第25話 赤広未那は実況した(された)
「違うの。つまりね、魔物討伐を諦めるんだったら生身で出る必要ないし、キミたちを出さないんだったら魔法修行とかしなくていいし、わたしの魔法リソースをキミたちに割かなくてもいいならできることも増えるし、どうやってお兄ちゃんに人気を受け継がせるかって問題は解決してないけど、どのみち時間かかるんだったらとりあえず注目度を集めておく分には問題ないし、バーチャルだったら生身よりもずっとそれが本物の魔法だって露見しづらいから思い切ったこともやれるし、だから違うの」
「みーなーすっごいパニくってる」
「たぶん使い魔とやらに体乗っ取られたいう事実を受け入れられんのやろな。かといって素の自分がこんなん演じたいうのも受け入れがたいってとこ」
例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の発言順番だ。
ただし、未那の発言は二人にまともに受け止められていない。
二人は未那をそっちのけで身を寄せ合ってスマホの音声を垂れ流しにしながら動画を覗き込み、未那をチラ見しながらその動画を分析していた。
そんな二人の様子に、未那はまたも「ぅなぁぁぁぁ……」と唸りながら両手で顔を覆って机に突っ伏してしまう。
「この使い魔ってキャラの設定とかじゃないの?」
「たぶん、マジ。ちらっと聞いたときある。仮想演算回路やらなんやらって、おにーさんのすごいところ聞かされたときに言うてた」
「でもみーなーが一人でVtuberやろうとしてたのは間違いないんだよね?」
「せやな。順序としてはそうなる」
二人は申し合わせたように同時に未那をチラ見する。
「ていうか、そっかー。みーなーってタイミング悪い人だったんだねー」
「言うほどかなと思ったけど、言われてみればそうやなって感じやね。
というか、この使い魔に体乗っ取られたこと自体、間が悪い言える。たぶん、ミナも兄バレでいっぱいいっぱいやって、その弱ったとこつけ込まれたんちゃうかな」
「スズちゃんがこの動画を見つけたことも、じゃない?」
「……せやね。まったくその通りや。ウチが配信チェックするようになったんはミナが動画作る言い出したからやしね。
自業自得言ったらそれまでやけんど、うまいこと間に合ってたらこないにはなっとらんわけで」
「それにしてもー……これ全部魔法でやってるんだよね」
「そのはずやな」
「信じてなかったわけじゃないけど、みーなーってホントにすごい魔法使いなんだなーって」
「この手抜きとかコメされてるとこも、よっく見てたらなんかすごいで。液と固体が分離する過程みたいのがチラチラ映り込んでる。なんていうか100倍早送り動画みたいな。これフレームが追いついてないんか。トリック映像として撮ったほうがウケるかもしらんね」
「それでー、あたしでも知っていればー、これが本物ってわかるってことはー」
「見る人が見ればわかるってこと」
「あれー? でもー、みーなーがあたしたちで動画作らないのってなんでだったっけー?」
「なんでだったかなぁ」
突っ伏した未那を二人はジト目で見つめる。
ちゃんと動画は一時停止しているのでその意図は明らかだ。
突っ伏してこちらを見ていない未那にもしっかりその意図が伝わるようにだ。
「だって、だって……っ! しかたないじゃん! キミたちはわたしと違ってっ……!」
勢いよく面を上げた未那は何か反駁しようとして、言葉を抑え込むように唇をかんだ。
「たしかにー、あたし別に動画にどうしても出たいってわけじゃないよー。でもさー、なんで隠してたのー? それならそうって言ってくれればー、たぶんあたし納得してたよー?」
特に糾弾するという調子でもなく、ただ本当に不思議だというように莉愛は首を傾げた。
涼香はいつものような合いの手もツッコミも入れず、じっと二人の様子を伺うようにしている。
「それならそう、ってどういう意味?」
「あたしたちを出すより自分だけでやったほうがよさそうだから、って」
「そんなこと言ってない」
「そうなの? あたしたちに魔法りそーす? っていうのを使わないならもっといっぱいいろいろできる、みたいなこと言ってなかったー?」
「それは、……そうだけど。だけどあれは、仮想演算回路が独立したから、できたことだし。わたしの処理能力じゃ、アバターを動かして喋りながらあれだけの食材処理なんか、できない」
「あたしでも話そらそうとしてるのわかるよー?」
「……自分をどう思ってるか知らないけど、たぶん、リアでもわかる、ってことじゃないと思う」
「マイペースっていうのはー、スズちゃんにも言われた」
涼香は「マイペースは言うたんウチとちゃうけどな」と小さくツッコミを入れる。
確かに涼香はテンポが違うとは言ったが、それはマイペースとイコールではないようだ。
「はぁ……。いいよ、わかった。なんでわたし一人でやったのかを聞きたいんだよね?」
「違うよ? なんで一人でやることにしたのをあたしたちに黙ってたのかってことー」
「すげえ」
涼香は自分だったらこうまで自分の質問の意図を誤魔化されないということができるだろうかと戦慄した。
本気で莉愛に感心したのだ。
涼香だったらはぐらかされていることがわかったとしても、保留するか誤魔化しに乗ってしまうだろうから。
「……キミたちに頼ったらいけないって思ったからだよ」
「なんで?」
観念したように、小さく溜息を吐いた未那は本音を告げた。
「学校で問題になったら、将来に関わるから」
「なんでいまさらなのー? あたしがきょひったとき、みーなー遅かれ早かれって言ってたと思うんだけど」
「だから魔法は教えるって言ったし。世情がいつ変わっても、変わらなくても、キミたちが適応できるように」
観念した未那は拗ねるように言った。
「スズちゃん……みーなーってもしかして、ものすごく優しい?」
「ツンデレやかんな」
「誰がっ、ツンデレか!」
(続く)
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