0023 闘技場

王国にある闘技場はおよそ2000名の観客が入る大きさで、アリーナの中、一段高い円形状の場所がリングとなる。

客の大半は博打うちなのだが、中には血を見たさに集まる趣味の悪い貴族達の社交場でもあるようだ。


場内アナウンスの声が闘技場全体に響く

「続いての試合はエキシビションマッチです!余りにも強いが為に誰も挑戦してこなかった、通称イバラヒメ!久々にリングに上がります!今日はどんな風に挑戦者を血祭にあげるかとくとご覧あれ!」


「・・・なぁ、ジギル。」

「はい、何でしょうかオウカ様。」

「俺にありったけの金を掛けといて!」


「対する命知らずの挑戦者は、突然のエントリーをした、オウカ!」

「なお、もしイバラヒメが負けた場合は、引退となるこの試合、目を離すことが出来ません!まもなく、ゴングです!」


カーン!闘技場に開始のゴングが鳴る!

その瞬間に、オウカ目がけて、槍?いや鞭が飛んで来た!

「え?」余りの速さに反応できなかったオウカの左頬を切り裂き、肉片が飛ぶ!

「痛てー!」思わず、叫んでしまった!


鋭い鞭はためらう事無く、首を狙って飛んでくる!躱すのが精一杯だ。

「あなたには、打撃は効かないからぁ~、斬撃中心になるのぉ~。」

オウカの右足首を鞭が捉えた!転倒を狙った攻撃!

・・・がオウカはピクリとも動かない。

「あれ、軽!最初、ジギルより強いんじゃないかって思ったけど、非力だな。」

足首に巻かれた鞭が強引に引っ張られたせいで、斬撃に変わり足首を切る!

「こうなったら、接近戦しかないな!」と突進して行くがイバラヒメは軽々と躱していく。

「あなたぁ〜強いと思ってたけど、戦いを知らないみたい〜残念だわぁ〜。でも安心してね~次で殺してあげる~。」

首をめがけて、一直線に鞭が飛んできた!


「うそ、でしょ?」イバラヒメはつぶやいた。

オウカは飛んできた鞭を素手で掴んだのだ。

無数にある棘が刺さっている手からは大量の血があふれ出ている。

「これで、俺の勝ちだぜ!イバラヒメさんよぉー!」


オウカはイバラヒメを手繰り寄せるように引っ張りイバラヒメの首を掴み、なぐ・・・

「強いって言っても女の子だもんな。グーはダメだよね!」平手打ちを食らわした!

パーン!闘技場に平手打ちの音が響く。イバラヒメは倒れた・・・ん?


「ハァ、ハァ、ハァ~ン!」イバラヒメがとびかかって来た!いや飛びついて来た!

「こんなの初めて!もっと私を殴って!もっと気持ちよくして!」・・コイツ変態だ。


観客から見ればオウカの上にイバラヒメが馬乗りになっているので、イバラヒメが優勢にみえるのだが、実際はもっと叩いてとオウカにせがむイバラヒメ。


「どけよ!離せ!」

「いーえ!もう、離さない!あなたは私のものよ~!」

「離せと・・言うのが・・・わからんのかー!」渾身の一撃を食らわす。

吹っ飛んだイバラヒメはリングに沈んだ・・・!


オウカは観客に向かって、「イバラヒメが今日負けたら引退するのは、俺の物になるからじゃー!文句ある奴は、かかってこいやーオラァー!」場内は水を打ったように静まり返る。

一人だけ冷静な精神状態ではない者がいた。・・・イバラヒメである。

「私を俺の物と・・・私を物扱いするなんて・・・なんて嬉しい!ハァハァ・・・。」


「さすがです!オウカ様!」

「いや〜すっげえ、痛かったよ!一瞬、負けると思ったもん。」

「またまた、ご冗談を!」

「それよりも、いくらになった?」

「金貨160枚です。」

「あれだけ痛い思いをして金貨160枚って、お前らも苦労してたんだね。」

「それで、イバラヒメは?」

「もう、解放の為のお金も支払い終わってますので、出口で待ってるかと。」


二人で闘技場のゲートを出た瞬間に強烈な殺気が!

慌てて振り返ると、そこには「大きな胸」があった。

「きょうから、よろしくねぇ~」

「離せ~!」

「もう、絶対に離さないからぁ~」

「分かったから、とりあえず離してくれ!」


「あのなぁ~。」イバラヒメは腕に胸を押し当て、肩に頭を預け、うっとりしながら歩いている。

「そうされると、歩きにくいんだけど。」

「私の事が要らなくなったんですかぁ~!」泣きそうになるので

「違う!違う!お前が必要!な!だから、泣きやめ!」

そんな感じで屋敷に向かって帰る。



「桜花さん・・・!」玲子が眉間にシワを寄せて怒りを抑えている。

「これには、事情があってだなぁ~、俺の話を聞いてくれ!」

周りの者達は「イバラヒメだ!イバラヒメだ!闘技場最強の戦士だ」と声が聞こえる。

「私は料理人を探して!って言ったんです!なんで格闘家を連れてくるんですか!」


「ねぇ~ジギル、あの人、だあれ?」

「あのお方はレイコ様、オウカ様の正妻様だ!」

「私はどうすれば奥さんになれるかしら?」

「名前を付けてもらえばいい。」


「ねぇ~ご主人様~。」

「私に名前を付けてぇ~。」

「え?」

「私も奥さんになりたいのぉ~。」

「玲子!」

「責任取ってあげなさい!」

「そんなぁ~。」

「ねぇ~はやくぅ~。」

「わかったよ。」


イバラヒメ→棘→バラ?

「お前の名前はローズだ!」



「桜花さん・・・。」

「は、はい!」

「ローズって私が一番好きな花の名前じゃないの!」

「だって、アイツの棘の鞭、スッゲー痛かったんだぜ!それしか思いつかないよ!」

「はぁ〜、もういいわ。改めて、よろしくね。ローズさん!」

「はい!」

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