第20話
「今日一緒に帰らない?
『ごめん、今日友達と帰るって約束しちゃった。テスト前遊べるの最後だからって』
「……わかった」
既読が付いた後凪からの返信がないのを確認すると、私はゆっくりとスマホを置いた。
テスト前遊べるのが最後だから友達と一緒に帰る、かー……。
何度かその文を心の中で
私って凪の彼女なんだよね?
まあ別に彼女だから全部優先してほしいとは言わないけど。
それでもなんか友達を優先されたと思うとちょっと釈然としない。
学校で話せないのはあの輪の中から凪を連れ出す勇気が私にも責任があるけどさ。
机に突っ伏しながら凪の方を見ると、彼女は何人かの生徒たちに囲まれて楽しそうに話している。
それに対して私は独り。
まあ友達が欲しいわけじゃないけど、目の前にあんな笑顔を振りまいてる凪がいたらなとは思う。
友達と帰るって言ってたし今日は図書館で勉強しようかな。
なんか昨日真保を部屋から追い出してから顔合わせづらいし。
真保も同じなのか朝起きたらいつの間にかいなくなってた。
LINE送ってもろくに返信来ないし。
なんかテスト前に余計なストレス増えるの嫌だな。
私が椅子から滑り落ちそうなくらい態勢を崩したところで5限目を告げる予鈴が鳴った。
◇
最悪っ。
図書館ということもあって決して口には出さないが、私の感情はそれ一つに支配されてた。
テスト前ということもあってみんな考えることは同じらしい。
自習スペースはすべて埋め尽くされていた。
中にはこれから座る予定なのかただの荷物置きにしているのかわからないが、バッグしか置かれてない席もある。
ただそれをどかして座る勇気は私にはない。
それにいくら図書館といってもこれだけの人数がいると
これだったら自分の部屋で勉強したほうがましだ。
真保と鉢合わせる可能性があるのだって限られたときだけだし。
夕飯は仕方ないけどそれ以外は部屋にいれば会わないでしょ、きっと。
なんとか自分を納得させると私は下駄箱に向かった。
「あー最悪……」
廊下を歩いていると部活の声が聞こえてくるが、普段より活気がない気がする。
まあ赤点取りそうな生徒はテスト期間より前から勉強させられるみたいだし、仕方ないのか。
私も早く家返って勉強しよ。
下駄箱に近づいたところで、誰かの話し声がしているのに気が付いた。
多分この声はクラスの中心的なグループな気がする。
うわぁ嫌だなぁ。
挨拶しても無視されるだろうけど、スルーすると陰でなんか言われそうだしな。
確か凪もそのグループと仲良かったはずだし、遊ぶってこの人達のことかな……。
話し声の中に凪の声が混ざっているのを感じながら、バレない位置で彼女たちが帰るのを待つ。
ただ一向に帰る気配がない。
ああどうしよう……。
ここで時間潰しているのももったいないしな。
行こうか行くまいかなどと考えていると、バタバタと階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。
彼女たちにもそれが聞こえたようで、「来たんじゃない?」などと言っている。
誰か待ってたのか。
ってことはようやく帰ってくれるかな。
淡い期待を抱きつつ息を殺して待っていると、聞き慣れた「お待たせしましたっ」という声が聞こえてきた。
え、この声って真保?
なんで?
じっと身を乗り出して確認したいのを堪えていると、凪と真保らしき人以外は帰ってしまったようで二人の話声だけが聞こえてきた。
「凪先輩また勉強教えてください」
「いいけど、最近ちとせに
「ああまあ訊けるところは訊いてるんですけど、昨日途中でいろいろあって訊けずじまいなんですよね……」
「そうなんだ。だから今日のちとせテンション低そうだったのかな。まあいいや、行こっ」
え、なんで……。
ちとせって言ったってことは話し相手完全に真保だよね?
二人って知り合いじゃないんじゃないの?
いやけど……。
二人とも違うって言ってたし。
どういうこと?
だんだんと声が小さくなっていく二人の後ろ姿を見るが、そのうちの一人は確かに真保だった。
なんか二人とも仲良さそうだったし。
え、今日友達と帰るって言ってたよね?
友達って真保なの?
なんで?
わからないよ……。
私どうしたらいいんだろう?
友達だってことわざわざ隠す必要ってなに?
こんな時凪に相談できればって……、凪関係なんだしできるわけないじゃん。
あと頼りになりそうなのって……。
無意識のうちにスマホに入っている数少ない友達をスクロールしていると、
そうだ、花音だったら。
数コールの後、いつもの調子のいい声が返ってきた。
『どうしたのー?』
「あのさ、花音今平気?」
『大丈夫だよ。ダメだったら出てないし』
「ありがとう。あのさ花音って凪と真保が連絡取ってたの知ってたでしょ?」
『んー? なんで?』
彼女の声は底抜けに明るいが、今は彼女のペースに振り回されるわけにはいかない。
「なんでって二人が楽しそうに話してるところ見たから」
『ああ、そういうこと』
「ねえなんで……」
いや隠してたことを問い詰めても無駄かな。
どうせ真保が私に言うなとか言ったんだろうし。
けどなんで隠す必要なんか……。
『なんでって?』
「なんでもない。花音は知ってたんでしょ?」
花音は少しだけ暗くなった声で話し出す。
それでも返事は一切の
『まあ知ってたよ。真保ちゃんにも話すなって言われてたから言えなかったけど』
「そっか。ねえなんで黙ってて言われたかわかる?」
ただの友達や知り合いだったら私別になにも言わないのに……。
どうして。
『まあそれはわからないけどさ。ちとせちゃんはどうしたい?』
「どうって?」
『ほらっ、自分で殴ったあとつけてたかもしれないって言ってたけど、意外とちとせちゃんに隠すのがストレスとでそういうことしてたのかもしれないよ』
「それは、そうかもしれないけど……」
ただどうするって……。
二人に直接聞いたところではぐらかされたら終わりだろうし。
かと言って花音もなにか話せることがあるわけじゃなさそうだし。
私、どうしたら……。
『あの二人がいるのってどうせその凪先輩の家だろうし、行く? 私ついて行くけど』
「家に?」
『そう』
行ってどうする……。
けど私一人じゃいけないだろうし。
花音がついて来てくれるって言うなら、今日行った方がいいかな。
「ごめんついて来てもらってもいい?」
『いいよ、待ち合わせは前のカフェの前でいいでしょ?』
「あ、うんそこでいい」
『じゃあそこで待ってて、すぐ着くと思う』
それだけ言い終わると、スマホは通話の終了を告げた。
テスト前なんだしこれ以上ストレス増やさないで……。
爪が皮膚を割くのを感じたが、一度ひっかき始めたらもう自分ではどうにもならない。
ふざけないでよ。
勉強しないといけないのに。
なんで二人して……。
二人とも友達多いし、勉強できなくても誰かに必要としてもらえるのかもしれないけど。
私にはテストしかないのに……。
勉強のできない私に価値なんて……。
邪魔しないでよ……。
傷口が空気に触れジンジンとした痛みを出し始めたところで、ようやく止まった。
腕には血が
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