第3話 〜第2世界〜
暗くてなんも見えない
「2神とも近くにいるのか?」
「近くにいますが、暗くて何も見えません」
仕方ない。灯になるものを描くか。
色を選ぼうとしたが、なぜか白しか選べない。
「おい、猫ロボどう言うことだ」
俺はその辺にいるであろう猫ロボに話しかけた。
「この世界では白色しか選択することはできません。白と黒の2種類の色のみの世界です。世界自体が暗いので、実際は白しか使用しないと思いますが」
「なんだー白だけなら楽じゃん。最初の世界をここにして欲しかったー」
「白と言っても1種類ではありません」
「えっ」
俺はその辺に「白く染まれ」と叫んでみたが、何も変化が起こらなかった。
「この世界では”白”と言っても細かく薄さや雰囲気が異なりますので、”白”や”黒”と叫んでも色が染まることはありません。描く前にどの白で描くかを選択する。また描く際にモードを選べるようになりました。水彩モードなどにすると透明感や柔らかい雰囲気が出しやすくなると思います」
「水彩モード?」
聞いたことのない単語が出てきたので思わず聞き返してしまった。
「はい。創造神は1つ目の世界が完成し神格レベルが上がりましたので、新しくスキルが身につきました。あなたが持っているペンですが太さやタッチなど自由に変更することができるようになっております」
「他にはどんなペンの種類が選べるんだ?」
「鉛筆の掠れ具合、万年筆のような滲み出る感じ、絵の具のような筆の感じなどニーズに合わせてその仕様を変えられます」
「なるほど。使ってみないとなんともいえないが、種類が増えたのはいいことだ」
ふと気になることを聞いた。
「この色の選択画面を毎回開いて、色を選ばないといけないのか」
1つ目の世界では色は言えば変わる物だと思っていたので、それができなくなると面倒臭くて一色で染めてしまいそうだ。
「いえ、そのようなことはなく、あなたの左側にステータスバーというものを設定できますので、一瞬で色を変更できます。例えばペンでこの辺の白を選んでいただけますか」
俺は言われる通りに白に触れた。
「これで色の変更は完了しております。今のモードだとペンの細さが少し細いので太くすると比較しやすくなると思います」
俺はステータスバーにある線の太さをいじるとといくつかの色を選んで横に線をひいた。
「うーん確かにちょっと違う気はするんだけど、そこまで大きくは変化ないよな。これを変えながら描いていくってなかなか辛くないか」
「あー創造神あんまり芸術というのを知らないでしょ」
どこかにいる芸術神の声が聞こえた。
「世界創るのに芸術関係ありますかね」
「あるわよ」
やや被せ気味に芸術神が答えた。
「この世界は色の縛りがあるのだから、より些細な色の変化で表現しないといけないの」
「俺が第1世界みたいに、俺が創った後に芸術神の力でいい感じに調整すればいいんじゃないか」
自由に描くのと誰かに指示されながら作業するのではストレスが大分変わってくる。
「そ……それじゃダメなの」
「でもさ芸術神も神格レベル上げるならあれくらい力使わないと上がっていかないんじゃないのか?」
「……」
芸術神は何も言わない。
「俺もさ、あれはだめ。これは良くないとか言われ続けたら描きたくなくなるしさ」
「……わかった。あなたには最低限のことだけ教えることにする」
俺は灯りをいくつか描くと芸術神と冥界神と合流する。
「明かりがあるだけでも大分変わるわね」
「あぁ」
先程まで真っ暗だったが、描いたランプは実際に辺りを照らしていた。
「ここって冥界?」
冥界神が唐突に猫ロボに聞く。
「いいえ、こちらは冥界ではありません。ここに住む生命体は決まっておりません」
「……決まってない???」
他の2神もピンと来ていないようだ。
「それじゃあ俺はどんな世界をイメージして作るべきなんだ?」
「それはお任せいたします。ここに住む生命体にとって合うものであれば、そのまま文明は発展していくかもしれません。しかし合わなければ消えていくだけです。まぁ気楽にお描きください」
「気楽にって……。人間が住むなら建物とか描けばいいけど、動物なら森とか水とかだろ?でも住む生命体が決まってないとなると何をどのくらいの大きさで描けばいいのかわからないんだが……」
困惑していると芸術神がこちらを一瞥した。
「別にいいじゃない。合わなかったら消えるって言ってるんだから。せっかくなんだから描きたいものの練習に最適じゃない」
「……まぁそうだな」
第1世界で描いてないものと言えば。
方向性が決まったので、芸術神の指導のもと早速描き始めることにする。
「……」
「どうかしました」
その辺のテーブルと椅子の上で手伝うこともせず読書している冥界神。
「いや、どうして冥界神ついてきたんだ?することなくて暇じゃないか?」
「……どこかが私の世界だから」
「世界?」
冥界神といえば冥界か。
「あーなるほど。自分の世界だったらこういうふうにして欲しいとか要望があるわけね」
「うんうん。別にそんなに要望とかないよ。私はただそこで淡々と処理するだけだから」
目になんの色も映さずにどこか遠くを見つめる冥界神。
「そうか?まぁ今はなくても、もし必要なものとかあれば言ってくれ。なるべく希望には答えられるよう努力するからさ」
「うん。ありがとう創造神」
「おーい何やってるんだ創造神。休憩終わりだぞ」
芸術神に呼ばれたので俺は冥界神に「それじゃ」と言って芸術神の元へ戻る。
俺は芸術神の元で、アンティークの椅子やテーブルを描いていた。
第1世界では建物の外側は描いていたが、中は描いてこなかったので、せっかくだから、この世界は室内の創造物を創ることにした。
「……いやっ、白で描くって思ったより難しいな」
「そうねー。色がある世界しか知らないなら難しいかもね。でも世界の発展の過程にはモノクロテレビやモノクロ写真だってあるし、水墨画だってそう。人間はより多くの色が見えるけれど、他の生物は必ずしもそうではないわ。まぁいい機会じゃない。私達も人間とほぼ同じ色が見えるけれどモノクロの世界を体験するのも」
「まぁそうだな。せっかくなら楽しんだほうが良さそうだな」
「そうよ。それじゃあ次は本棚を作りましょう」
「あぁ」
「そこは色変えてって言ったでしょ」
「別にいいだろ」
「良くないのよ。少し離れて見てみなさいよ」
そう言われ下がってみる。
うーん確かに。同じ色にしたらどこまでが繋がっているのかよくわからなくなってしまった。
「わかった」
俺は素直に芸術神のいうことを聞いた。
本棚を描き終えてから確認してみるが、補正機能も働いてちゃんと本棚らしくなった。
その後も俺と芸術神は意見を言い合いながら《喧嘩しながら》もなんとか第2世界を完成へと導いた。
どのくらい時間が経ったのか不明だが、世界が描き上がった頃には芸術神は出逢った頃の大きさに戻っていた。
第2世界が完成したのをどうやって知ったのか、全能神と命与神も久しぶりにこの世界に来ていた。
「1つ目の世界とはだいぶ雰囲気が違いますね。細かいところまで丁寧に描かれていますね」
「えぇスパルタがいたもんで」
俺はチラッと芸術神を見る。
芸術神は他の2神と何やら服装の話をしている。
「彼女なんだかんだ言って面倒見がいいですよね」
「えーそうですか。大分言い合いになりましたけどね」
お互いなかなか譲らない性格のため、一度口論が始まるとどちらかが折れるまで続いた。
「ふふ、2神が口論しているのは容易に想像できますね」
全能神が微笑みながら答えた。
「この世界を創っている間に神増えていないんですか?」
「えぇ増えましたよ。今休んでるので紹介は今度しますね。その代わり1つ目の世界に人が住むようになりましたよ。時間があるのであれば一度見にいってもいいかもしれないですね」
「えっもう人が生活してるのか?」
「はい。映像であればすぐに映し出せますが」
そう言って、全能神が映し出そうとしたが、俺はそれを制した。
「いやこの目で見たい」
自分が創った世界に住む人。現実味が湧かないが、期待と不安でいっぱいだ。
「あの世界を造った時、いろんな文明を混ぜて創ったんだが特に問題なさそうか」
「はい。そこは新しい神が調整してるので気になさらず。まぁ他の世界でもそうですが、基本的に生命体に関しては、命与神と新しく増えた神の2神がどうにかするのであなたは気にしないで、世界創造に注力していただければ大丈夫ですよ」
新しい神はなんの神だろうか。まぁ考えても仕方ないか。紹介してくれるのを待とう。
「それで次はどこの世界に行くんだ?」
「おやっ。1つ目の世界には戻らず、そのまま次の世界に出発されるのですか?」
「あぁなんせまだ6つも世界残ってるからな。1つ目の世界覗くのもいいが、早く終わらせてからゆっくり観光でもしに行ったほうがのんびりできるだろ」
「そうですか」
全能神はニコニコしてこちらを見ている。気味が悪い。
「今回はどなたか一緒に行かれる方いますか?」
全能神が他の神に話しかける。
「次は何の国ですか?」
冥界神が聞き返す。
「それじゃあ実際に行ってみますか」
パチンと音がする。
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