君がくれた光は道を照らす
ただの通りすがり
第1話 自分に自信のない男の新生活
高宮くん、私と付き合ってくれない?」
「………君のことよく知らないんだけど」
「だから知りたいんじゃん」
聞き間違いだと思った。
どうしてこうなってしまったのだろうか。普段目立たないように生きていた自分は、彼女とは何の縁もなかったはずだ。
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進級したこの春、そこら辺にいる男子高校生の俺、高宮太陽は自立をしたいから一人暮らしをさせてくれと親に説得し、一人暮らしをさせてもらえることになった。
だが、自立したいというのは正直建前である。
本音を言うと、自分だけの時間が欲しかったからである。とは言っても、別に家族と仲が悪いわけではない。むしろ仲は良い方である。
まぁ、建前とはいっても早めに自立できるようになりたいという気持ちは一応あるのだ。
勉強するにしろ娯楽を楽しむにしろ、1人の方が気楽なのだ。その代わり、校内テストでは必ず20位以内をキープすること、自分もバイトをすることの二つを条件にしている。
「今日から新しいクラスか…」
今日から高校2年生になる俺は、一人暮らしに対しては心待ちにしていたので内心ではテンションが上がっているが、学校に関しては特に何も思っていない。
コミュニケーションを取るのが苦手だから友人は多くなくていい。1人でも2人でも、気の合う友人がいればいい。運動が得意なわけでもないし持ち合わせているスキルもないから部活にも所属していない。
顔を洗い、身支度を整えた俺は新調したスニーカーを履き、学校へ向かった。
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「おはよう、太陽」
学校に着くなり後ろから声をかけてきたのは、数少ない俺の友人である西山新だ。こいつは去年同じクラスで、読んでいる漫画の趣味が合うから仲良くなった。
「おはよう、西山。少し太ったか?」
「うっせぇ。少し運動不足なだけだ」
「そんなこと言って、どうせアニメばかり観てたんじゃないか?」
そう言うと図星なのか、西山はムッとした顔をしてそっぽを向いてしまった。機嫌を損ねてしまったようだから謝ろうとしたら、西山の方から口を開いてきた。
「そうだ、俺らまた同じクラスだぞ」
「まじ?またお前と一緒かよ」
「何だよその言い方は!」
「冗談だよ。知ってる人がいないよりは西山がいてくれた方が安心だから」
西山は親切な人間だから周りの人から頼られているし、コミュニケーション能力も少なくとも俺よりはある。というより人並みのコミュニケーション能力はあるから、俺としても西山が今年も同じクラスなのは頼もしい。
そんなことを考えながら自分の教室、2-5へ向かうと、なぜだか教室の前がざわついていた。
何があったのだろうかと疑問に思っていると、
「知ってるか?俺らのクラスにあの橋岡さんがいるぞ」と西山が言ってきた。
「……橋岡?」
「知らないのかよ、学校でも名高いほど美少女の、あの橋岡だぞ?」
「まぁ、名前だけは聞いたことあるかもしれないけど」
知らないのかと聞かれても、自分には何か取り柄があるわけでもないし、女子と話すのは得意ではないから、恋愛など無縁だと思っている。
「お前は相変わらず女子に興味ないんだな」
こいつは人の気も知らないで…
「別に興味がないわけじゃなくて苦手なんだよ、ほっとけ」
少し突き放すように言ってしまったが、
「じゃあ太陽がその苦手意識をなるべく無くせるように俺も頑張るからさ、お前も頑張れよ」
と返された。なんていい奴なんだ。
「…おぉ、ありがとう。努力するよ」
多分、何があっても西山だけは俺の味方になってくれる。この先もずっと西山に信頼を置こうと思った。
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「では、自己紹介を始めましょう」
新しいクラスでの自己紹介。印象を良くするためにウケを狙ったりする人もいるだろうが、もちろん自分はそんなことはしない。
「じゃあ次、高宮くん」
担任の柴田先生の言葉を聞き、俺は席を立った。言うことは特に考えていないが…
「えっと、高宮太陽です。読書をするのと、漫画を読むことが好きです」
何の変哲もないシンプルな自己紹介。地味な俺には十分な内容だ。
「その…1年間よろしくお願いします」
特に言うこともなかったので、すぐに終わらせた。拍手がパラパラと聞こえてくる。多分、つまらない奴だと思われたに違いないが、俺自身そこまで目立ちたい人間でもないからすぐに終わらせた。
早くこの時間が終わってほしいと思いながら単語帳を読んでいると、隣から陽気な声が聞こえてきた。
「橋岡凛です。食べ歩きが好きで、最近自分でも料理の練習をしています。みんなと仲良くなりたいと思っているのでよろしくお願いします!」
この自己紹介が響き渡った瞬間、クラス中の視線が一気に橋岡に集まった。「すげぇ、俺らのクラスに天使ががいたぞ!」「まじでこのクラス当たりじゃね?」といった歓喜の声が聞こえてくる。
鼻筋が通っていて、オレンジがかった綺麗な茶髪を靡かせている彼女は確かに可愛い。男子が騒ぐのも無理はない。
(なるほど…容姿端麗で天真爛漫な性格ならそりゃモテるよな)
そう思いつつ、俺は引き続き単語帳を眺めていた。
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初日は自己紹介の後は教科書の配布やら受験の話やら、新学期に向けての準備で終わった。
一緒に帰るために西山に話しかけようとした時、後ろから声が聞こえてきた。
「ねぇ、高宮くん、だよね?」
振り向くと、そこにいたのは橋岡だった。
「えっと、橋岡さん?」
「覚えててくれたんだ!嬉しいな」
俺が苗字を言うと彼女は微笑んだ。俺が一体何をしたというんだろう。
「まぁ、橋岡さん学校で有名っぽいし」
「………そっか」
彼女はそう呟くと、一瞬苦笑いをした。
何だその返しは!もしかして触れちゃいけないことだったのか?
「は、橋岡さん?大丈夫?」
「あ、ごめん!何でもないよ!」
おいおい、絶対何かある反応じゃないか…
「隣の席だからさ、挨拶しておこうと思って。よろしくね、高宮くん!」
よくわからないけど、ここは丁重に挨拶しておくか。
「よろしく、橋岡さん」
「うん、よろしく!できればこれから、仲良くなりたいな」
仲良く?何で俺と?
一瞬そう思ったが、この人は天真爛漫だ。誰にでも気さくに話しかけれるタイプなんだろう。ただ、少しドキッとしてしまった。
そんなことを考えていると、男子の視線がこっちに集まってきていた。男子達の目を見る限り、心地の良い視線ではないことは一瞬で分かった。
「そうだね、仲良くしよう」
「よかったらさ、連絡先をー」
「ごめん、今日用事あるからまた明日、じゃあね」
それだけ言って俺は西山に話しかけ、そそくさと教室から出て行った。
後ろから「あっ、待って!」という声が聞こえてきたが、これ以上周りの視線を浴びたくない俺は足を止めなかった。
「おい、太陽!せっかく橋岡さんが連絡先教えようとしてたのに強引に帰るのはないぞ!」
西山が俺にそう言うが、
「いいだろ別に!俺はあまり目立ちたくないんだよ」
と返し、駅へ向かった。
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新学期初日だと言うのに、家についた瞬間どっと疲れてしまった。
何で橋岡さんが俺なんかと仲良くなりたいのか分からない。俺には本当に取り柄が悪わけでもない。何もかもが凡人だ。
そんなことよりも、彼女から仲良くしたいと言われた時、少しドキッとしてしまった自分が怖い。そんなことほとんど無かったのに。
「今日は夕ご飯だけ済ませて寝るか…」
カップ麺を食べた俺は少し本を読んだ後、風呂に入り、そのままベッドに横になった。
果たして、俺の新生活はうまくいくのだろうか
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