#10 そうだ、田園郷に行こう。
「アリヴァ! これよりダンジョンに出かける。着いてくるがよい!」
「どうしたいきなり」
ミイラの癖してたっぷり8時間睡眠をとっていたオレを起こしたのは、興奮を隠そうともしない女王ネフェタルだ。
普段より1着しかない豪華なドレスを着るわけにもいかないので、現在は白シャツにジャージパンツという品性の欠片もない衣装を身に纏っている。
それでも子供のように目をキラキラ輝かせている彼女はとても可愛らしいのだが、いったい誰に何を吹き込まれたのやら。
「2度も言わせるな。ダンジョンに行く!」
「いやそれはわかるけどさ。ネフェたんが行けるところはD級までだぜ?」
「分かっておる。しかしアブドゥールから聞いたのじゃ」
「……だいたい察した。カウサー田園郷だろ」
「流石は妾の奴隷。褒めて遣わす!」
ヒンデガルトは国際的に言うと、中堅クラスの影響力がある。
早くからダンジョンを観光資源とする政策を打ち出したおかげで、大量の外貨を獲得できてからだ。
その観光地でも1番有名なのが、無限の規模を誇るD級ダンジョン『カウサー田園郷』。
「けどさぁ、オレは未登録ダンジョンにも潜れるほどなんだぜ。ミミズ殺すのに
「小国を大軍で制することに何の問題がある?」
「そうだった、この人腐っても女王だった……!」
「妾は貴様とは違って腐らぬ。王家の血を引くミイラじゃからのう」
「やかましいわ」
こういったノリは嫌いじゃないけどな。
「ネフェたんも分かっているだろ。故意じゃないとはいえ修道院ぶっ壊しちまったから、連日修復作業に駆り出されてんの。昨日までだって、三日三晩寝ずにやってたんだからな」
「けど大体直ったじゃろう。ならそろそろ、メフィスト王国の手掛かりを探るべきではないか?」
「まだ3割くらいしか直ってないし、オレは疲れてんだよ。せめて資材が納品されてくるまで寝かせてくれぇ」
「であらば復活の呪詩が必要じゃな。【ユーテェ ミヤォウ キミコォ】」
「だぁああ! やめろほら、とにかくまずはマネージャーに通さなきゃ!」
「面倒臭いな、この時代の者どもは」
ということで、修繕した個室でダンジョンのレポートを作成しているミティのもとへと赴いた。
作業中の彼女は、前髪を留めてメガネをかけている。これだけで、真面目でほんの少し幼さを残した義妹から仕事の出来そうな女傑へと印象がガラリと変わるのだから不思議なものだ。
「ふぅん、カウサーに行きたいんだ」
「けどよ、オレも修復作業があるしさ。ミティの方からも何か言ってやって」
「いいんじゃないの」
「んなぁ!?」
「ほれ見よ。マネージャーは何か言っておったぞ?」
「何でだよ、明らかランク見合ってないだろ!」
「まあ確かにそうだね。でも、彼女のチャンネル登録者数」
「知ってるよ。いきなり大バズりして5万人だろ?」
「約20万人だね」
「おいちょっと待てや」
なんか知らんうちに4倍に膨れ上がっているんだが?
先日見たスレと同じこと思ってる人が多かったのだろうか。でも、だんj民とか目先の感情や刹那のプライドで生きているような連中だぞ?
「お前やったな? 何やらかしやがった? 呪詩ってのは運営やシステムの不正にも使えるんか?」
「気付いたらこうなっていた。まあコメントとやらを見る限り、妾の美貌に酔いしれたようじゃな」
「脳味噌チ○コの形してるのかよコイツら……」
「一目惚れしてキスしたアリヴァが言えたことじゃないよね」
そっかぁ。オレも脳味噌チ○コ野郎かぁ。
「ただし。いきなり登録者がこれだけ付くってことは、それだけ世界中の人が貴女に期待しているってこと」
「どういうことじゃ」
「これでまた、前の配信みたいな酷い有様を見せたら炎上どころじゃ済まない。メフィスト王国だっけ、それの復興も無理だろうね」
「為政者の器が知れてしまって、建国したとしても国際社会から爪弾きってわけか」
「ぬぅう……」
「まあ、このまま芸人枠を目指すなら良いとは思うけど」
「不服!」
「でしょ。なら、やることは2つ」
ミティが指を立てる。
「1つ。自力でダンジョンを攻略できる姿を見せること。私は実力を知っているからいいけど、まだ世間は貴女の底力に懐疑的だから」
「
「ダメ。現代は人権にうるさいし、あまり奴隷というワードを出すのも好ましくない」
「ぬぅう……」
お構いなしと言わんばかりに、ミティが2本目の指を立てる。
「2つ。視聴者を楽しませるため、配信者としての強みを見せること。まあネフェタルはキャラが立ちまくっているからいいかもだけど、そのうえで視聴者を楽しませる言動を心がけないとね」
「下民に媚びろと申すか!?」
「はいアウト。カウサー田園郷へ行くのはナシ」
「何じゃとぉ……」
そうなんだよな。うちのマネージャーは厳しいんだよ。
「言い方の問題だよ。
「アリヴェ・デルチってやつか?」
「ああ、ロマネス語で『さようなら』って意味らしいな。まあ名前と似てるからって理由でミティに勧められたから使ってるけど」
「流石に『こんアリヴァ』と『おつアリヴァ』は無さすぎだもの」
「うん。無いな」
「2人して酷くね?」
けど決め台詞ひとつで登録者の伸びが変わったのだから何も文句を言えない。
「まあ、これはすぐにとは言わない。さっき言ったことから始めよう」
「実力は不足ないのでは無かったのか?」
「けどミイラってバレるわけにもいかないでしょ。2人揃ってダンジョンに潜れなくなるし、人権も剥奪される。国を興しても、バケモノの国扱いされるだけだからね」
「では、どうしろと」
「簡単だよ。パッシブスキルとセットスキル。ダンジョン探索者の基礎技術を磨く、それしかない」
「ふむ。確かパッシブと叫んだ後、名を叫べば良いのじゃな?」
「イメージも忘れずになー。ただし能力とイメージが合ってなかったら失敗するから、最初は難しいかもしれないけど」
「〈パッシブ:ルックス
「は? ⅩⅢ!?」
オレも暫く使ってないぞ、そんなレベルのスキル、は……。
「……どうした、2人して妾から目を背けて」
「いや、その。あまりにも美しくなり過ぎて」
「肌のハリ、そして目の輝き。どうしよう、少し視界に入れただけで心持ってかれそう」
「マジか、こいつマジか。パッシブをいきなり最高レベルまで使いこなしやがるなんてマジか」
「ネフェタル女王ーーっ!!」
「うわ、何だぁ!?」
「アブドゥールさんと……後ろの人たちは誰、それに何百人と居ない!?」
「絶世の美女が居ると聞いて!」
「いや後ろの人たちはどっから来たんだよ!!」
「ネフェタル女王陛下の美しさは、男だけでなく女にも届く! 人類全てに眠るオスの本能が、俺たちを
「破り捨ててしまえそんな約束!!」
狂乱する群衆にツッコミを入れてしまい、チラリと彼女の姿が視界に入ってしまった。
純白の柔肌、宝石のような瞳、究極の顔面とプロポーション。
放たれる未知の香りも相まって、どんな芸術品よりも、彫刻よりも、銅像の女神よりも神々しい。
美の頂点、いや天元を突破して神の領域にまで至っているのではないか。
「やばい、勃ってきた。身体腐るかもなのに」
「私も男になりそう、そして飼われちゃいそう……」
「おぉ、どうしたぁ? 2人して飼い猫のように大人しくなりおってぇ」
「……言いたいことは山ほどあるけど、パッシブスキルの才能は本物みてえだな。そりゃ、呪詩でオレを超強化できるんだから自己強化もできるか」
「ふふん。ではセットスキルとやらも披露といこう! なに気にするでないぞアリヴァよ〜。妾は神王の血を引く王族であるが故、これは仕方のないことなのじゃ〜」
「くっそコイツ完全に調子乗っとる……!」
「それだけ可愛いんだから仕方ないよ。許してあげよう」
「せめてお前は真面目であれ、ツッコミ役降りんな!」
無論、オレも人のことは言えない。
天狗になっているコイツを直視できないし、触れたら間違いなく絶頂して気絶するだろう。
故に
「では行くぞ。〈セット:
だが素人が過ぎた力を欲した結果。
「あ、雷が落ちた」
「のぇええええええーーーーっっ!!?」
見事に雷帝神の天罰が下ったのだった。
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