第16話 6月6日 パーヴァリ家 リュシエンヌ




ルドから、小さな包みと一緒に手紙が届いた。


昨日も、驚くほどの大きな薔薇の花束と、アレシアに貴重書架を開架するという手紙……内容の9割は恥ずかしくなるくらい愛の言葉だった……が、届いたので二日連続。


これは、たぶん昨日の貴重書架の連絡かな?

一緒に届いた包みからは、爽やかで少し甘い良い香りが漂ってくる。

これは間違いなくヨハンさんから!

包みを開けたい気持ちを我慢しながら、ルドウィクのイニシャルが入った封筒を開いた。


 愛するリュシエンヌへ


 昨日の手紙で連絡したように、アレシアを貴重書架へ案内した

 開館から12時までの間で、特にこれといった会話も問題もなかったよ

 ただ、今月18日に茶話会があるという話は前以てしておいた

 もちろん案内状の件は考えている、これは君に会った時に話をするつもりだ


 やはりアレシアは、平日の午前中必ず図書館にいるようだ

 リュシは午後から図書館を利用するようにして、絶対に彼女と接触をしないように

 もちろん俺もそのつもりだよ


 また貴重書架への案内を頼まれたら、その時はすぐ君にも知らせるから安心して

 ほしい

 一日貸し切りの場合は、他に誰かを連れていくつもりだ


 10日、アレシアのドレスが汚された日は、開館前に図書館に出向くよ

 彼女の座る椅子を確かめて、もし汚れていたら他の椅子に取り換えるつもりだ

 あっという間にできる簡単なことだよ

 それにリュシが10日に図書館に行かなければ、君に関係がある事件ではなくなる

 君が守られることが俺にとっては一番大事なことだ


 で、その後が俺にとっての最重要事項、君とのデートだ‼

 ヨハンから聞いたのだが、我が家の檸檬が今年は豊作らしい

 日曜にレモンカードを作ると言っていたよ

 リュシの好きなタルトやクッキーを作るとヨハンが張り切っていたから

 10日の午後は美味しいものを食べながら二人で話をしよう


 早くリュシにあいたい、待ち遠しくてたまらない

 君を世界で一番大切に思っているルドウィクより


ふぅー。昨日の手紙に比べたら全然大丈夫だったけど、やっぱり読んでるだけで顔が熱くなってしまった。

恥ずかしいのに、頬が痛いくらいくらいにやにやしちゃう。


ルドは、こんなに私を信じて力を尽くしてくれる。

あの雷の日、試すように話をした自分が少しだけ恥ずかしくなる。


でも、あれがあったから信じてくれたのよね……。


手紙を封筒に入れなおし、一緒に届けられた包みをあける。

美しい文字で『リュシエンヌお嬢様へ』と書かれたメモが入っていた。

ヨハンさんの文字は流麗でしなやか。

ルドの文字がとても美しいのは、ヨハンさんに習ったからだと聞いた。二人とも芸術的な美しさで、本当に羨ましい。


包みの中には、カミツレに林檎、オレンジの皮やレモングラスが美しく詰め込まれていた。

ドライポプリかと思ってよく見ると、ねじれた茶葉も入っている。


「わ! ヨハンさんのブレンドティーだ! 」


この香りは最高すぎるっ。飲みたいけどもったいないな……あ、そうだ! 

ベッドサイドテーブルからガラストレーを取り出し、ハーブティーの中身を少しのせた。トレーをテーブルの上に置いて、そのまま転がるようにベッドに寝転んだ。


「んんー最高」


大きく息を吸い込んで、ベッドの上でくるりと丸くなる。


アレシアとルド、二人きりの時間があった……でも、手紙に書いてあるとおり何もなかったことを信じる……信じられる。


昨日の午後、図書館に行った時「ルドが来ていたわよ」と、セレーネから聞かされたけど、その続きの話はアレシアのことだった……。

セレーネはアレシアと仲良くなってる。私も前回のこの頃から、どんどん仲良くなっていったんだっけ……。

読書の趣味も似ていて、話しやすくて頭が良くて、信じられないくらい美しくて……良いお友達になれたと思っていたのに……。


ふいに、もう忘れようとしていたはずの、二人が寄り添う姿とルドの激しい罵倒が蘇りそうになった。

慌ててベッドから起き上がり、頭を振る。


あれは、もう終わった事。

今は新しい毎日が始まっている。しかもそれを主導してくれてるのはルド……。

婚約破棄証明書まで書いてくれたんだもの、私がいつまでも囚われてちゃ駄目だわ。


ベッドサイドテーブルに置いたハーブティーの香りが、部屋中に広がっている。

10日はルドの言うように図書館には行かないでおこう。

だって、午後からはエルンスト家でデートがある。ヨハンさんのお菓子も待ってる!

きっと、これから楽しいことばかり、大丈夫。同じ人生にはならない。

私もその為に自分を変えていかなきゃ。

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