ある悪役に破壊される物語~残虐の化身たる冷酷貴族と化していた俺が生き抜く為の賢い選択とは?~

こまの ととと

第1話 気づいたら転生

 突然だが、バスディス・アグラディスという男について話をさせてもらいたい。


 帝国領に居を構える伯爵家の長子にして、歴代でも随一の才子である男。


 頭が切れ、武術に優れた非の打ち所がない男であり、完璧とは彼である。と称される事も多い。


 容姿にもすぐれ、彼の周りには常に人が溢れている。その笑顔を絶やさない姿勢が大変に好かれているからだ。



 しかしそれは彼の表の面に過ぎない。


 その本性は非道。人の道を外れた生まれながらにしての怪物である。


 人々は彼の本性を知らない、彼の本性を知る人間はその直後に彼自身の手で消されるからである。


 彼がその性格が表に出すのは気に食わないものを処分する時だけ。


 ゆえに人々は気づかない、その人の良い笑顔が慕ってくる人間は刈り取るための餌にすぎないことを。


 自らこそが最も優れた人間であり何をしても許される。神が人の世に使わせた現人神であると信じて疑わない。


 たとえ父親であろうと国王であろうと、全ては自分に蹴落とされるためだけに存在している人形にすぎないのだ。



 そんな彼の本性を本能で察した人間がいた。後に勇者と呼ばれる者達である。


 生まれながらにして邪悪を嗅ぎ分ける力を持ち合わせていたその者たちは、バスディスの悪事を白日のもとにさらすために奮闘。ついに、人々は彼の本性を知ることになる。


 取り繕うことをやめたい彼は野心をむき出しにして王族の皆殺しを敢行。自らがその玉座に座ろうというあと一歩のところで勇者達の手で阻止される。


 その優れた武術を持って勇者達を滅ぼさんとするバスディスも、偉大なる勇気の前に敗北。


 その最後は、腹の底から邪悪な笑い声を上げて自らの心臓に剣を突き立てるというものであった。



 そんなろくでなしの男に転生してしまったのがこの俺である。


「どうしてこうなったんだ!?」


 バスディスの自室と思われる鏡の前で自分の姿を確認する俺。


 どうあがいても、あの嫌われ者の姿。



 元ネタは原作なしのオリジナルアニメだったな。タイトルは思い出せないが、そこに出て来たこのバスディスという男が悪い意味で有名だったから知っている。


 作品のファンからは嫌われ、作品のアンチからは好かれるような男。その時点でもうどうしようもないが、それはどういうわけか今の俺の姿だ。


 これって転生だよな? ということは俺は死んだのか? いつ死んだ?


 うんうん唸ってもまるで思い出せない。バイトから帰ってきて疲れてそのまま自分の布団の上に倒れた、そこまでは思い出せる。


 これは一つ推測だが、もしかして寝ている間に何らかの理由で死んでしまったのか?


 冗談じゃない、と思っても現実こうなってしまったのだから仕方がない。この世には科学を超えたものがあったんだろう、こんな体験ならしたくはなかったけど。


 しかしこれはまずいぞ。よりにもよってこの男に成り代わってしまうなんて、このまま行けば勇者集団に袋叩きにされて死。いや最後は自殺だったけど、どうせ殺される。


 それだけは避ける必要がある。


 俺はバスディスの記憶を読み取って、今どのあたりまでシナリオが進んだのかを確認した。


 すると、バスディスは初めての殺人を犯そうと意気揚々と計画をしていたところまではわかった。


 ということは確実に原作の前、いくらでも修正が利くじゃないか!


 地獄になんとやら、とはこのことだろう。これがもし勇者達との決戦の直前だったら間違いなく死が確定していた。


 前世の自分がどうやって死んだかもわからないのに、訳の分からないうちにまた死にたくない!


 原作でのバスディスは登場人物と視聴者のヘイトを一身に集めたクソ野郎だ。こいつのせいで主人公たちは散々散々苦労して心身ともにボロボロにされたわけだから、間違いなく作中一の嫌われ者。


 その上、最後は笑いながら自殺した事もあって視聴者は全くスッキリ出来ずに制作会社のSNSに誹謗中傷が殺到して炎上してしまった。


 その惨状を面白がったアンチがスレを立てて盛り上げ、それを見たアニメファンが日夜アンチ相手に罵り合いを始めるという地獄みたいな状況がしばらく続いたのもよく覚えている。


 結局、事態が一旦の終息を迎えたのは放送終了後から三ヶ月後の事だ。よくもそこまで炎上し続けられるなと変に感心してしまったぐらいだ。


 それはともかくこのままでバッドエンドが間違いない。現状を打破しなければ……。


 今はまだ原作開始前、やりようはあるはずだ。


「帝国は長く続いた栄華を守る為に保守的な姿勢を崩さなかったんだよな。そこをバスディスに突かれて、王室が滅び去る羽目になった。上層部は革命に対するノウハウの無さと恐怖心からバスディスを恐れて国王の座を簡単に明け渡す始末。……そう考えるとこの国に未来なんて無いな」


 直接俺には関係のないように思えるが、仮に善玉のバスディスを振る舞って生きていこうとしても国としての寿命は長くないように思える。


 当然ながら俺はこの国に思い入れはない、そんな国と一緒に心中しようなんて思わない。


 折角の原作前なんだから、今後の身の振り方についても良く考えるべきか?






 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 応援、フォロー、★等をしていただけると嬉しく思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る