世界創造〜創造神は絵心がありません〜

白雪凛(一般用)/風凛蘭(BL用)

第1話 〜始まりの日〜 

「それじゃあ、世界創造よろしくね」

そう言って2神はどこかへと散っていった。

「って…どういう状況だよ」

なんてノリツッコミをしている場合ではない。


先程までいた神達曰く、俺は創造神らしい。

創造神ってなんだよ。

見渡す限りの虚無空間。

漠然とした空間だけが存在するこの状況、何をどうしろって。

色もないし天地も不明。ただ無限に広がる空間が存在する。ここで生物か何かが生息できるのだろうか。空気や重力という概念さえよくわからない。よくわからないというのも、今の俺はこの空間に特に抵抗感も息苦しさもなく、浮いているという状況だからである。

移動についても、移動したい方向に動く。これが遅いのか早いのかは置いておき、長い間移動しようとも疲れることはなさそうだ。

俺はこんな状況ではあるが、いやこんな状況だからこそ。

創造神という神の役割がどんなものなのかを、ひとまず考えてみることにする。

この無限に広がる空間に世界を創れって言われたけどどうやって創るんだ。俺はもう一度見える範囲を眺めるがやはり何も見あたりはしない。

「えーっとどうやって世界を創るって言ってたっけ?」

先程の神達の言葉を思い返す。


ーー回想 世界の創り方ーー

「これ見てー上手に描けたの〜」

そう言って顔に狐のお面をつけ、胸元までウェーブがかった髪を伸ばした命与神という神が自分の描いたであろうイラストを自慢した。

「おやおや、創造神そっくりですね〜」

こちらは中性的で命与神よりも長くストレートなブロンドの髪をお尻の辺りまで伸ばし、おっとりした話し方の全知全能の神。

俺は命与神が描いた、特徴もない神の絵を眺め「俺そんな感じなのか」と呟いた。

「えぇそっくりです。確かめますか?」

何が楽しいのかニコニコしながら全能神が聞き返す。

「いや大丈夫だ。それより進めてくれ」

自分の容姿に興味がなかったわけではないが、絵とそっくりだとするのならば、この2神と比べてあまりも特徴のない姿をしているようだ。確かめてショックを受けるのもなんだったので断ることにした。

「では続けますね。あなたには唯一この世界に創造物を生み出す力が備わった神です」

「よっ唯一の神」

命与神が合いの手を入れる。

「……創造物……」

「命与神、ペンを彼に渡してください」

「あっ忘れてました」

どこからかペンを取り出し、俺に手渡した。

特に特徴もないペン。しかしペン先にインクなどはなく、果たしてこれでどうやって絵を描けというのか。

「そちらのペンを使って、うまく絵を描いて世界を創造して下さい」

「これみた感じインクもないみたいだけどどうやって使うんだ」

「……」

全能神と命与神は顔を見合わせた。どちらも知らないようで首を傾げていた。

「あぁ、はいはい知らないんですね。自分で確かめてみますよ」

「……すいませんね。全知全能の神なのにお恥ずかしい」

「いやむしろ何も知らないのによくイラスト描けたな。びっくりだわ」

「えぇ〜頑張って描いたのに〜」

「ってかそのイラスト描けてるのに本当に何も生み出せないのか」

全能神が目を細めた。

「鋭いですね。触れているもしくは多少の時間であれば我々も、ものを生み出すことできるんです」

「イエーイ」

命与神が顔につけているお面を瞬時に笑顔のお面に変えた。

「そもそも絵を描くってなんだ。このだだっ広い世界をちまちま描いていくしかないのか?もっとこう創造したら山ができるとか、簡単にできないのか」

全能神が両方の掌を顔の横で上にむけ、首を横に振った。

「残念ながら」

「マジで……。俺1人で描くのか?お前らは手伝ってくれないのか?」

俺は2神を交互に見た。

「残念ながら、私にも命与神にも別の役割があるので今は手伝うことはできません」

マジかよ。このだった広い空間に俺だた1神のみで描けと。

「待てよ。このペンで絵を描けば実体化するなら、誰でも描けるんじゃないのか?」

「残念ながら」

先ほどと同じテンションで全能神が言った。

「せめてサポートとかさ……」

駄目押しである。

「……残念ながら。それもできません」

ーーーー


そんなこんなで現在に至る。

なんて原始的なんだ……。創造神なのに、想像したことをそのまま形として表現できればすぐ終わるのに。なんでこんなにめんどくさい仕様なんだ。

神ってもっとさ、こう簡単に、”山になれ”って言ったら山が現れたりさ、もっと偉大な力があるもんじゃないの?

ため息を吐くが、心配してくれる神もいない。

俺は仕方なくペンを持つが、まず何から始めたらいいんだ。

スケッチブックに絵を描くわけではないし、そもそも俺は絵を描いたことがない。

そんなに上手く絵が描けるものなのか?試しにその辺の空間にペンで猫を描いてみたがなんの反応もない。

生物は難しいのか。それなら。

俺はベッドを描いてみる。

描き終えしばらくすると、実体化した。

2Dで描いたはずなのだが、補正機能でもあるのだろうか、ちゃんと立体的に3Dで実体化した。

試しに描いたこともあり、寝れるような大きさではなかった。

「これ大きさは変えられるのか?」

さすがに描いた大きさでしか実体化しないとしたら、骨が折れるぞ。

俺は高さ3cm横幅10cm奥行き5cm程度の掌サイズのそのベッドを手に取ってみる。

模型のようなベッドをぐるっとひっくり返したりして全体を観察する。

ベッドの端と端を持って物理的に引っ張ってみたが、どうやら無理みたいだ。

仕方なくもう一度ペンを取り出し、大きいベッドを描こうとして、ふと気づく。

先程描いたベッドの周りに白い枠線、枠線の右上には4方向に伸びた矢印マークがある。

「待てこれは」

俺はペンでその矢印マークに触れる。

予想通り、このマークに触れると自由に場所を移動できる。

なお3次元の世界なので上下左右だけではなく前後好きな場所に移動可能である。

「あとは大きさが自由に変更できると便利だよな」

俺はオブジェクト化したベッドをもう一度俯瞰してみる。

よくみると枠線の左側が3点リーダーみたいになっている。

なんだこの分かりづらい仕様とツッコむのはさておき、その場所をペンで触れる。

編集モード

謎のXYZの表記とその横に数字。その下にオブジェクトの大きさの欄があり高さ、横幅、奥行きとあり、やはり数字が記載されている。

俺は数字を修正しようと思ったが、きっとできるだろうとオブジェクトの外側にある枠をペンで斜め方向に引っ張った。

すると想像通り、ベッドは枠にあわせ大きくなった。

ベッドの向きを変え奥行きだった方も自分の好きな大きさに変更する。

「よしっこれで完成だ」

俺は早速完成したベッドに横になる。

しかし、硬い……。

「待てよ材質はどうやって変えるんだ?」

もう一度編集の欄を確認する。

サイズの欄の下に材質の欄があるのを見つけた。

えーっとここはどうやって変更すればいいんだ。

そもそも描いたベッドは木でできた枠の上にマットレスを乗っけているわけで、その場合はどうすれば。しかもマットレスがなんの素材でできてるのかよく知らない。全能神に聞けばわかるのだろうか。

「全能神」

呼んでみるが反応がない。

「全能神。マットレスの素材を教えてくれ」

「コイル・ウレタンフォーム・綿」

どこからか声だけが聞こえた。

材質の欄に、言われた素材を入力する。保存してもう一度ベッドに触れてみる。

「おっさっきと変わった」

しかしなんとなくしっくりこない。

編集の欄に硬さと柔らかさについての項目が増えていることに気づき、柔らかさの方にステータスバーを移動する。

しかし極端に柔らかくしすぎたみたいだ。乗っかった重みで沈んだ。何度か調整してなんとか好みの硬さにした。

1つのものを創るだけでこんなに時間かかるけど、はたしてこの世界を丸々創ろうと思ったらどうなるんだ。

ゾッとしたが、神だからどうにかなるのだろうと半ば無理やり、楽観的に考えることにした。

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