お疲れ様パーティー

 今日はラヴレース公爵邸でパーティーがある。


 一昨日をもってセーラが騎士隊を辞めたので、これまでの仕事仲間である騎士隊関係者を中心に招待して歓談しようという、まあそんな会である。

 俺は騎士隊には関係ないが、セーラの婚約者だから当然出席するわけだ。だが、見知った顔は限られているから、セーラには言わないが、ちょっと憂鬱な気分。


 現役の騎士隊は昼間の勤務があるから、パーティーは夕方から立食形式で開催。


 泉邸の警備のジェフ、エドセル、フィルは元騎士隊なので、今日は客としてパーティーに参加してもらうことにした。警備が手薄になってしまうので、この前の旅で一緒にダズベリーまで行ってくれた、ホルガーとスザナのニデラフ兄妹きょうだいが泉邸の警備をしてくれることになっている。有り難い。


 イライザからの依頼に応じて、泉邸のシェフのジョリーも昨日からラヴレース邸に応援に来ている。女性スタッフの腕の見せ場だというので、随分張り切っていたようだ。

 さらに、「選手権」優勝者のアミーにも来てもらって、主にジョリーが仕事をしやすいようにサポートをお願いすることにした。アミーは例の記念行事のパレードの時に「獅子吼ししく隊のブラウンさん推し」だと公言していたので、二つ返事でサポートに回ってくれた。


 セーラがやって来て今日のドレスを見せてくれる。

 白を基調にしたロングドレスで、露出は控えめ。それでもやや深めのスリットから見える見事な足とか、うっかり抱きつきたくなるウエストのくびれは素晴らしい。

「あのさ、デレク」

「何?」

「時々、内心の感動が素直に口から出てるよね」

「あ」

「気をつけなさいよ」

「……はい」


 夕方近くになって続々と馬車がやってくる。

 エントランスで出迎えるのは主催者であるセーラと、そのである俺の役目だな。今回も『人名録フーズフー』には活躍してもらわないとな。


 まずやってきたのは白鳥隊、ウィング・シックスの同僚であるシャーリー。ピンクの髪に栗色の瞳、例のアジトに突入した時はドレスを切り裂かれながらも大活躍だった。

 シャーリーとは記念行事の舞踏会で踊ったので俺とも面識がある。今日は背中が大胆に開いたマーメイドタイプの赤いドレス。

「セーラ、今までお勤めご苦労様」

「ありがとう、シャーリー」

「デレクさん、これからセーラをよろしくね」

「もちろんです。お任せ下さい」

 去っていくシャーリーをぼーっと見ていたら、セーラに指摘されてしまう。

「デレク、ドレスの背中に見とれてたでしょ」

「……そ、そんなことはないさ(声が裏返っている)」


 こんな調子で、来客一人ひとりに対応するのが結構大変。


 ブライアンがやって来た。

「やあ、セーラ、デレク。今日は楽しませてもらうよ」

「あれ? ミシェルは来ないの?」

「えっと、後からアンソニーと一緒に来るはず」

 なるほど。ブライアンの婚約者のミシェルは、兄のアンソニーが元騎士隊だった。


 ブライアンが言う。

「知ってる? アンソニーはカメリアと婚約するつもりらしいよ」

 セーラも驚いている。

「え。マジ? そっかあ。何か怪しい雰囲気だったけど」

 カメリア・ブレントもウィング・シックスの一員だ。この前の騒ぎの時に間近で見たけど、栗色巻毛のスタイルのいいお嬢さんだったなあ。


 ウィング・シックスのヴィオラがやって来た。金髪で鳶色の瞳。今日は露出控えめな落ち着いたドレスながら、相変わらずの素晴らしいプロポーションである。あ、スリットが深い。これは素晴らしいなあ。

「セーラ、お勤めご苦労様でした」

「ありがとう、ヴィオラ」

「デレクさんは初めまして、かしら?」

「はい。よろしくお願いします」

「セーラ。デレクさんってさあ……」

「なになに?」

「ダニッチさんに似てない?」

「あ、あははは、何言ってるのよ、もう。ヴィオラは相変わらずねえ」

 ちょっと冷や汗、出た。


 ちょっと見ていたら、パーティーのサポートに来ていた侍女のイヴリンを見つけて楽しそうに話をしていた。姉妹が仲良くしているのを見るのは心が和むね。

「デレク、きょうだいそろって胸が大きいなあ、とか思ってたでしょ」

「……そ、そんな(ちょっとむせた)」


 フレッドがやって来る。

「やあ、セーラ。デレクは久しぶりだな」

「あれ、今日はドロシーは?」

 ドロシーはフレッドの妹で、ハワードの事実上の婚約者である。『読心』のスキルを持っている。

「今日はちょっと風邪気味でねえ」

「あら、それは残念ね」

「デレク、ケイさんはどうしてる?」

「ケイはねえ、俺の兄貴の奥さんが身ごもってるので、ダズベリーで護衛役なんだ。テッサード家の跡継ぎが生まれるかもしれんからな」

「あ、そうなのか。それはそれは」


 見た覚えのある、すごいオーラの男性が現れた。胸板も厚いし、威厳に満ちた風貌は只者ではない。『人名録フーズフー』で確認。ドン・ランドルフ、獅子吼隊の隊長である。

「お邪魔するよ、セーラ。これまでお勤めご苦労だったな」

「隊長、ありがとうございます。紹介します、これが婚約者のデレク・テッサードです」

「デレクです。よろしくお願いします」

「おお、君が噂の。うんうん。騎士隊のメンバーでもな、君のことを羨んでいる者が大勢いるから、寝首を掻かれんようにな。はっはっは」

「もう、隊長ったら」

 なかなか豪快な人物のようである。


 リーアム・ブラウン氏がやって来た。多分初めてお目にかかるが、アミーのだけあって、イケメンである。俺はイケメンを形容するボキャブラリーはあまり持っていないが、ブライアンが正統派の派手めなイケメンだとするなら、ブラウン氏は渋好みのイケメンとでも言えばいいのか?

 周囲をさりげなく観察したら、お目々をキラキラさせたアミーが会場の一角からこっちを見ていた。うん、良かったな。


 マーカス・ブレント氏。黒髪で灰色の瞳、俺と同い年だ。

「こんにちは。デレクさんとは舞踏会でご一緒でしたね」

 あ。同じクラスタだったっけ。男性とは踊らないから忘れてたよ。危ない、危ない。えっと、シャーリーの従兄弟で、騎士隊に所属、か。

「そういえばセーラ、婚約は成立していない、みたいな雑誌記事が出てたけど……」

「あ、あれねえ」

 途端にうんざりという表情のセーラ。

「枢機調査室の勇み足ってことで国王陛下が宣言を取り消してケリが付いてるんだけど、訂正記事が出るわけもなくてねえ」

「そっか。ああいう手合には困ったものだな」

 残念ながら、まだあの記事を鵜呑みにしている人もいるんだろうなあ。


 パーティーが始まり、そこここで会話が盛り上がっているが、さすがに騎士隊のメンバー、声がでかい。特にランドルフ隊長のデカい笑い声はどこからでも聞こえる。


 セーラの弟、ジーンが手持ち無沙汰にしている。彼は騎士隊の下部組織で体力づくりをしているそうだが、今日はあまり知り合いはいないらしい。

「ジーンは騎士隊で体力づくりしてるんだっけ?」

「まあそうだけど、やってるのは体術や剣術の基礎的な訓練かなあ」

「公爵家にはニデラフ家とか、そういった武術方面の人たちもいるんでしょ?」

「そうなんだよね。今、何日かに1回、ニデラフ流の訓練も受けてるけど、あれは打撃技が特徴的でね、上級者になると厚い木の板を素手で割ったりできるんだよ」

「へー」

 それって、空手?

「フレッドが実はニデラフ流の上級者のはず」

「そうなんだ。それは知らなかったなあ」


「エヴァンス伯爵家にはクデラ家ってのがあって、あれはまた一種独特」

「あ、セーラと組んだら、たちまちやられちゃったよ。あれだよね」

「そうなんだよ。あれは護身術って側面が強いけど、ミシェルもフローラも実は強いからなあ。多分、今でもかなわないと思うんだ」


 という話をぼそぼそしていると、ミシェルがこっちにやって来る。

「あら、デレクとジーン。セーラの悪口でも言ってるの」

「おいおい、ご挨拶だな」とジーン。

 ミシェルとフローラの姉妹は妖精級に可愛いが、口が悪い。特にミシェル。


「ミシェルがクデラ流に熟達していてとても強い、って話をしてた」と正直に言う。

「うふ。ありがとう」

「兄さんのアンソニーは?」

「アンソニーは一通り修練してるから、どこからどう攻められても負けないと思うわ」

「それ、すごいな」

 総合格闘家か?

「でもね、ブライアンには何か別の才能というか、実戦向けのセンスみたいなものがあるようで、現場でのブライアンには感心するばかりだ、ってよく言ってるわ」

 婚約者を自慢するミシェル。

「そっか。スキル持ちエクストリだからな」


「え? 何って?」

 あ。しまった。


「エクストリ? って何?」とミシェルに突っ込まれる。

 悪いことに、ジーンが知ってた。何で知ってるんだ。

「スキルを持ってるってことだよね?」


 しょうがないからこっそり教えておくか。実害があるようなことでもなさそうだし。

「えーっと、ブライアンはね、『戦闘』というスキルを持っているらしいんだ。具体的にどんな能力なのか分からないけど、名前からして戦闘の時に常人以上のセンスを発揮するってことじゃないかな」

 ミシェルがすっごく嬉しそうな顔をする。

「え! そうなの? 素敵じゃない! さすがブライアンね」


「今日、来てないみたいだけどドロシーのことは……?」

「あ、知ってるわよ。でも、秘密なのよね」

「ドロシーのスキルほどではないけど、大っぴらには言わない方がいいのかなあ」

 するとジーンが冷静なコメント。

「ブライアンの場合、スキルがあります、って言われても、たいていの人が、ああ、そうなのか、やっぱりね、で終わりだから問題なさそうだよね」

「確かに」


 ふと見ると、アミーが飲み物を乗せたトレイを持って、ちゃっかりブラウン氏の所へ行って「お代わりいかがですか?」なんて言ってる。ふむふむ。

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