昔好きだった幼馴染と付き合うことになった。
柊ユキ
第一章
1 付き合うことになった。
「何度も向かいに来なくて良いと言っているでしょう?」
白塗りの家の玄関前。その少女は強い語気で言い放った。少女の髪の色はブロンドで、丁寧にツーサイドアップに結われている。その瞳はヘーゼルブラウンだ。
彼女は右手を軽く腰に当てており、その眉は中央に寄っていた。
「わざわざ起こしに来てやってるのにその態度かよ」
陽斗は露骨に表情を曇らせた。
「起こしに来て欲しいだなんて、頼んでいないのですが?」
「前に俺が来なかった時は、お前遅刻したじゃないか」
瞬間湯沸かし器のごとく、顔を赤く染めた
「そ、それは、たまたま──偶然。偶然だったのです! そもそも、遅刻じゃなくて、チャイムと同時に教室へ入ってしまっただけですーー!」
「それを世間一般では、遅刻というのでは?」
「──! ほんっっっと、ふざけんな」
「こっちのセリフだよ! 先に行くからな!」
陽斗は、視界から琴音を外してとっとと学校に向けて歩き出してしまった。
「ふざけんなは、こっちのセリフだっつーの」
そんな彼女の学校での評判は、『女神』である。
確かに、学校でのは琴音の人柄は女神と呼ぶに
容姿端麗、才色兼備。スポーツも勉学もできる彼女は、男女問わず多くの者から、理想的な人間であると崇められている。
だが、陽斗は知っている。彼女がそんな人間ではないことを。女神なんて言葉が、彼女に全く相応しくないということを。
学校外の
理想とは、
♢♢♢
「はぁ……」
教室についてから、陽斗は大きくため息をついた。もちろん、琴音との消費カロリーの高いやりとりのせいである。
そんなことを知る由もない陽斗の友達──
「朝っぱらから、大喧嘩した」
「誰と?」
「──家族と」
琴音と、陽斗が幼馴染であるということは、多くの人が知っている。だが、琴音の本来の性格があんな者だと知る者はいない。
よって、大喧嘩の相手が琴音だとわかってしまうと、面倒なことが起こる。
簡単な例だと、陽斗が女神様のことを怒らせた、だ。そんな噂が広まってしまうだけで、女神様の敵対者となってしまった陽斗は、彼女を慕う者たちから、痛い目に遭わされるだろう。
そんなことになってしまうのは、陽斗としても防ぎたい。だから、根本的な問題である、琴音の性格の話は、学校では全く口に出していない。
「それは、大変だったな」
蒼空は苦笑いを浮かべた。
「全く、どうしてこうなるんだ」
陽斗は再度大きなため息を漏らした、
と、その時。騒がしかった廊下から一人の少女が入って来た。ブロンドヘアの見覚えのある少女である。女神様──結城琴音だ。
一瞬彼女と、陽斗は目が合った。だが、琴音は、営業スマイルを浮かべながら、陽斗に手を振った。陽斗はというと、小さく舌打ちをして、窓から空を眺めた。
「全く。本当にお前は、女神様と相性が良くないんだな」
「良くないじゃない。悪いんだ」
「女神様のどこに嫌いになる要素があるんだよ」
「色々とあるんだよ。色々と」
「まぁ、幼馴染ならではの何かがあるのかも知れないけどさ」
幼馴染だからと言って必ずしも仲が良くなくてはいけない。なんてことがあるわけがない。
学校では、琴音は露骨に陽斗のことを嫌がる表情を見せない。だから、陽斗と琴音のことを知らない人から見たら、一方的に陽斗が琴音のことを嫌っているのだと考えるだろう。実際、そう勘違いされてもおかしくない対応を陽斗は取っていた。
だが、蒼空は琴音の真の性格は知らなくても、陽斗と琴音を取り巻く
「仲がいい方が色々と、メリットも多いんじゃないのか?」
「そんなわけない。今ですら、迷惑を受けているんだ。これ以上迷惑を受けて溜まったもんか」
学校内で琴音が変に神格化されてしまっているから、幼馴染であるだけの陽斗はたくさんの迷惑を受けていた。一つは、幼馴染であることへの嫉妬。もう一つは、陽斗と琴音が幼馴染であることを利用して、陽斗を経由し、琴音へ近づこうとする者へのは対処。勝手に仲良くなる分には、陽斗も一切文句はない。文句を言う権利もない。だが、自身を利用しようとしてくる者がいることに陽斗は頭を抱えていた。
「そんなものか……」
蒼空は苦笑いを浮かべながら、琴音の方を見ている。前の方の琴音の席の周りには多くの女子が集まっていた。
その中に、男はいない。不用意な関係を男と築くと面倒であることを琴音は知っているため、あえて男との関係を断っているのだと、陽斗は考えている。そのせいで、余計に陽斗を利用しようとする輩が増えているのだが。
陽斗は、今日一番のため息をついた。
♢♢♢
昼休みにぼーとしていると、クラスメイトの女子が話しかけて来た。
「一ノ瀬くん。人が呼んでるよ」
「ん?」
教室のドアの方を見ると、そこには黒の長髪を持つ少女が立っている。だが、少女と呼ぶには、
彼女と目線が合う。すると、彼女はこっちこっちと右手で陽斗のことを手招きしている。
「どうしたんですか? 東雲先輩。部活関係ですか?」
陽斗と佳乃は同じ文芸部に所属している。そのため、陽斗は部活関係で呼ばれたのだと予測立てしたが、どうやら違っていたらしい。
「ううん。違うよ。ただ、彼女も呼ばないと」
おっとりとした口調。佳乃は再び教室を覗き、ブロンド髪の少女を呼んだ。
「なんで、
「二人に頼み事があるからだよ」
「どうしましたか? 東雲先輩」
猫を被った声を出しながら、琴音は教室から出て来た。琴音があんな性格であることは、もちろん佳乃にも内緒であった。
「二人に頼み事があるの。でも、ここじゃ話しにくいし、場所を移動しよっか」
♢♢♢
「二人に付き合って欲しいの!」
佳乃は顔を赤らめた。
────────────────
あとがき
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