第27話 赤広未那は誤認した(していた)

「というわけで、キミたちには仮想演算回路を習得してもらおうと思います」

「わかるけど、わかるけど、わかるんだけどさー」

「三段活用にもなっとらんがな」


 例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の発言順番だ。

 未那はいつもどおりだが、莉愛と涼香はなんとも言えないような感情を顔に浮かべている。


「もうキミたちもVtuberとしてデビューしたようなものだし、そのうち生配信に出られるようにアバターと自分で同期できるようになって貰わないといけないからね」


「何がモヤモヤするって、勝手に配信されたこともそうだけど、みーなーのに比べるとちっとも再生回数回らなかったことー。かなりカットされてたし、あんまり露出度高いのに着替えさせられなかったのは、よかったんだけど」

「それな」


「まあそれは仕方ないよ。マリー・ハルカワのキャラがウケたっていうより、映像技術の新規性が注目の要だったんだから。同じような映像技術で、でもやってることにその映像技術を活かしているように見えるところがない上に、あんまり動きもないし、視聴者に語りかけるような構成でもないんだから、Vtuberの良さが何もないわけだし」


「それわかってて配信するみーなーはやっぱりぼうぎゃくブラコンなんだなって思いました」

「ホンマ、それな。

 てかな、ミナ。今後のこと考えるとむしろあれは配信せんほうがあのチャンネルにとってよかったんちゃう?」


「スズの言いたいこともわかるよ? チャンネルの方向性がブレちゃって、むしろ導線の妨げになりかねないっていうんでしょ?」


「うーぅん? どういうことー?」


「これはかなり個人差あると思うんけど、一つを見てチャンネル全体を判断するって人もいると思うんよ。んで、その一つの方向性ってか、テーマ? それを求めて見るわけやけど、なんか違うの混ざってるってなったら、なんか他の見るのしんどいってなってまって離れてまうこともあるんと違うかなって」


「まあ、なんか論理的じゃないけど多分スズが言いたいことは当たってると思う。前にちょこっと言った『テーマがブレるととっつきづらくなる』ってのが該当するんじゃないかな。

 チャンネル登録するくらいの人は、求めるものがある程度定まってる。その求めるものと違うのが入ってると、どれが求めているものかそのチャンネルの中から探さないといけなくなる。探すっていうのは手間だから、手間をかけるなら別の新しいのを探すのと変わらない。同じ手間をかけるのなら新鮮なほうがいい。なぜなら求めているのは初めてそのチャンネルを見たときの新鮮な感動なんだから。だったら続けて見る必要はないってなって離れちゃう。

 そんなところじゃないかってわたしは解釈してる」


「えーっと、神社で初めておみくじ引いたら大吉だったのに、次に引いたら大凶だったからその神社が嫌いになった、みたいな話?」

「ぜんぜんちゃうはずなんに、当たってるような気もする」


「どれも間違ってはいないというか、たくさんの人の行動原理を一つの論理で語るのはナンセンスだからね。この場合、Vtuberを見に来るような人っていう前提があるからある程度は傾向を絞れるけど、それだって千差万別だから。

 ついでにいうと、傾向を分析してそういう動画を作ったらあざとく感じて離れるって人もいるわけ。そういう人たちは決して最大公約数にはならないけど、かといって無視もできない。ネガキャン張られたりして足を引っ張られる要因になるから。まあそれも注目を浴びてからの話で、初期はそういう層を狙おうとしていたわたしの戦略は明らかに間違っていたんだけど、それが証明された形になったね、図らずも」


「ちょっとむつかしくてよくわかんないこともあるけど、でもじゃあー、なんで初めはそういう層を狙ったのー?」

「もしかその証明のためにウチらは犠牲になったんか」


「偏見かもしれないけど、魔法に興味を持つ人って中二病が多いだろうなって思ってて、そういう人たちはあざとい動画とか敬遠するかなって思ったから。

 証明のためっていうのは誤解だけど、上げる前の予想から外れはしなかったって意味ではその通り。

 それでも上げたのは、わたしたちをいわゆる箱にしようと思ったから。

 正直なところ、Vtuberとして成功したところでお兄ちゃんを配信者にするっていう目標につなげる方法は思いついてないの。

 かといって魔法普及に適しているかっていうとそうじゃないのは、マリー・ハルカワの配信での反応を見ててもわかると思う。

 ほとんどの人がマジメに魔法だって思ってないどころか、自称有識者が『こんなの魔法ではない』『魔法はもっとこういうものだ』みたいな的はずれな解説する始末。それがなまじっか『簡単な魔法』を使える自称有識者だったりするからよけいに始末が悪い。

 そんなちょこっと術式覚えたら使えるようなの使えるくらいじゃ魔法使いじゃないんだよ。少なくともわたしが求めるレベルじゃない。

 それなのに『何年くらい前にそういうストリーマーいたよな』とか訳知り顔で語ったり、『本物の魔法はこういうものです』とか自分の動画の宣伝に利用したり、『魔法を題材にするならこういうふうにしたほうがいいですよ(笑)』とか勘違いアドバイスしてきたり………


 ――ふ、ざ、け、ん、なぁ!!」


「び、びっくりした」

「たまってたんやな……昨日の今日なんにしては落ち着いてる思うたら」


「そりゃね? アンチや便乗が出てくるのは織り込み済みだったよ? 多くの人の目に触れれば必ずそういう層は出てくる。むしろそういう反応であっても拡散に拍車をかけることに繋がるからむしろプラス。……そう。拡散することだけが目的だったなら。


 でもわたしの目的はそうじゃない。そうじゃないんだよ。


 お兄ちゃんを配信者にするって目的に繋がらなかったとしても、魔法普及についてはできると思ってた。でもVtuberではどうやっても映像加工技術って受け取られてしまう。それどころか『本物の魔法』を誤認させる向きさえ生まれてしまっている。徐々に徐々に、『本物の魔法』を伝えていこうって思ってたけど、甘かった。映像加工技術と誤認されるのは想定内というか誘導してたけど、そういう無意識の反抗勢力カウンターが生まれるのは完全に予想外だったんだよ。


 カウンターというよりデコイかチャフ。森のせいで木が隠れる。悪貨が良貨を駆逐する。その可能性を考えてなかった。


 だから、方針を転換しました。


 不特定多数に向けて魔法を普及することは諦める。今のままじゃむしろ逆効果にしかならない可能性が極めて高いから。だからこれ以上、マリー・ハルカワのチャンネルを育てる気はないの。キミたちの動画を上げて勢いが止まるならちょうどいいくらい。


 新たな方針は、人気の箱を作って、Vtuberとしての映像加工技術を目当てにする人材を取り込んでいくこと。

 そして地道に『本物の魔法』が使える人を増やしていく。その第一歩として、その第一期生としてキミたちを取り立てるために、あれを上げました。

 もともと魔法修行の導入として編集していたから、ちょうどよかったんだよね。Vtuberの背景ストーリーの設定が組みやすくて」


「もういまさらだから上げる前に許可取ってーとは言わないけどー……言いたいけどー……。

 それより、なんか、部活立ち上げようとしてたときと似た感じがするんだけどー……これってだいじょうぶなの?」

「むしろ規模が大きくなってっからアカンかもしらん。

 これ、要は企業勢みたいなことを個人でやろういうことやろ? うまくいくかいかんかより、キャパ大丈夫なん? ミナ」



(続く)

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