのだろう、などと呑気に店の中をぶらついていたら、やがてスーツ姿の男達がどやどやと店に入ってきて、私に手錠をかけた。


「デジタル庁だ!アナログ物所持法違反の罪で現行犯逮捕する」

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