底辺の俺 大人気の彼女に惚れられる ショート版!

猫之丞

第1話

俺の名前は 丹羽圭介にわけいすけ 25歳独身。 普通の会社(残業平均 月30時間 年収350万位)に勤めるサラリーマンだ。 彼女いない歴×年齢の冴えない男である。


今日は会社が休みなので、趣味である釣り(特に海釣りが好き)をする為に近くの海にある防波堤に来ていた。


愛車(軽自動車だけど、燃費はすこぶる良い)を防波堤の近くにある空き地に停めて、防波堤から投げ釣りを楽しんでいた。 釣果はまあまあ。中型クラスの魚が結構釣れている。


しかし……暑い。 それもその筈。 今の季節は夏真っ盛り。 ……ライフジャケットを着ているのが馬鹿らしくなってくるよ。


俺はふと防波堤から少し離れた砂浜を見た。


その砂浜は海水浴場になっていて、多くの人で溢れかえっていた。


多分俺も魚が釣れてなかったら、釣りを止めてあそこで泳いでいる所だ。



……ん? 何だか騒がしいな? 皆がワーワー・キャーキャー言ってる。 一部の人が砂浜の沖の方を指差しているな。


俺はその指差す方向を見てギョッとした。


砂浜から少し離れた沖で誰かが溺れている姿が見えたからだ。


おいおい! 何で誰も助けに行こうとしていないんだよ! 普通助けに行くだろ!? 


砂浜の方を見ると、誰かがスマホを使って電話をしている姿が見えた。


電話より早く救助に行きなさいよ! ああっもう!


もう一度沖を見ると……ヤバい! 溺れている人が力尽きそうになっているじゃないか!


そう思った瞬間、俺の身体は防波堤からダイブしていた。


バッシャーン!!


海に飛び込んだ俺は、全力で溺れている人がいる場所に泳いだ。 砂浜からより俺が居た防波堤からの方が距離は近かった。 後で思ったんだけど、何で砂浜から遠い場所で泳いでいたんだろうなこの人は?


全力で泳いだからか、直ぐに溺れている人がいる場所に到着する。 俺は直ぐに溺れている人の背後に回り込み、後ろから抱えこんだ。


フニャッ


その人を抱えこんだ時、俺の両手にとっても柔らかい感触が拡がった。 こ、この人女性だ! しかも、すこぶるおっぱいデカイ!


いやいや、今そんな事考えている場合か!? 先ずは人命救助が先だろうが!


不届きな事を考えた自分に活をいれ、女性を抱えたまま俺は砂浜まで必死に泳いだ。





なんとか砂浜までたどり着き、急いで女性を砂浜にあげる。 すると、大勢の人が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか!?」 大丈夫な訳ねーだろがよ!


「あんたスゲーな」 凄いって言う前にお前が助けに行きやがれ!


「ど、どうしたら……」 先ずは救急車呼べや!


「誰か救急車呼んで下さい!! 一刻も早く!」


俺がそう叫ぶと、周りのアホどもは慌ててスマホから119番通報をしだした。


ふと溺れた女性を見ると……何かがおかしい!?


胸の脹らみが無い!(いやらしい意味じゃなくて) そして顔面蒼白だ! 俺は急いで女性の呼吸を確認する。


……息をしていないじゃないか!


俺は急いで女性の気道を確保し


「ごめんなさい!」


躊躇う事なく人工呼吸を開始した。


そして心臓マッサージ!


それを数回繰り返す。 すると


「ゲホッゲホッ!」


女性は口から海水を吐き出し、盛大にむせこんだ。


良かった!息を吹き替えしたみたいだ。 これでなんとかなるな。 人命救助の講習を受けていて良かったぜ。


それからまもなく救急車が到着。女性は救急車で病院に搬送された。 その際


「本当にありがとうございました! すみませんでした! 気が動転してしまって動けませんでした! 本当にあの娘を助けて戴いてありがとうございました!」


溺れた女性の友達らしき女性が何度も頭を下げてきた。


「無事に助けれて良かったですよ。って……あっ!」


「ど、どうしましたか?」


「俺のクーラーとロッド! 防波堤に置きっぱなしだ! 取りに行かないと! じゃあ俺急いでますので失礼します!」


「ち、ちょっと待って下さい!!」


呼び止められたが、そんな余裕は無い! あのクーラーとロッドは高かったんだ! 無くしてたまるか!


俺の頭の中はその事しかなかったので、制止を無視して防波堤までダッシュで戻った。


結果……クーラーとロッドは防波堤にあった。だが、釣った魚は野良猫に全部持っていかれていた。


……とほほ。 今晩のおかずが……。


意気消沈で愛車に乗り込み俺の住むアパートに向かって走り出した。


帰るまで車の中が磯臭かったのは言うまででもないだろう。




その出来事から数週間後の金曜日……


俺は同僚と一緒に仕事帰りに居酒屋へ飲みに来ていた。



明日は会社休みだし、気持ち良くお酒が飲めるぜ。


俺はお気に入りのブドウ酎ハイを飲みながら、若鶏の唐揚げを頬張っていた。 一緒に飲みに来ている同僚の赤坂は生ビールとタコわさびで一杯。


飲みだして30分位たった頃、居酒屋内のテレビに赤坂が釘付けになる。 どうやらお気に入りのテレビ番組が始まったみたいだ。 因みに俺は普段からテレビを余り観ない。 だって、あんまり面白い番組してないからね。


テレビから女性歌手の歌声が居酒屋内に流れる。


「なぁ丹羽。この娘滅茶苦茶可愛くないか? 俺の今一番の推しなんだよな」


赤坂がテレビを指差して力説してくる。


「や、俺には分からん。そもそもこの娘の名前すら解らんし。どの娘見ても一緒に見えるんだよ や、確かに可愛いなこの娘」


そう言って酎ハイを一口飲む。 因みに酎ハイは只今4杯目。やっぱりブドウ酎ハイは旨い。


「つまんね~奴だな丹羽は。俺、この娘 由井刹那ゆいせつなちゃんと付き合えるなら後は何にも要らないけどなぁ」


「赤坂……現実は厳しいぞ」


「分かってるよ!! 夢くらい見てもいいだろ!!」


「確かに夢を見るのは勝手だな。良い事だよ」


赤坂は不貞腐れた感じで生ビールを飲み干す。因みにこいつも生ビール4杯目。


やがて歌も終わり、由井刹那ちゃん?への質問コーナーになった。


『刹那ちゃん、今凄く人気出てきてますね~。今や飛ぶ鳥を落とす勢いじゃないですか~』


『そんな事ないですよ。私なんてまだまだです』


『またまた~ご謙遜を。今じゃ刹那ちゃんの名前を知らない人は居ない位ですよ~』


……すみません。知りませんでした。


『じゃあ質問タイムにいきますね♪ 刹那ちゃんは今いくつですか?』


『今年の5月で20歳になりました』


『おおっ!新成人ですね! おめでとうございます!』


『ありがとうございます』


『次の質問にうつりますね。 芸能活動は何年目ですか?』


『今年で4年になります』


ほう……そうしたら、17歳の時にデビューか。若いね。


そうして色々な質問があり、最後の質問となった。


『では最後の質問になります。これはファンが一番聞きたい質問だと思います。 刹那ちゃんは今好きな人は居ますか?』


『……今までは居ませんでした。でも、数週間前に私の命を救ってくれた人がいるんです。私、その人の事が好きです。愛しています……』


スタジオ内がザワザワするのが聞こえた。


もちろん居酒屋内もザワザワ。


一番ショックを受けているのは赤坂だった。


「……マジか……。刹那ちゃんに好きな人がいるなんて……。しかも愛してるだなんて……マジ凹む……」


「……な、言ったろ? 現実は厳しいって」


「ああ……痛感した」


カウンターに潰れて凹む赤坂。 よう慰めれん。すまん。


『そ、その人の名前は?』


『解らないんです』


『解らない?』


『だって……その人は名前も告げずにその場から立ち去っていったらしいんです』


『らしい?』


『はい。その時私は意識が朦朧としていたし、直ぐに病院へ運ばれてしまいましたから。 その人の事は私の友人に聞いたんです。名前も告げずに立ち去ったって。そして友人が教えてくれたんです。凄くイケメンだったって////// や、べ、別にイケメンだから好きになった訳じゃ無いですよ? 一番の決め手は、損得勘定無しで私の事を助けてくれた事です。物凄く嬉しかったんです。 私……その人に是非御会いしたいんです』


へ~っ。今頃珍しいケースだな。 あんなに可愛かったら助けたついでにお近づきになりたい男ばっかりだと思うけどな。 まっ、俺は興味ないけど。


その後刹那ちゃんへの質問コーナーは終了し、他のアーティストの曲がテレビから流れ始めた。


俺は廃人化した赤坂を肴にブドウ酎ハイを楽しんだ。


しかし、何だか他人事に思えない話だったな。 ま、俺みたいなモブには関係無いけどね。


そして時は流れ、次の週の金曜日。


今日も1日ご苦労さん♪ 明日は会社休みだし飲みに行きますか♪


行きつけの居酒屋に行こうと思い、赤坂に声を掛けたが


「すまん! 今日はどうしても外せない用事があるんだ! また来週誘ってくれ!」


と両手を合わせて謝ってきた。


「良いって良いって。じゃあまた来週な。して……因みに用事って何だ? 言いたくなかったら別に良いけど?」


興味本位で聞いてみた。


「ああ。今日はな、PM8:00から刹那ちゃんのライブチケットの先行予約があるんだよ。良い席が取りたいからPM8:00に即予約したいんだよ」


「成る程な。頑張れよ。しかしお前、前に刹那ちゃんには好きな人がいるって分かって凹んでたじゃないか」


「それはそれ。これはこれ。俺は刹那ちゃんの熱狂的なファンだからな。刹那ちゃんに彼氏が居ても関係ないね。この気持ちお前には分かんねーだろーな」


「うん。サッパリ分からん」


「だろーな。じゃあ俺準備があるから。またな」


「お~っ。またな」


俺は赤坂と玄関先で別れ、1人で居酒屋へ行く事にした。


居酒屋に到着し、カウンターに座っていつものブドウ酎ハイと若鶏の唐揚げを注文する。 今日は少し奮発してアジフライも頼もうかな? 夕食も兼ねてな。


注文して暫くすると、俺の目の前に唐揚げとアジフライが並んだ。 唐揚げはいつも通りジューシーで美味しそうだし、アジフライもとても食欲をそそる良い香りだ。


先ずは唐揚げを一口。 予想通りジューシーな食感。肉汁が口の中に広がる。 外れの無い安定した美味しさだ。 そして酎ハイを一口。 お次はアジフライだ。 アジフライを一口齧る。 ……う~ん。美味しい! 肉厚の鯵がたまらない! ……次からはアジフライも注文しようと心に決めた。 そして酎ハイをまた一口飲む。 やっぱりブドウ酎ハイは旨い。



俺が脳内で下手くそな食レポをしていると、居酒屋内のテレビから


『本日PM8:00から 由井刹那 武道館ライブ チケット先行予約を開始します……』


とのCMが流れてきた。


赤坂が言ってたのはこれか。 成る程な。テレビCMになる位なんだから、物凄い人気なんだろうな。 赤坂、無事にチケット取れると良いな。


そんな事を思いながら食事を楽しんでいると、居酒屋内のお客(見た目20代前半位の男性達)が


「刹那ちゃんのライブチケットのCM流れてたな。あのチケットはなかなか取れないんだよな。電話しても繋がらない事がほとんどだから」


ほう。そんなに人気なんだ。


「そうそう。俺も前回のライブチケットの販売の時に電話したんだけど、本っ当繋がらなかったんだ。2~3時間粘ったけど駄目だったから諦めたわ」


え~っ!そこまでなん!? 凄いな! 俺は到底無理だわ。


「凄いよな刹那ちゃんの人気。一般チケットが15000円なのに対してプレミアムチケットの値段なんて30000円だからな。それでも直ぐにSOLD OUTするんだから。 チケットのダフ屋も出てくる始末だよ」


……30000円あったら俺ならチケットじゃなくて最新のカーボンロッドを買うな。


「刹那ちゃんのあの " 私、好きな人がいるんです " 発言が有っても、人気が落ちない、むしろファンが倍増しているのは素直にスゲーなと思うな」


「そうだな。普通なら 好きな人がいるんです。って言ったらファンは離れていくもんだろ? それが逆に増えるんだから。確かに俺もびっくりしたけど、彼女のあの素直さにますます好きになった口だからな」


「だよなだよな♪ あの彼女の姿を見て嫌いになる奴なんていないさ」


……そうなのか? 俺には分からんな。


まぁ俺が言える事はただ1つ。 チケット争奪戦頑張れ赤坂 だけだな。


「刹那ちゃんが好きな男は大変だな」


「それな」


何が大変なんだ?


「絶対ファンに殴られるな。 俺達の刹那ちゃんを取りやがった! ってな」


「俺も殴るかもしれんな。マジで」


……怖っ! 刹那ちゃんの彼氏に謹んで合掌。


「じゃそろそろ帰るか」


「お、もうそんな時間か」


そう言って男性達はお会計を済ませて店を出ていった。



腕時計を見ると PM9:00を指していた。 俺もそろそろ帰りますか。


俺はバッグから財布を取り出してレジに向かう。 で、飲食代を支払って居酒屋を後にした。



俺の住むアパートは会社から電車で30分離れた場所にある。 車があるのに何故電車通勤? と思うだろう? それには理由がある。 何故なら、会社近くには駐車場が無い! 駐車場を探すにしても、会社からは遠すぎるのだ。 だから仕方なく電車通勤をしているという訳なのだ。


居酒屋は会社の近くにあり、俺は居酒屋を出て最寄りの駅に向かい、30分掛けて電車に揺られてアパートに帰宅した。 30分掛けるなら会社の近くにアパート借りればいいんじゃ? と思ったそこの貴方! それは無理な相談なのだ。 なにせ、会社の近くの物件は家賃が物凄く高い! そう!高いのだ!


平均一月約10万円は俺には払えない。それから光熱費、食費、交際費等々を払うと、俺の給料なんてあっという間に無くなってしまう。 ……自分で言ってて悲しくなってくる。


因みに今住んでいるアパートの家賃は35000円だ。


地方から出てきた俺には丁度良い家賃だ。 こんな時、此処が地元の奴らが羨ましくなるぜ。 だって、家賃要らないんだよ!? 


……て、そんな事言っても始まらないし。大人しく帰りますか。


アパートから最寄りの駅に着いて、それから数分歩いてやっと自分のアパートにたどり着いた。


俺の部屋はアパートの二階の角部屋だ。 205号室ね。


ん? なんだか高級そうな車が駐車場(俺の愛車の隣)に停まっているな。 見たことの無い車だ。 良いなぁ高級車……。一度乗ってみたいよなぁ。 まぁいいか。 本当はまじまじとこの高級車を見たかったんだけど、失礼かなと思い後ろ髪を引かれる思いで車から離れた。


俺はアパート横に付いてる階段(ちゃんと14段だから安心して)を上がり、自分の部屋の前を見た。


……? 誰か俺の部屋の前にいる。


目を凝らして見ると……女性だ。女性が俺の部屋の前に立っている。 正確に言うと、部屋のドアにもたれ掛かっている。


……目の錯覚か? 俺には女性の知り合いは居ない筈なのだが? 疲れてるのか? でも、確かにあそこは俺の部屋の前だよな。


俺は端から部屋の数を数えてみた。


1…2…3…4…5。 やっぱり俺の部屋の前だ。 俺の部屋の前に女性がいる。 錯覚じゃないらしい。


……こうしていても埒が明かないので、意を決して女性に話し掛けてみた。


「あの~。俺に何か御用ですか?」


俺の声に女性が反応した。 俺の方を振り向く女性。


凄く綺麗なブロンドの髪色のロングヘアー。 女神様と間違える位の顔立ち。 出ている所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいるスタイル。 見る限りパーフェクトな女性だった。


「……丹羽圭介さんですか?」


「あっ、はい。そうですが」


名前を聞かれ、そうだと答えると、突然女性は大粒の涙を流し


「……やっと見つけました! 御会いしたかったです!」


そう言って俺に抱きついてきた。


俺の部屋の前で俺に抱きつき泣きじゃくる彼女。 物凄く慌てる俺。 ……え~っ!? これは一体どういった状況なんだ!? 


誰か今の状態を教えてくれ!































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