第42話 NTR、逆襲のコスプレ男
「榎本が本気なのはわかった。
一対一で戦おう。しかし条件がある」
ジェフは例の吹き替え版を思わせるイケボで言った。
「俺が勝ったら、安子を解放してもらう」
そんなジェフの条件を飲めるわけがない。青梅財団本部でのジェフ対榎本を見たが、とてもじゃないが榎本に勝目はない。
榎本が本気を出したところでなぁ…
そうだ、これならどうだ。
「わかった。榎本が参ったと負けを認めたら、あんたの勝ちだ。いいな?」
「わかった」
とジェフは俺の出した条件に同意すると、タキシードの上着を脱ぐ。
ここは榎本の本気とやらを信じよう。仮に榎本が参ったをしても、それを認めず試合続行だ。
どうにもならなければ…
ジェフの背後にいる森本が意味深に笑みを漏らし、俺に目配せを送りウインクをしてきた。
俺の意図を理解したのであろう。
いざとなったら…、森本はやるだろう。俺もそのつもりだ。
「よし、始めようじゃないか」
榎本の気取った言い回しの一言が戦い開始のゴングとなった。
ペヤングが真ん中で見守る形で榎本とジェフは向き合い、そこへ銃を構えた俺と森本とパリスが囲む。
榎本は軽いステップでジェフの周りを蝶が舞うかの様に…、
本人的には華麗なステップのつもりなのだろうが、厚底靴を脱いだ榎本の動きは、脱ぐ前よりも少しばかり早いかな?の程度であった。これは期待出来ない…
榎本がローキックを放ったその刹那、ジェフはカウンターのパンチを合わせてきた。
榎本はその一発を喰らい、ひっくり返る。
「ジェフ!素敵ぃ!」
ペヤングの歓声にジェフは右腕を上げて応える。
「安子!もう少しの辛抱だからね」
「ジェ〜〜フ〜〜ぅっ!」
そんなペヤングの様子を見て、榎本は恨めしそうな表情を浮かべながら立ち上がる。
以降、同じような流れが繰り返される。榎本か立ち上がり、ジェフにいいのを喰らい吹っ飛ばされ、その都度、ペヤングが乙女の様な表情で歓声を送る。
所詮、榎本が丸腰でジェフと戦う等、無理なことなのだ。
ジェフがヘビー級のボクサーだとしたら、榎本は身長160センチ弱の素人。論外であろう。
ジェフにいいのを喰らい、吹っ飛ばされるの流れを何回繰り返したことか。
榎本は上体を起こし、遂に涙を流し始めた。
「もう駄目だ〜っ」
榎本のその一言には、既に格好付けた言い方をする余裕すら消え失せたようだ。
榎本は顔を腫らして鼻血を流し、涙を流し、口からはヨダレまでも出している。
無様、まさに無様というものを具現化したかのようだ。
「榎本、これはまだ準備運動程度だぞ」
とジェフは言った。確かにそうであろう。この体格差と技術差なら榎本は既に、ボロ雑巾のようにされていても不思議ではない。
「ジェフ!もうトドメ刺しちゃって」
「安子がそう言うのなら」
ペヤングの一言に、ジェフは思い切りニヤける。
「もう駄目だ、駄目なんだよ〜っ、
まい」
と榎本が言ったその刹那、
「参ってねぇよ!参ってねぇ!榎本さんはまだやる気満々だってよ!」
榎本の“参った”を掻き消す様に森本が叫んだ。
「榎本!榎本!」
森本は榎本の声を掻き消すかの如く、榎本コールを送る。俺とパリスもそれに続き、榎本コールを送る。
ジェフはニヤけながら、榎本との距離を縮めた。
「榎本、ほら皆んなが榎本コールをしてくれているぞ。立て!立てよ!かかってこい!」
ジェフは余裕綽々な態度で榎本を見下ろす距離にまで近づき、小馬鹿にするかの如く、榎本の頭を平手で叩いた。その刹那のことであった。
ジェフは急に声にならない悲鳴を上げ、そして腰を屈め、股間を両手で押さえ始めた。
何事かと思い、目を凝らしてよく見る。
榎本の腕はジェフの両足の間、股間を捉えていた。
榎本はジェフの急所を叩いていたのだ。
「こりゃ、傑作だぜ!」
その様子を見た森本は高笑いする。
「榎本さん!あんた最高だぜっ!」
榎本は森本のその声に呼応するかの如く立ち上がり、近くにあった花瓶を手に取ると、その花瓶を両手に持ち、天高く振り上げ、そのまま屈んでいるジェフの頭へ振り下ろした。
花瓶の砕ける音と共に、それは粉々に砕け散った。
榎本はさらに近くにあった、木製の椅子を手に取り、それをジェフの頭へと振り下ろした。
重い殴打音が鳴り響いた。さすがのジェフもこれは効くだろう。
榎本はそのまま、椅子でジェフを連打した。
既に椅子は原型を留めていないまでに壊れていた。
しかし、ジェフはゆっくりと上体を起こした。
「榎本、急所攻撃からの凶器攻撃なんて男の風上にも置けぬ卑劣さ。許さない。この卑怯者め」
ジェフは額から勢いよく血を噴いているものの、表情一つ変えていなかった。
「これはルールなんてねぇんだよ!榎本さん!もっとやっちまえ!」
「ノールールか」
森本の一言に対し、ジェフは仁王立ちでそう答えると、電光石火のような一撃を榎本の顔面へ放ち、仰向けに倒れた榎本へ馬乗りとなった。
「やばいぞ」
森本がそう言ったのと同時に、馬乗りになったジェフは榎本の顔面へ拳を振り下ろし始めた。
一発、二発、三発、とジェフは榎本の顔面へ拳を振り下ろす。
森本からの視線を感じ、視線を返すと森本は“もう駄目だろう”とでも言いたげに首を横に振る。
それに頷くと、森本は自動小銃をジェフへと向ける。
その刹那、
「まだだ。まだ終わらんよ」
榎本はここにきて、某大尉の真似をした。
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