魔道師ディーラー 勇者パーティーから追放されたのでへっぽこ白魔導士と世界を救うそうです。

うさみかずと

追放、再就職を目指して

第1話

 依頼された魔物討伐を終え帰りじたくをしていると馬車の周りに人だかりができていた。


 名前を呼ばれ乱暴に手招きをされたので渋々輪の中へ入っていく。


 さきほどから会議中だったらしくその議題はどうやら私らしい。


 このパーティーの主である勇者様から直に呼び出しがかかっていた。




「魔導士ディーラー」


「なんでしょう」


 勇者は、私よりも一回り年下の青年だった。腰に吊るしてある赤色の剣は、彼が帝都アズリエルで皇帝陛下お墨付きの勇者として認められたことを示している。パーティーの中で賢者や武闘家、魔導士など直接敵と相まみえる役職はパーティーの花形だ。


 その中でも帝国において勇者というのは代々大いなる血筋をひく僅かな者にしか就くことが出来ない職業であった。


 本来ならば私のような者に勇者様が直接呼び出しをかけることなどないのだが、最近大きな失敗をしたことも特別手柄を上げたこともない私が勇者様から呼び出し?


 正味な話し嫌な予感しかしない。


 だからといって変に勘ぐるような態度を見せてはいけない。


 私は魔王軍討伐メンバーとして三年間の契約を結んでいるし、多少理不尽な要求をされてもはいと頷かなくてはいけないのだ。


 魔導士ディーラーとして、契約を更新してもらえるよう勇者との関係性を良好にしておかないといけないのだ。


 ようするに勇者は私が視界に入ることも憚られるほどの権力を持っているということ。


「魔導士ディーラー、ムート。命令を言い渡す。貴様は本日付でパーティーからの追放を命ずる。それに伴って貴様と交わしたSPD契約は破棄された」


 思いもよらない言葉に開いた口が塞がらない。短い息を吐きながら返す言葉を選択する。


「契約の破棄って……まだあと一年も残っておりますのに、恐れ多いですがなにか正当な理由があってのことでしょうか?」


 勇者様は顔をしかめたが私には原因がとんと見当がついていなかった。


「パーティーへの貢献度が低いうえに貴様に支払う報酬が高すぎる。回復専門黒魔導士の補助役のくせに帝国から施しを受けた補助金の実に7割は貴様の懐に入っているではないか?」


 暴論だ。そう喉の奥まで出かけて生唾と一緒に腹の中に飲み込んだ。


「補助金の着服などありえません。勇者様お言葉を返すようですが、私の職務は黒魔導士様の補助による魔力供給だけではありません。勇者様や武闘家の方たちが最前線で戦う際に使用する魔法石の加工や状態異常になった際、安全に診察、治療ができる魔道具の分配など多岐にわたってパーティーへ貢献しております。それに補助金が多いのは帝国が主に回復職の重要性を理解しているからであり、最近では魔道具の仕切りも上がっています。頂いている予算はギリギリで、こんなことはお伝えしたくないのですが、私の報酬の一部を補填してなんとかやりくりしている状況です」 


「言い訳が上手いな、ディーラームート」


 そこまで私が熱弁しても勇者様の顔が晴れることはなかった。


 しかしここははっきり言わせてもらう近年では魔導士の職務は回復専門に比重を置きつつあった。その理由として魔王軍の領土拡大によって魔物の数が増え常に死と隣り合わせの現場では攻撃や防御よりも回復という行動が重要視されていたのだ。


 帝国は魔導士メーカーに投資してここ数十年で高性能の魔道具を生産・販売していたが、それに伴って急激に魔導士を増やしたせいもあり経験の少ない魔導士が現場でその力を発揮することなくパーティーが絶滅する機会が多発するのが問題になっている。そんなときに私たちのような回復や治療の知識に長けた魔導士ディーラーが、メーカーと魔導士を繋ぎとしてパーティーを安全に運営する役職が認知されたのだ。


 帝国からの期待度も多く補助金も手厚い有能なパーティーにはいくつもの魔導士ディーラーが帯同し冒険をサポートしているがその中でも一番の名誉は単独で勇者との契約を勝ち取るためことである。


「くどい何度も言わせるなこれは命令だ! これ以上の言葉は侮辱とみなし、直ちに抹殺するが?」


「……承知致しました、ただ引継ぎはどうされるのですか?」


「それはもう他のディーラーを見つけてある。貴様と同じ能力なのに支払う報酬が半分だ。つくづく貴様は守銭奴だったな」


 いくら職務を全うしたところで絶対的な権力には逆らえない。契約を獲得さえできれば生活に困ることもなく安定した毎日を過ごすことができるのだが、破棄されてしまえばそれまでである。不服ではあるが契約破棄は受け入れるしかあるまい。


 しかしそのディーラーだってこれだけのパーティーを死傷者を出さずに運営していくのなら半分の報酬だけでは回していくができないことくらい分かっているはずだが、


 ――どうにも談合の臭いがするな。


 魔導士ディーラーにとって勇者との談合は帝国で禁止されているご法度だ。他のディーラーに知られないように契約時の価格を勇者と前もって決めるいわば出来レース。不公正な話合いは帝都で度々問題になっているものの隠れて行うディーラーが減らないのも事実だ。これが上手く出来ればどんなに甘い蜜を吸えるかと考えたこともあったが、


 ――私には、残念ながらそれができなかった。


 報酬を下げれば質の良い魔道具の仕入れが出来なくなってしまうし、何より複数のパーティーに帯同することになる。そうなれば業務のクオリティーは落ちパーティーに迷惑をかけることになる。まして魔物と生存領域がかち合う現場で、これ以上パーティーを危険にさらすなど到底できない。それが魔導士ディーラーとしての私の職務だ。


 しかし勇者様が求められているような直接的な貢献ができない私に華々しい成果なんか出せるはずがない。


「分かったならもう下がれ、それともまだなにか反論があるか?」


「いえ。失礼いたします」


 それにしても真摯にこのパーティーに尽くしてきたのにこんな仕打ちはあんまりだ。私はなんとなく二代目の黒魔導士様の助言により勇者が行動を起こしたと感じている。


 ――思い返せばあの方は私のことを嫌っていた。しかしそれも当然か。


 このパーティーにはもともと三人の茶魔導士がいてどちらが黒魔導士になるか権力争いをしていた。しかし先代の黒魔導士様はそんな派閥争いが無意味なものと嫌っており当時誰かに肩入れするわけでもなくもくもくと仕事をしていた私をいたく気にいってくれたのだ。無欲で人当りが良い魔導士様だからこそ実力で黒魔導士の高位を手に入れることができたと私は思っているが、パーティーに出入りしていた他のディーラーや魔導士も棚ぼたで契約を勝ち取った私が面白くなかったのだろう。


 もしかしたら黒魔導士様が突然パーティーをお辞めになった時すでに私の運命は決まっていたのかもしれない。


 前向きに考えれば先代の黒魔導士様がいないパーティーとおさらばできるのだ。


 ディーラーとして冒険に参加できなくても、魔道具の取り扱いには自信があるしこれでも魔道具メーカーにならいくつかコネクションくらいある。


 適当なメーカーにジョブチェンジでもして魔道具を売れば暮らしていくことくらいはできるからな。














 

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