第21話 6月12日 図書館裏
◆ 図書館裏入り口
12時40分。
約束した時間より少し早めに図書館に着いた、ここは裏口。
通常は開かずの扉のようなこの場所だが、鍵さえあれば図書館内に入ることができる。
鍵はエルンスト家が所有しているので、この扉が開くのを知らない人も多い。
ここから、10日に館長室へ移動させたあの椅子を、回収しようと考えた。
あの日、館長室には鍵をかけて帰った。グレイス館長は今日まで休暇をとっている。
なので、椅子は室内に置かれたままだ。
いつものように図書館入り口から館長室に行っても良いのだが、出来れば誰にも会わずに回収したい……。
古びた扉を開け、図書館内に入る。
短い廊下が続き、右へ曲がると目の前が館長室になっている。
通路には誰もいない。館長が休暇の為、こちらには誰も用事がないのだろう。
ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
しっかりと鍵が開く手ごたえを感じながら、ゆっくりと扉を開けた。
中は少し薄暗く、手探りで部屋の明かりをつける。
明るくなった部屋は、あの日と同じで綺麗に整頓されていた……が、椅子がない!
辺りを見回すが、どこにも椅子は見当たらない。
机の横に置かれたごみ箱も、中身を取り出した時に少し動かしたはずなのに、元の位置に戻っている……。
「誰かが、鍵を持っている……」
良く考えると、証拠のようなものが適当にゴミ箱に放り込まれていたのがおかしい。あれをやった犯人は、すぐここに戻って片付ける気でいたんだ。
となると、やはりこの図書館に出入りできる者なのか……。考えたくはないが、そういう結果になってしまう。
あの日、帰らずにこの部屋に居れば、犯人が分かったかもしれないなんて……。
「くっそ」
悔しさと、知っている誰かが犯人かもしれないということに、全身がぶるっと震える。
とはいえ、この図書館は教会と繋がっている。そのため、教会関係者は出入り自由だ。あの時いた6人以外にと考えても、何十人もを疑うことになる……。
それに、この部屋の鍵はウォード錠だ。人によれば針金一本あれば開けられるだろうし、蝋を流し込めば簡単に合鍵も作れてしまう。
「ハァ……」
胸が苦しい。一体、誰がリュシエンヌを……いや……違う?
被害に遭うはずだったのは、アレシアだ。リュシエンヌは、なぜか俺に責められただけ……。
犯人の目的はアレシア? それとも、ただのいたずらなのか?
考えれば考えるほど、薄暗い中で靄に包まれているようで、何も見えてこない。
とりあえず、ここにいても仕方がない。約束の時間ももうすぐだ。
「……」
館長室の明かりを消して廊下に出た。
そして、意味が無いと思いながらも、しっかりと鍵を閉めた。
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