口止めの理由

 スワンランドに到着して昼食。


 オーレリーに話を聞く。

「あのさ、王妃の息子のガストンって人が次の王様になりそうなんだけど」

「あれ? ウォーレンが王太子だよな?」

「なんか、病気で亡くなったらしい」

「ああ。なるほど。しかし、ガストンか。ガストンは、はっきり言ってボンクラだぞ」

 オーレリーにボンクラ呼ばわりされるということは相当?


「コレットって側室の人、知ってる?」

「知ってる知ってる。国王陛下が手籠めにして無理やり側室にした人だよ。名目上は第2王妃なんだけど、あたしなんかとも仲良くしてくれるいい子だよ」

 オーレリーはあっけらかんと教えてくれる。


「その人はガッタム家と関係ないみたいなんだけど、息子が担ぎ出されて国王になる可能性はどうなんだろうね?」

「継承順位通りなら無理だろうけどねえ」

「ふむ」

「だけど、コレットは王家だけじゃなくて、国の行く末も考えているらしい。なかなかに尊敬できる女性だ。何をどこまで考えているのかは分からないけど、王が亡くなった今、何か動きを起こす可能性はあるかもしれないな」


 オーレリーにだけ聞こえるようにこっそり聞いてみる。

「……王宮のメイドはパンツをはいてないみたいだけど」

「あはははは。デレクは何でも知ってるなあ。あはははは」

「それってやっぱり……」

「そうだよ」

「いつでもどこでも?」

「うんうん」

「それって酷くない?」

「なんで? メイドは承知の上だから何の問題もないぞ」


 はー。世界は広いなあ。

 あ、でもローザさんもそんな話をしていたな。つまり、昔から人間のやることは一緒ってことか。なるほど。


 セーラが訝しんでいる。

「何の話?」

「いや、王宮は可愛い子猫でいっぱいだよ、という」

「本当かなあ。オーレリー、本当は何の話してたの?」


 やばい。


 オーレリー、俺の方をちらっと見て言う。

「子猫ちゃんがいっぱいというのはほんとうだ(棒読み)」

「へー。……まあいいわ。今度あたしも見に行ってみようっと」

 それまでにメイドたちがちゃんとパンツをはいてくれることを願う。

 そしてオーレリーも少しは空気を読んでくれるのにちょっと感動。


 午後はエメルとノイシャが交代。オーレリーは平気だと言っているが、明日は半日休んでもらおう。


 で、俺とセーラは桜邸に転移。チャウラとガネッサにガッタム家の情報を色々と聞いてみようというわけだ。お土産にスワンランドで評判というクッキーと紅茶セットを持っていこう。


 桜邸のリビングに転移。おや? キッチンの方から複数の男の声が聞こえる。

「……というわけで、俺様達が用心棒としてここに住んでやろうっていうわけだぜ」

「そんな必要はありません。出て行ってくれませんか」

下手したてに出てればつけあがりやがって。ちょっと痛い目を見たら……」


 ちょっとドタバタと音がする。ちょっとヤバイかな?


 キッチンに駆けつけたら、チャウラとガネッサがそれぞれヒゲづらの怪しい男を組み伏せている。

「痛てててて」


「あ、デレク様、セーラ様」とガネッサがこちらを振り向きながら言う。

「どしたのこれ?」

「怪しい奴らが勝手に入り込んで来たので正当防衛です」


 ふーむ。どうせ、王都あたりから流れてきた兵隊くずれだろう。

 しかしさすがに2人とも元冒険者だ。


「面倒だけど縛り上げて、村の自警団に引き渡すか」

「あ、昨日ちょうど荷馬車が届いたんで、あたしが連れて行きますよ」とチャウラ。

 自警団には俺も一緒に行くことに。


 縛り上げた男たちは何かをワアワア言っているが、無視して荷台に放り込む。

 村の道は舗装もされていないので荷馬車がそりゃあ揺れること。しかし、チャウラは何事もないかのように乗りこなしている。たくましいなあ。


 自警団に到着。だが誰もいない。

「普段はそれぞれ別の仕事をしてるから、昼間は誰もいないんです」

 そう言いながら、チャウラは軒先に吊るされていた鐘をハンマーでカンカンカンと叩く。


「慣れたもんだな」

「前にも同じようなことがありましたんで」

「やっぱり兵隊くずれみたいな?」

「そのようです。王都での戦闘が終わったものの、給金が出ないので郷里に帰る金がないらしいです」

「で、手っ取り早く強盗みたいな真似をするのか」


 しばらくしたら農作業中だったらしい屈強な男がひとり駆けつけてきた。

「あ。またチャウラさんか」

「こんにちは、トシャックさん。えっと、こちらはあの別荘の持ち主のデレクさん」

「あ、はじめまして。自警団の今月のヘッドをやってるトシャックです」

「デレクです。ご面倒をおかけします。……捕まった奴らはどうなるんです?」

「最近、兵隊くずれが事件を起こすことが多いんで、警ら隊が毎日巡回してて、それに引き渡すことになりますね。家宅侵入程度なら、1週間ほど土木工事なんかをさせられて、ちょっと給金を渡して郷里へ返す、というのが普通みたいですよ」

「なるほどね」

「あの別荘は可愛い女の子2人しかいないから狙われやすいんですよ」

「そうかあ。……男も警備要員で必要かな?」

「いえ、今日みたいに撃退しますから問題ありません」とチャウラ。

「そう?」

 まあ、男がいたら面倒か。


 桜邸に戻ったら、ガネッサとセーラがお茶の用意をしてくれていた。

 さて、やっと本題である。


「まず一番聞きたいのは、エスファーデンの特務部隊が探している『例の文書』とは何か、なんだけど」

 するとガネッサが言う。

「あたしたちは連絡係なので、具体的に何なのかは知らないんですけど、確か、ゾルトブールの王宮に収蔵されている昔の文献らしいです」

 チャウラが補足。

「なんでも、『聖体』に関する重要な情報が隠されているらしいです」


 また出たな、「聖体」。


 セーラが聞く。

「その『聖体』って、そもそも何?」

 ガネッサが言う。

「それは『ラシエルの使徒』が重要視している遺物で、魔王軍が現れるよりも前の、世界の成り立ちに関係する人物の遺体だと言われています」


 するとチャウラが反応する。

「あら。あたしは遺体じゃなくて、遺品だって聞いてるわ」

「でも『聖体』というくらいだから身体じゃないの?」


 そのあたりから既に明確ではないのか。


「その『聖体』が手に入ると何かいいことがあるのかな?」

 ガネッサが言う。

「神秘の白い宮殿に入る方法が分かるらしいです」

「え? 何それ?」とセーラ。

「白い宮殿の中には、世界のありように関する真実が隠されていて、そこに出入りするには『聖体』が必要だというのが、『ラシエルの使徒』の主張です」


 それってやっぱり謎研修所のことかなあ。マリリンの話にも出てきたし。


「俺が聞いてるのは、世界のありように介入して、自分たちの望む世界にするのが目的らしいということなんだけど、どうなの?」

 これはハワードに聞いた話だ。

「ちょっと分かりません」とチャウラ。ガネッサも知らないという。


「ザグクリフ峠でマーズィが、『ラシエルの使徒』のリーダー格の男を口封じで始末したじゃない。あれはどんな情報が漏れるとまずいから?」

 マーズィはチャウラと『耳飾り』のペアだった男だ。


「まず、リーダーのカドマは『ラシエルの使徒』の伝道師長に面会したことがあるらしいので、その人物の名前と、本部に関する情報ですね」とチャウラ。

「本部はエスファーデンにあるって聞いたことがあるけど?」

「フォリシスという町。場所は分かりませんが結構な田舎らしいです」

「伝道師長ってのは、『ラシエルの使徒』の一番偉い人ってこと?」

「そういうことですね。名前は知りませんけど」

 ガネッサが知っていた。

「えっと、確か、ヌリア・アザロフっていう女性です」

「ガッタム家が支援してるって?」

「ええ」


「でも、その程度の情報なら口止めするほどでもないよね?」

「カドマはカルワース男爵と通じていたので、ラカナ公国内の協力者もだいたい知っていましたし、資金の流れも把握していたはずです」

「ああ、なるほどね。じゃあ、カルワースの息子の監視役を買収……」

 チャウラが驚く。

「何で知ってるんですか?」

 あ、そりゃ、ね。

「いや、聞きたいのは買収して何をしたいのか、なんだけど」


「カルワース男爵の長男のハリスは暴動の時に火災で亡くなってしまっていますが、彼はもっぱら鉱山の開発などの仕事を担当していました。次男のグリフィスは慈善事業と称して『ラシエルの使徒』の幹部として活動していました。その活動を継続するために監視役がいると面倒ですからね」

「なんてこった。じゃあ、カドマがいなくなった現在、グリフィスがラカナ公国の教団組織のエラいポジションなのかな?」

「そうです」

「ガッタム家とも通じてる?」

「ええ」

「女のきょうだいが2人いるけど、そっちは?」

「長女のレイラは関係があるはずです。次女の話は聞いたことありません」


 これは是非、エドナに言っておかないといけないな。


「カルワース男爵は『産業革命』を夢見ていたと聞いたことがあるけど、知ってる?」

「いいえ、初耳です」

 あれれ? じゃあ、産業革命という情報はどこから来たんだろう?


「やっぱり、その『例の文書』の具体的なことが分からないとなあ」

 セーラが尋ねる。

「そもそも、その文書が重要だとか、ゾルトブールの王宮にあるとかいう情報はどこから得られたものなのかしら?」


 ガネッサが思い出しながら言う。

「古文書の研究をしている学者からの情報ですね。えっと、タイラス・ハグランドっていう人です」

「はあ?」

 ハグランド?


「あら? デレクの知り合いじゃなかったかしら?」とセーラ。

「ハグランドって、『ラシエルの使徒』と関係があるの?」


 するとガネッサが冷静に言う。

「いえ、やはり古文書の研究をしているガッタム家に近い人物が、ハグランド氏と手紙のやり取りをしている中で掴んだ、確度の高い情報とのことです。ハグランド氏自身は、もっぱら学問的な興味しかないと思います」

「あー。ちょっと安心した」


 イヤーカフでエドナに連絡。

「あら、デレク。何かしら。こっちに来ればいいのに」

「えっと、急いで伝えるべきことがありまして」

「何かしら」


「例の『ラシエルの使徒』ですけど、カルワース男爵の次男のグリフィスがラカナ公国内の幹部らしいです」

「え?」

「長女のレイラも関係がある模様で、さらに、グリフィスに付いている監視役はすでに買収されているという情報があります」

「それは問題よね」

「デームスール王国のガッタム家から『ラシエルの使徒』に資金が流れていますので、グリフィスの周辺にも渡っている可能性は高いですね」

「あの団体は国内での活動禁止になっているから、本当なら犯罪よね。でも、知らぬ存ぜぬで突っぱねられる可能性もあるわよ?」

「最低でも監視役を交代させるべきです」

「そうね。了解」

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