チョロすぎる先輩と素直で鈍感な俺

空野そら

プロローグ

「先輩って可愛いですよね」

「どぅえっへぇ!? きゅ、急に何を言い出して......」

「いやあふと思いまして」

(「ほんと心臓に悪い......」)


 俺が心の底から不意に思ったことを口にした途端、ものすごく驚いたように先輩が頬を紅潮させて腕を顔の前に持ってきて顔を遮るようにする。すると綺麗な水色の髪の毛が腕の上にのる。

 そして先輩が驚きながら質問を飛ばしてきたのでそれに返答をすると先輩はボソッと何かを呟く。だけど俺はその呟きを聞き取ることができず疑問に思いながら部室にあるパイプ椅子に腰を下ろす。


「先輩」

「は、はい! どうした?」

「結局この部活って何をするんです?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれ——」

「あ、そういうのいいんで」

「ひっど~い......」


 俺はこの『遊戯部』という部活の見学に来ていた。見学と言っても部室に入って10分、何かするわけでもなくただ先輩と雑談を交わしていただけだった。

 ただ話しているだけの見学に何か意味があるのかさっぱり分からず、この部活は何をするのか先輩に尋ねると、先輩は親指、人差し指、中指、薬指の4本を顔の右側に付けると不敵な笑みを浮かべ声を張り上げる。

 しかし、俺はそれを遮って何をする部活なのか説明を催促する。すると先輩は落胆したかのように無気力になり、ドスの利いた声で文句を述べる。


「こっわ......で? 結局......」

「はあ、この部活はただただ楽しく遊ぶ部活......。そう! 遊戯部であ~る!」

「遊戯部って言ってまだ何もしてないじゃないですか」

「それは......ぁ、雑談も楽しいでしょ? そういうこと! あとはまあ、今は気分じゃない」

「絶対後ろの奴が本音ですよね」


 先輩は呆れながら説明をし始めたかと思ったら急に元気になって部名を口にする。それに俺はまだ何もしていないことを指摘すると先輩は少し言い淀んでから言い訳を口にする。その言い訳の最後に申し訳程度の言葉を付け足す。

 俺にはその申し訳程度の言葉が本音のように直感で感じ取りそれを指摘した直後先輩がギクッという声を漏らして固まる。

 するとギギギという錆びたものを回転させたときのような音が似合いそうなほどにぎこちなく頭を俺の方へ向けるとさらにぎこちなく口を開く。


「そ、ソンナコトナイヨ」

「カタコトですよ」

「あ~もうそうですよ、今は気分じゃないだけです~!」


 ベーっと舌を出す先輩。そんな先輩に俺はここまでに聞いてこなかった、というか聞き忘れていたことを先輩に尋ねる。


「そういや先輩の名前ってなんて言うんです?」

「な、名前!? あぁ、名前か......私の名前は米田よねだ 美幸みゆき野茨のいばら高等学校2年生さ!」

「米田先輩ですね」


 恰好を付けながら自己紹介をする先輩に俺は確認を取るかのように先輩の名前を復唱する。すると復唱した途端先輩の耳が少し赤く染まる。

 さらに言えば頬も少し赤みがかっているような気がする。

 その赤く染まった顔に疑問に思い俺は先輩に今日何回目かも忘れてしまった質問を飛ばす。


「どうしました? 体調でも悪いんですか?」

「だ、大丈夫だべ......オラはちょっと寝不足だけなんだべ」

「寝不足はほんとに死にますよ」

「オラはおまんさんから入部届をいただくまで帰れないんだべ」

「あ~はいはいあとで先生に出すんで保健室で休んでください」


 先輩は寝不足らしい、その事実を先輩の口から直接聞くと俺は寝不足の危機を先輩に伝えるものの、俺から入部届をもらうまでは休まないと自分の体に無理難題を課させる。

 そんな先輩に軽くあやしながら入部届を後に出すことを宣言する。そして俺は先輩をおんぶするために先輩が座る椅子の前にしゃがむ。

 そして一向に俺の背中に身を預けない先輩に疑問に思い振り返るとそこには......グタ~っと力が抜けているようで瞼もほぼ閉じているも変わらないぐらいに閉じていた。

 その先輩を見てすぐ俺は先輩の額に手を当てて先輩の体温を確認する。先輩の体温は手が火傷するかと思うほどに熱くなっていた。


「やばいですよ先輩ほんとに、あ~、すいません先輩少し触ります」

「......ぇ?」


 謝罪をしながら俺は先輩の腰と首筋に手を回して先輩の体を持ち上げる。そう俗に言うお姫様抱っこを実施する。すると俺は部室から飛び出して保健室に向かって走り出す。

 そこで先輩がう~んという唸り声を上げながらほんの少し瞼を開く。するとひどく驚いたようでジタバタと激しく暴れる。


「ちょっ、暴れないでください!」

「なななんな、なあああああんでお姫様抱っこ!?」

「それは先輩が死にかけで自力で動け無さそうだったからです!」


 先輩の質問に反応を返すと先輩は黙り込んでしまい何故か目を逸らしてしまう。その行為に疑問を抱きながら俺は走り続ける。やがて保健室の目の前まで来ると足で重々しい保健室の扉を開け放ち、保健室の中へ入る。

 すると保健室の先生が急いで駆け寄って来たため俺は先輩を地面にゆっくり下ろす。そして保健室の先生に事情を話すと、俺は先生の指示に従って先輩を保健室のベッドまで連れて行く。


「先輩、もう大丈夫ですから」

「いや、そんな死ぬわけじゃない——ゴホッゴホッ」

「先生!」

「ほんと、大丈夫だから!」

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チョロすぎる先輩と素直で鈍感な俺 空野そら @sorasorano

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