第52話

神の残した言葉が気になる。

紗姫が悪魔に狙われている、いや、前から狙われていた。

時期があの忌まわしき事件の頃だとして、本当に紗姫の意思で事に及んだのか・・・

真相を知るのは悪魔だけかもしれない。

事実は如何であろうと行為は消せないが、今、あの時の事を許している俺からするとそう導いた悪魔が唯々ただただ許せない。

頭がグルグルとそんな事だけで埋め尽くされていくが、乙女たちの劇を前に考え込んでいるのは失礼なので思考から追いやった。

今は解らないことを考えるより乙女たちの劇を見ることに集中しよう。


第2部は若殿の勇者と聖騎士の武士乙女が聖女の一美さんを助け出す為に如何すればいいかを話し合う場面からスタートした。



「ここは慎重に仲間を増やすべきだ!!」

「それでは姫がどうなっても良いのですか?」

「それは・・・」



仲間を増やしそれからだと慎重な意見を言う若殿勇者と直ぐにでも聖女を救いに行こうと主張する武士聖騎士

話が一向に進まず業を煮やした武士が単独でも姫を救いに向うと言いここで晴れて勇者PTは解体された。



「待っていてください姫、必ずお迎えに行きます!!」



武士はそう誓い魔王城を目指す。

「キャー」と歓声が沸くのは乙女のファンなのだろうか?

塚的人気で「キャー」なのかもしれないが、何方にしても女性の方々には大いにウケている様である。

一方の若殿は仲間を募集するが集まらない。

一時的にPTを組んでも指揮するだけの役立たずは冒険者たちに相手にされない。

仕方なく召喚国に泣きつく若殿。

そうすると、そのままその国のハニトラに引っかかって篭絡ろうらくされてしまう。

高校生の演劇にしては生々しいが展開的には非常にありだし、俺も異世界で散々ハニトラ仕掛けられたので異世界召喚あるあるなんだろうな~

そして武士は困難を乗り切り魔王城へ突入し、魔王と対峙する。

何と魔王の正体は聖女であった。

これはどういった展開?急展開過ぎて会場もざわめく。

さらわれた筈の姫が魔王として登場、これ如何にであるが、その経緯を話し出す姫。



「この国はかの召喚国より迫害され虐げられてここに寄り集まった者たちが作った国なのです」

「なんですと!!」



何とこの国は迫害された人々が集まって出来た国で、聖女の回復の力を当てにして姫は攫われたが、その力を使い皆を助けたことにより国全体に認められ前魔王より国を譲られていた。

武士は姫を助けに来たことを告げるが姫はこの国の人々を見捨てる事が出来ないと言う。

そんな折に召喚国の軍隊を引き連れた若様勇者が攻め込んでくる。

武士は若様に事情を話す為にその軍隊の下に行くが、ハニトラで召喚国の言いなりの若様は聞く耳を持たず交渉は決裂。

ここまでで怒涛の展開である。



「姫の為、そしてしいたげられた者たちの為、私はこの国を守ることを誓おう!!」



またも「キャー」と言う黄色い歓声が上がる。

武士の宣言と共に武士VS若様率いる軍隊との戦闘、乙女の剣技でバタバタと倒れていく兵士達。

ある程度兵士が倒れた所で若殿がお約束の「これで勝ったと思うなよ!!」と言う負け犬ワードを吐いて去って行く。

ボロボロになりながらも武士が勝利して姫に勝利の報告を行う。

そして、武士が姫へ愛の告白。



「以前よりお慕いしておりました」

「私もです」



2人は抱き合い幕が下りる。

ここでも女性達の黄色い歓声が木霊した。

そして、ナレーターにスポットライトが当てられると、「武士は姫と共にその国を治めましたとさ、めでたし、めでたし」と言う最後のナレーションをして終幕となった。

ええ話や~と言う事でエンディングでは黄色い歓声と拍手の嵐。

俺達の場合とは大違いだな~と思った。

勿論、俺達は魔王を倒すというお仕事を受注した駆除業者の様なものなので、終われば帰還するのみなのであるが、俺達の帰還の時は魔王倒した瞬間に頭の中に神の声で「お疲れ様です。これより10分後に帰還となりますのでしばらくお待ちください」と言う何かにあらかじめ吹き込んだ様な感じのアナウンスが流れ、10分後に帰還と言う何とも味気ないものであったので、比べるのもあれだが何だかな~と思う次第であった。

天音と智の方を見ると同じような心境なのだろうか?何かを思い出したような変な苦笑いをしている。



「流石に私達の時とは違う結末で安心したよ」

「そうだね~あれは流石に物語で同じことが起こったら何事かと思うよね」



と天音が零して智が頷いて同意して語っているので概ね当たっていた。

まぁ物語の最後が帰還のアナウンスが流れるとか物語なら白けるが、現実は物語より奇なりである。



乙女たちの演劇を見終わってクラスに戻り最後はクラス全員でコスプレ喫茶を運営した。

そして、最後のお客様をお見送りして俺達クラスの文化祭はとりあえずの終了を迎えた。

特に大きいトラブルも無く終われたことを皆で喜び、一番のトラブルになりそうだった事を事前回避できた功労者の蛭田は皆より讃えられていた。

文化祭を通して一番変わったのは蛭田なのかもしれないなとそう思えた。

しかし、蛭田の顔を見ると引き攣り笑顔をしているのでまぁこんな短期間で内面までは変わらないよねと何となくホッとしたような気分となった。

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