春風、言の葉は花と散って
さよの なか
第1話
発車を知らせるベルが鳴った。
ついに別れが僕たちにもやってくる。
僕は列車に乗りこみ、彼女の方を振り向いた。
胸が潰れそうなほどに高鳴っていた。伝えたいことがまだまだたくさんあった。
『ドアから離れてください』
アナウンスが流れる。
歯を食いしばらないと、今にも涙が溢れてしまいそうだった。
最後の言葉を必死に探していた。
『きっと、大丈夫だよ』
彼女はいつもの笑顔で、そう言った。
『君なら絶対に、大丈夫。』
条件反射的に、僕の口は言葉を紡いでいた。
『ありがとう、そっちも、元気でね。』
そして、ドアが僕たちを隔てた。
最後に伝えたかった言葉は、他にあったはずだった。
彼女の姿が、ゆっくり右へと流れていく。
変わらず笑顔で、ゆらゆらと優しく手を振っている。
僕はどうすることもできなくて、その目に焼き付けようと彼女の姿を追いかけ続けた。
あっという間に駅は見えなくなり、車窓は川沿いの桜並木と何もない田舎町を映した。
違う、違うんだ。
本当に欲しかった言葉は。
『大丈夫』じゃなくてさ。
『私も寂しいよ』
僕はその言葉が、欲しかったんだ。
ガラガラの座席に座って、虚ろに揺れる吊り革を眺めた。
列車は知らない街へと向かって、僕を運んでいく。
春風、言の葉は花と散って さよの なか @walknights
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