だから飲まない方がいいって言ったのに
リズとメロディと一緒に朝ごはんを食べていると、ケイが起きてきた。
「おはよう。あたまいたい」
「だから飲まない方がいいって言ったのに」
「あー」
「さっきクリスさんが来たけど、帰っちゃったよ」
「あー」
「リズとメロディが抱えて帰ってくれたから、お礼を言っておきなよ」
「……リズ、メロディ、ごめいわくをおかけしました」
「いいけど、ケイ、なんか酒臭いから、ご飯食べたらシャワーした方がいいんじゃない?」
「あー」
セーラが起きてきた。
メロディのパジャマを着ている。今日のパジャマはデザイン的に露出は少ないけど、あちこちにフリルが付いたりしてちょっとお子様っぽい。それがまた超絶可愛いじゃないですか。
「おはようございます。あのー。なんで私、またここにいるんでしょう?」
「ああ、それはね」と、昨夜の狂乱の顛末を解説する。
「きゃあー。ごめんなさいい。わああ、もうあたしったらああ」
「いいですよ。別に誰も怪我したり、物が壊れたりしたわけじゃないから」
「でもそんなご迷惑を……。このパジャマは?」
「メロディのだってさ」
「昨日に引き続き申し訳ないです。……あれ、なんか私、随分さっぱりした気がします」
「生姜の煮汁まみれだったから、リズとメロディが身体中を洗ってくれたらしいよ」
「うわ。……もう、なんとお詫びをしたら良いものやら」
メロディが朝ごはんを持って登場。
「おはようございます。朝ごはんをどうぞ。コーヒーより紅茶がいいですか?」
「ありがとうございます。正直、頭が痛いです」
「二日酔いですかねえ」
「昨夜、私変なことしませんでしたか?」
唇を奪われたことを思い出したが、まあ、忘れよう。
「いえ、酔っ払ってぐにゃぐにゃでしたけど」
「そうですか。……以前、私、酔った挙句、大声で喚きながらあちこちにファイア・バレットをぶっ放したりしたそうで、……いえ、私自身は覚えていないんですけど」
それはひどい。
「ふふふ。まさにご乱心ですねえ」とケイ。お前が言うな。
と、ケイが気づく。
「あれ、メロディとリズであたしを連れて帰ってくれたということは?」
「あー。うん。ぐにゃぐにゃのセーラさんは俺が背負って帰ってきた」
「え、そんなあああ。もう、死にたい」とテーブルに突っ伏すセーラさん。
「ごめんなさいね。なんか半分意識なかったし」
「わー。お嫁に行けないわー。わーん、しょうがない。このままここに置いてもらおうかしらー。そうだ、そうしよう」
「あの。棒読みで何言ってるんですか」
「あははは。セーラさん、おもしろーい」とリズは大喜び。
「えっと、今日、聖都に帰るんじゃなかったんですかね?」
「うー。頭が痛くて無理。このまま馬に揺られて帰るなんて地獄」
二日酔いでは乗馬は無理だろうなあ。
「あんなに飲まなければ良かったんですよ」とケイ。お前が言うな。
「ごめん下さい」
エントランスに誰かが来る。
「はいはい」と顔を出してみると、ブライアンである。従者が後ろに控えている。
「あ、おはようございます」
「セーラはどうしてますかね」
ダイニングのセーラに聞いてみる。
「ブライアンが来たけどどうする?」
「入ってもらっていいです」
「まあ、お入り下さい」
一目見るなり、爆笑のブライアン。
「あははは。可愛いパジャマ着て。こりゃいいや。なんか馴染んでるし。もうこのままここに置いてもらったらいいんじゃないかなあ、あははは」
「いやいや、冗談は置いといてですね」
「あ、失敬。それにしても、あれだ。……ぷっ、くくくく」
思い出し笑いが堪えられないブライアン。
「何笑ってるの、ブライアンは」と少し不機嫌なセーラ。
「だって、昨日はひどい有様でさあ。いや、ほんと、デレクとかメロディさんとかにお礼を言わないとダメだよ」
「そんなに酷かった?」
「もうねえ、セーラの生姜の煮付けが出来上がっててさあ、あははは」
「うわー。もうお嫁にいけないからここに置いてもらうー(棒読み)」
「あの、ここで茶番を演じないでくださいよ」
「いやあ、昨日は楽しかったねえ。さて、今日これから帰れる?」
「頭が痛くて無理」
「あたしも無理」とケイ。お前は帰らないだろう。
「ブライアンとフレッドだけ先に帰ってもいいよ」とセーラ。
「それだと、セーラが帰るのが遅れた理由をお父様に説明しなければならなくなるよ」
「うわ。それはまずい。……3人で何か取り調べ的なものに立ち会って日程が1日伸びたことにしてくれるかな」
調子のいいセーラ嬢である。
「わかったわかった。えっと、事の顛末はもう早馬で聖都に向けて知らせておいたから、あとは盗まれた品物を持って帰るだけだよ。だから、そんなに急ぐ必要はないけど、あまり遅いと何してたんだ、って言われるかな?」
質問してみる。
「あの、皆さんは聖都からずっと同じ馬に乗ってきたんですか?」
「そうです。あのザニックという男を従者に追跡させて、それを追って来た結果、ここまで来たわけです。途中で馬を交換する可能性もありましたが、今回はそれには及ばなかったということですね」
「じゃあ、1日くらい馬を休ませてもいいのでは?」
「確かにそれもありますね」
「追跡は難しくはなかったですか?」
「いや、それがね、最終的にどこまで行くのかは分かりませんでしたけど、あの男は船や乗り合い馬車で移動していましたので、結構楽な追跡でした」
「あの男が盗品を持っていたわけではないんですよね?」
「ええ、盗品をどうやって輸送したのかはまだ分かっていませんが、逆に、だからザニックは油断しまくって呑気に移動して来たのだと思います」
「そもそも、ザニックはどうして目をつけられたんですか?」
「密告です」
「ほう」
「当初、捜査は手がかりすらほぼ皆無でしたが、密告に基づいて調べると、状況証拠がことごとく一致する。さらに密告では、聖都から逃亡してダズベリー近辺で盗賊団と合流するとも予告されていたので、追跡して盗品の取り引きの現場を押さえようと」
「なるほど」
密告したのは誰だろうか。売春組織あたりに恨みのある者か?
「じゃあ、今日は1日、このあたりでぶらぶらして過ごすとするかなあ。デレクくん、何か面白いものはないかな?」
「そうですねえ、聖都から来た人が面白いと思うかは分かりませんが……」と、いくつかの旧跡とか、見晴らしのいいスポット、地元料理を出すレストランなどを教える。
「セーラはどうする?」とブライアン。
「うー、頭が痛いから、もうちょっとここで休ませてもらいたいけど。いいですか?」
「何もないですけど、どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとう」
「じゃあ、夕方には戻っておいでよ」とブライアンは去っていった。
セーラもケイも、頭が痛いからとお茶を飲み終わるとベッドルームへ戻って行った。
さて、時間ができたし、魔法システムの気になる点を整理しておこう。
まず、魔法のレベル設定について。
魔法が使えない、つまりレベル0の人に1以上のレベルを設定したらどうなるか。たとえばケイが魔法を使えるようになると鬼に金棒ってヤツだと思ったのだが、これはできない。書き込んでも値が反映されないのだ。
魔法が使えるというのは、その人が魔法サーバと情報通信するという脳機能の問題らしいので、元々使えない人は使えるようにならないらしい。
レベルを引き上げるのはどうか。俺とリズは 256 というレベルに設定してあるが、これは他の人には適用できないようだ。守備隊でダンジョンに行ったとき、事前にカーラのレベルを高めに設定できないか試してみたのだが、どうもダメ。基本的にその人の持っているレベルより高くには再設定できない。俺とリズが設定できているのは、管理人の特権があるからのようだ。
ただし、低い方には設定できる。『
このあたりが変更できれば大魔道士が作りたい放題になってしまうが、そういうわけにはいかないようだ。
次は、行ったことがない場所に転移魔法で行くにはどうするか、という問題を探究してみよう。
位置を指定して何かをする魔法は、転移魔法以外にもある。
たとえば、ライト・ランタンで明かりを出す時は、手のひらの座標から上に6センチの位置で魔法が起動されるようになっていた。攻撃魔法では、攻撃目標を目視して、その視覚情報を画像解析して位置の座標を求めている。
これらはいずれも、術者の位置を元にした相対的な位置情報を使っている。
転移魔法でどこかに行く時はどうなのだろう。
久しぶりに管理システムの端末を使って、転移魔法のソースファイルを探しに行く。転移魔法はシステム魔法のひとつなので、そのあたりにあるはずだ。
魔法プログラム『
転移魔法のプログラムは起動されると、ザ・システムに対してシステムコールをかけて、術者の思い描いている場所の情報を取り出すらしい。この情報の正体は分からないが、ここでさらに別のシステムコールを使うと3次元座標が得られて、転移ポッドの移動先を指定するためにはこの3次元座標を使う。
ということは、行ったことがない場所でも、転移ポッドに渡す3次元座標さえ正確ならそこに転移できるはずだ。
つまり、場所Aと、そこから東へ10キロ離れた場所Bには行ったことがあるとすると、さらに東へ10キロ離れた場所Cの座標は、AとBの2つの場所の座標から計算できるはずだろう。
こう考えて何カ所かの3次元座標を取り出してみたのだが、どうにも脈絡のない値しか出てこない。
「あれ?」
調べ直してみると、同じ地点でさえ、時間をおいて座標を取り出すと値が違う。
なんだろう……。たとえば惑星の自転の影響とか?
一定時間ごとに同じ場所の座標を取り出してプロットしてみたが、法則性があるようなないような。
どういうことだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます