第24話 6月12日 案内状3
突然セレーネに名前を呼ばれ、リュシエンヌはハッとしたように顔をあげた。
言葉が出てこないのか、何か言いたそうな口の形で固まってしまう。
そんなリュシエンヌを、アレシアがまた無表情で見つめていた。
リュシエンヌは彼女に見られていることに気づいていない……。
「いや、その日は行けないんだセレーネ」
「えっルドウィク? ふたりとも?」
「そうなんだ。ずっと前から二人で約束をしているんだ」
俺の言葉に重ねるように、リュシエンヌはセレーネにこくりと頷いた。
「なーんだ残念ね、でもふたりのデートの邪魔は出来ないわ」
セレーネは大きな瞳でリュシエンヌにウィンクをした。
それを受け、やっとリュシエンヌの頬が緩む。
これで大丈夫だ、そう思った時……囁くような、それでいて良く通る声が響いた。
「本当に、残念です……」
アレシアの声だ。
全員がアレシアに顔を向けるが、彼女の目線はリュシエンヌに向いたままだ。
「お話ししたかったのに……本当に残念」
悲しそうな表情でリュシエンヌの方を見てはいるが、話しかけている感じではない。リュシエンヌも答えようがなく、嫌な静けさが流れる。
彼女には何もされていない……わかっていてもやはり引っかかる……。
そんなアレシアの視線を遮るように、軽く頭を下げてリュシエンヌの隣に戻った。
椅子に座り、机の上で固く握られている手に軽く触れる。
リュシエンヌは俺の顔を見ると、目を細めて微笑んだ。
その表情に肩の力が抜け、自分も緊張していたのだと気づかされる。
案内状は無事に彼女の手元に渡った。もうこれで、18日に彼女がお茶会に行こうが行くまいが関係がない。そっちで勝手にやってくれ、そんな気分になっていた。
「じゃあセレーネ、今からこの続きを書くよ、突然席を立ってしまってすまない。アレシアさん、案内状はそのまま持ち帰ってください」
「はい、ありがとうございます」
「絶対なくさないでよーアレシアとお話ししたい人沢山いるんだからね!」
「私と?」
「こんなに美人なんだもん、当たり前でしょ」
セレーネがアレシアの肩をポンポンと叩いている。アレシアは顔を真っ赤にして戸惑っているが、楽しそうだ。
セレーネは場の空気変えるのが上手い。
彼女の人柄のせいか、どのような振舞いでも嫌味に感じない。アレシアも、今までに見た事がない表情で嬉しそうに笑っている。
二人が話す声が聞こえるなか、ペンを走らせているリュシエンヌの瞳が、どことなく寂しそうに見えた。
本当なら仲が良かったはずの三人、それを壊したのは前回の俺……。
しかし、どうやってもわからない。一体何の理由で彼女のことを好きになったのか、教えてほしいくらいだ……。
突然カールが席を立った。
見ると、アレシアが小さく手を振っているのが見えた。
やっと帰るのか……。
セレーネとルルが手を振るなか、頬を蒸気させたカールは頭を下げると、帰っていくアレシアの後ろ姿を立ったまま見送っていた。
時計を見ると、時刻はもう14時になろうとしていた。
アレシアの帰宅が合図かのように、続けて、図書館利用者の半分くらいが帰ってしまった。いつもの館内の静けさも戻り、案内状を書き上げるのにさほど時間はかからなかった。
6人で案内状を書き終えたのが、ちょうど15時になった時。
それから、案内状の枚数を確認し、配達係に渡すまでをダネルに付き添った。
馬車が出発した後、ダネルは何度も頭を下げて教会へと戻っていった。
カールとルルも業務に戻り、セレーネとリュシエンヌは約束どおりガラスペンを見に行くようだ。
18日のお茶会は、間違いなくアレシアが参加して開催されるだろう。
もし何かあったとしても、リュシエンヌと俺には関係がない。
今日アレシアが案内状を持って帰るのを何人もが見ているし、18日のお茶会には俺達二人はいないのだから。
さあ、18日は何をしようか。
リュシエンヌの喜ぶ顔を思い浮かべながら、図書館を出て教会の裏道を進んだ。
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