私、モブBが少女Aに執着した日々

がららん坊

第1話

人生で1番満たされた時っていつだったか?そう聞かれた時、私は即答で中学生の時期だったというだろう。私がとある同性の友達Aに執着していた最高の日々であり、今でも忘れることのできない輝いた青春の日々である。それでもきっと、時間が経つにつれてあの日々はドラマを見ていたかのようにテレビ1枚隔てたものになってしまうと、そう私は感じた。それはいけないと思いここに記そう。もしもこの文章を目にしたのならば、私と同じ感想を持ってくれると嬉しい。そしたら君もネジみたいにひねくれた私と同類だ。





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早河優の軌跡



いわゆる私はなんの取り柄も無い子であった。ピアノなんて猫踏んじゃったしか弾けないし、50m走なんて8秒台後半というなんともパッとしない。勉強は真ん中より少し上。なので分からない問題があった時に教えを乞われるタイプでもないし、頼まれてもこちらが困ることもあってお互い気まずくなる。これといった趣味もないから世界から流行を借りて、これが私の趣味なんです、と振舞っていた。


しかし流行りばかりに流されているせいか、広く浅い友達は多かった。

だから毎日クラスの情報は山のように入ってきた。あの子とあの子は昨日あの子から告白して付き合い始めたとか、皆が口角上げて食いつくものから、あの子昨日スタバ飲みに行ったんだ、なんてどうでもいい情報まで。


ああ、そうだ。もう1つ皆が口角あげてにんまりとする話題がある。


「あの子さ、前に皆で髪のお手入れについて話してる時にサエの髪の毛パサパサとか言ってきて、あぁ、そういう子なんだってなった」

「うわー、それは嫌だね。サエよくその場で怒んなかったね。しかもその子っていっつも宿題やってこずに直前で見せてってくる子だよね。マジ自分でやってこいっつーの」


そう、悪口だ。自分が少しイラついたり、気分の悪くなった出来事に3割ほどの脚色をして皆で盛り上がる。そういう遊びだ。この時忘れてはいけないことがある。それはあくまで私は被害者であり正義だということを伝えることだ。でないともし人に広められた時、自分が悪くなってしまうから。


大抵、女の子に嫌われるのはそれ程かわいい子か単にムカつく子である。特に後者は酷い。イライラする所は皆大抵同じなので大層悪口が盛り上がる。私は皆がこの手段を持って友人同士の仲を深めたり、確かめあったりする様があまりに醜く、そして好きだった。


陰でこそこそと、人を下に見てアイデンティティを必死に守る。皆結局自分より上の存在になるのが気に入らないだけ。だって同じくらいの子には何も言わないから。


そんな悪口蔓延る中で私は丁度いい人間だった。口は固いし自分より上になるタイプではないし、不愉快にさせる存在でも無いものだったから。ただそれだけのちっぽけな、醤油差しのような存在だった。だから毎日の様に頷き係をしていた。


「サエちゃんの髪傷んでるようには見えないけどなぁ…それにサエちゃんは毎朝アイロン使って整えてるんだからむしろちゃんとしてるって思う」


にこにこして、心にもないこと言って、それでもサエちゃんはほんとにかわいい子だったから苦には一切ならなかった。左右対称の触覚はくるんとしてて、彼女の小顔をより引き立たせていて目は綺麗な二重で美容室で整えられたであろう眉毛。何より自信が溢れていてついて行きたくなる魅力が確かにあったのだ。


平穏で少し毒づいた日常。私が主役の日々でないからか、ちょっとだけ退屈だったことも間違いはなかった。


そしてある日事件は起こった。

寒い冬の日に良く似合う転校生がやってきたのだ。クラスメイト全員がハッとするような美人だった。それが私に一番の幸せを与えてくれた少女Aである。


当初、私はAと仲が良くなかった。仲が良くないというのは決して喧嘩とかそういうものじゃなく、むしろ言うならば私がAと喧嘩出来るような人間でなかったというものだ。

どこのクラスにもヒエラルキーはある。発言していい人間、体育祭で輝ける人間、先生をいじっても許される人間、皆が逆らえない人間。私はそういった類の人間でなかったというだけのことだった。


クラスの所謂一軍は直ぐにAに話しかけた。


「へぇー!東京から来たんだぁ、憧れるわァ。名前Aって言ってたよね?Aちゃんって呼んでいー?」


サエが人当たりのいい顔で話しかけていた。


「嬉しい…私はなんて呼べばいいかな?」


Aは照れたように顔を俯けた、その仕草の可愛さの衝撃は正しく私達にとって黒船襲来であった。


そうして暫くAはサエといた。Aは私含めた皆の憧れであった。彼女が纏っていた都会の制服はスカートが私達より随分短いのに、清楚感もあって、彼女の長く白い足を強調していた。

サエはそれ迄一緒に居た子よりもAを優先するようになった。1週間も立たないうちの事だった。そしてサエは見るからにAの真似をし始めた。お揃いのグッズ、仕草、喋り方。

確かにAの喋り方は大人っぽいのに可愛らしいものであるが、それは彼女の容姿ありきだったのだ。サエはアイデンティティを失い始めているように私は思ったし、サエと同じような事をする子は他にもいた。


あの時の派手で個性を解き放っていたサエはAに殺された。なるほど強い美というのは人を殺す能力がある、そう私は思った。


ある日の朝、心ときめく情報が入ってきた。


「ねぇ、優ちゃん。サエの好きな人誰か覚えてる?」

「うん、三組のかっこいい子でしょ」

「そう!それでね、その子がAちゃんに告白して付き合い始めたんだって!!ヤバくない!?」


にこにこ、にんまり笑う友達にヤバいね、と一言おどけて言えば、反応に満足したのか次のターゲットの方へ言った。

ここでのヤバい、というのはAとサエは仲が良いのでこれを機に何か大変なことが起こるかもしれない、ということである。勿論私達にそんな心配する必要は無いし余計なお世話なのだが、初めの方でも言ったようにこういう話しには建前というものが必要で、この場合2人の仲の心配というものなのだ。


私はワクワクした。サエがどう判断をするのかとても気になった。

どんな行動をするんだろう。Aをいじめだしたりするんだろうか。


予想に反してサエは離れなかった。どちらかというとAにとりつくようになっていった。

今まで対等、だったものがAが上の関係のように、傍から見ている私には思えた。


そんな折にAが私に話しかけてきた。この時点までで私とAが話すことはあったが誰かを通さず真正面で話すのは初めてであった。


「優ちゃん…だよね。実は前から話しかけてみたくって」


目を細めたAは私にそう言った。私はAの雰囲気に何かを感じた。得体の知れない不気味でありながらもときめく何かだった。

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私、モブBが少女Aに執着した日々 がららん坊 @beruugun

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