魔力無限の悪魔憑きは日常生活を送りたい

しゅーくりーむ

第1話 悪魔憑き

「もう出ていく。お父様には謝っといて」


「スキルを使わなかったら良い話じゃないか!」


「祓魔師の一族だから、気味の悪いスキル使うな?兄さんはスキル抜きでも強いからそんな事が言える。俺だって……」


「……ごめん」


 彼はそれ以上何も言わなかった。


 俺は涙をこらえて立ち去った。




「アラン?」


 前方にはゴブリンの群れ。


(何で実家のことなんか思い出してたんだろう)


「燃えろ!」


 彼女の手のひらから火球が現れて、ゴブリンに飛んで行った。


「やったわ!」


 一匹のゴブリンが丸焦げになる。


 しかし、五匹の残党が真正面に立っている。


 俺は剣を構え、一気に接近した。


 横から聞こえる何かが衝突する音。


 きっと仲間のロイが怪物と死闘を繰り広げている。


(親玉を倒して一気に壊滅だ!)


 骨のネックレスを装備しているゴブリンに飛び掛った。


「喰らえ!」


 他の敵を無視して剣を振った。


 しかし、バックステップで回避されてしまった。


(嘘だろ!?)


 すぐに走って追撃した。


 だがその時、ゴブリンが手のひらをこちらに向けてきた。


「これで終わりだ!」


 俺は気にせずに剣を振りかざした。


(なっ!?)


 見えない壁によって、攻撃を防がれた。


 そして、そのまま吹き飛ばされてしまった。


(風魔法……ゴブリンシャーマンか!?)


 ゴブリンシャーマン。


 別名初心者殺し。


 ダンジョン慣れして、油断した初心者を魔法で狩り尽くす事から、そう呼ばれている。


 今の俺たちでは敵わない。


「逃げるよ!」


 思い通りに事が進まず悩んでいた時、指示してくれた。


「了解です!」


「はあ……しょうが無いわね」


 パーティーリーダーのロイに従って、俺たちはダンジョンから逃げ出した。




「今日も収穫なしか……」


 ロイはダンジョンの外で呟いた。


「ごめん……俺のスキルがもっと良いものだったら」


 スキル。それは異能の事で、神様が気に入った人に与えられると言われている。


 その殆どは超能力と言うのに相応しいが、俺のスキルは限定的な状況で役に立つ程度のものだ。


「アランは悪くないよ!スキルも……たまに役に立ってるし!もう少し連携取れたら勝てるようになるさ!」


「……いつもありがとう。ロイ」


「今日は運が悪かったけど、明日はきっと良い日になるさ!」


 満天の星空を見上げた。




(そろそろ実家に戻ろうかな)


 蜘蛛の巣が張ってある天井を見て、そう考えた。


 劣等感に苛まれ、実家を飛び出してしまった事を、今でも後悔している。


(俺のスキルがお兄様と同じものだったら良かったのに……)


 有り得ない事を妄想し、今日も眠りにつく。


 これが俺の人生だ。




「受けた依頼を発表する!」


 冒険者ギルドにて、会議を始めた。


「おー!」


 俺達は盛り上がった。


「なんと、最近見つかったダンジョンの調査だ!」


「少し危険じゃないかしら?」


「わ、私も同じこと思いました!」


 未開のダンジョンは危険だ。


 きっと全滅してしまう。


「そうだが……報酬が100万ゴールドらしい!」


(100万!?一人25万ゴールド……。一ヶ月は普通の暮らしが出来るな!)


「俺は行くのに一票……かな」


 実家に帰りたくない。


 その一心でそう答えてしまった。


「アンタ正気?」


「そうですよ!私は反対です!」


「じゃあ僕達二人で行こっか!」


「もう!仕方ないわね。私も行くわよ」


 彼女は机に立て掛けられている杖を手に取った。


「え、ええ!?」


 


「ここが未調査のダンジョンですか?」


「地図によるとな」


 俺は受付で渡された紙を眺めながら答えた。


「ただの断崖しか無いわね」


(嘘の報告だったのかな?)


 冒険者ギルドには様々な依頼が集まる。


 国からの依頼もあれば、民間人からの依頼もある。


 きっと誰かのイタズラだったのだろう。


「引き返すか」


 俺は崖を背に向けた。


 その刹那、爆発音が山全体に響き渡った。


(なんだ!?)


 振り向いてみると、断崖には坑道ができていた。


「やっぱり!」


 ロイが喜びの声をあげた。


 近くの木でスイッチを見付けたらしい。


「わ、私は分かってたんだから!」


「え!?凄い!」


「さっさと行くわよ!」


 彼女の指示に従った。




 進み続けて約十分。


 高さは大人の身長三人分、横は七人程並べる大きさの洞窟に出た。


「モンスター全く出てこないですね!」


「おい!それフラグ!」


 その時、前方から大きな足音が聞こえてきた。


「来るぞ!」


「了解!」


 前から何かがやって来る。


 鉄の塊を引き摺る音。


(なんだよ!?)


 巨大な足が暗闇から現れた。


(ミノタウロス……か?)


「A級モンスター!?勝てる訳が無いわ……」


「逃げよう!」


 振り向こうとした瞬間、足に焼けるような痛みが走った。


(えっ?)


 鮮やかな血が宙を舞う。


 そして、そのまま殴られ、壁に打ち付けられた。


(あ、あれ?)


 追撃が来る前に逃げようとしたが、足に力が入らない。


(これ俺の足か……?)


 2本の足が先程居た場所に立っている。


「ごめんなさいごめんなさい」


 彼女は最後に回復魔法を俺にかけてくれた。


 そして、魔法使いと共に全速力で出口に向かった。


「ロイ、逃げろ……俺にはスキルがある。必ず逃げてみせるから」


「お前を置いて行ける訳ないだろ!仲間じゃないか!」


「ロイ……お願いだ」


「……必ず助けを呼んでくる」


 十分囮になったので、新しい足が生えてくるイメージをした。


 すると、光の粒子が集まり、新たな足を生成した。


(このスキル意外と役に立つな)


 雑魚スキルだと思っていたが、生存能力に関しては最強らしい。


(よし!これで逃げられる!)


 俺は驚いた表情の怪物を背に、走り出した。


 だが、斧が胴体を真っ二つにした。


 そして、地獄のような痛みを感じた。


(痛っ!?)


 直ぐに再生して、立ち上がろうとした。


 だが、透かさず俺をギロチンにかけた。


(逃げたい逃げたい逃げたい)


 意識を胴体に移し、新たな頭を作り出した。


 そして、再び走ろうとした。


 やはり、逃がしてくれない様だ。


 鉄のような臭いが洞窟に充満する。


(もういいか)


 何度再生しても、逃げれる気がしない。


 この地獄から一刻も早く開放されたい。


 再生する事を止めようとした。


 その時だった。


「お前、助かりたいか?」


 目の前には、人語を話すゴブリンが居た。


「だずげ……」


 藁にもすがる思いで、言葉を吐き出した。


 その瞬間、脳が熱くなる。


 そして、勢い良く血が飛び出した。




「はは!雑魚が!」


 勝手に口が動いてしまった。


(あれ?俺死んだはずじゃ……)


 あの世かと一瞬思った。


 だが、ミノタウロスの死体の上で胡座をかいている事に気が付き、生きていることを実感した。


(おい!お前、なんで意識があるんだ?クソっ!動けねぇ)


(なんでって言われても……)


(まあ良い。俺はポテスタースと呼ばれていた。一応悪魔。少しの間よろしくな)


 それは頭に直接語りかけてきた。


(ポテス……何?てか悪魔!?俺の死体乗っ取ったの!?)


(ああ、お前の死体に憑依した。生きる為なんだから、仕方ねぇだろ?それと言いづらいなら、好きに呼べ)


(じゃあノヴァとかはどうだ?)


(お前ネーミングセンスねぇんだな)


 替えの服をリュックから取り出し、着替えると、俺達は出口に向かった。




(左から敵が来るぜ)


 彼の言う通り、分かれ道からゴブリン達が飛び出してきた。


 俺は背中の剣を抜いた。


 そして、首目掛けて斬りかかった。


(はは!剣の扱い下手だな)


(笑うなよ!)


 剣がむなしく空を切る。


 すると、棍棒が頭を殴打した。


(痛っ!?)


(はあ、俺に変われ!)


 喜びの舞をするゴブリン達を見て、彼は言った。


(変わるってどうすれば……)


 そう考えているうちに、一匹が至近距離までやって来た。


 その為、剣を斜めに振った。


 今度は命中したようだ。


(おー!意外とやるじゃねぇか)


(そりゃどうも)


 残り二匹。


 右のゴブリンとの距離を一気に詰めた。


 そして、剣を振る。


 頭が床に転げ落ち、相手の死亡を確認した。


(いつもより体が動きやすい!)


(そりゃそうだろ。お前は既に人間では無いからな!)


(え?)


 気になる事が聞こえてきたが、後ろから足音が鳴っているので、そのまま剣を大きく振った。


 だが、棍棒で防がれてしまった。


(コイツ結構強いぜ!)


 木の欠片が壁に衝突する。


 それを合図に、戦闘が始まった。


 膝蹴りをして様子見する。


 少し怯んだので、大きく飛び上がり、剣を振りかざす。


 しかし、横に回避されてしまった。


 そのまま横に振ったが、当たる前に棍棒で強打してきた。


 そして、床の冷たさを全身で感じ取った。


(いてっ!?お前、当たるなよ!)


(すまん)


 適当に謝り、起き上がった。


 すると、目の前まで棍棒が迫っていた。


(危なっ!)


 腕でガードすると、強烈なパンチをお見舞した。


 床に落ちている剣を拾い上げ、怯んでいるゴブリンの胸に突き刺した。


「グギギッ!?」


 そして、そのまま動かなくなった。


(やるじゃねぇか)


(まあな!)


 俺達は更に進んだ。




 来た道を辿って約十分。


 光が差し込んだ。


(やっと出口か!)


 俺たちは外に出た。


 すると、十数人の鎧を着た人々が現れた。


(聖騎士団……!?何でここに居るんだ?)


(聖騎士?何だそれ)


(悪魔退治専門の騎士のこと)


 俺を見るなり、真ん中の女性が話しかけてきた。


「君、もしかして悪魔憑きか?」


 俺のことを睨む。


(はは!こりゃまずいな!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る