最強の未登録ダンジョン配信者、女王のミイラにキスしたら炎上したうえ奴隷にされてしまった件
遊多
未登録遺跡型ダンジョン 名もなき古の王墓
#01 【悲報】最強のダンジョン配信者、死亡
『フォオオオオオオンッッ!』
今回潜ったダンジョンの深層部には、非常に強力な
人面の巨大なライオン、しかも翼まで生えている。
「やばコイツ、キメラの亜種か希少種じゃねえの!?」
剛爪の乱舞、それに超音波。オレは必死な形相を浮かべながら、宙に浮かぶ配信用カメラフォンと共にかわしてゆく。
恐らくはダンジョンのボス。コイツを倒せば、きっと凄い宝の入った宝箱が出現するだろう。
「裏に回ったら、それはそれで雷の嵐だもん、なっ!」
ダンジョンの存在が公になったのは数十年前のことだ。
かつては蜃気楼の遭難、神隠し、悪魔の棲家などの伝承として語られてきた秘匿の地も、インターネットの発達によって今や誰もが知る存在となった。
“やっべえええ!”
“これ終わったんじゃねえの?”
“【悲報】アリヴァ終了のお知らせ”
“アリヴァー! がんばえー!!”
そして、入るたびに形を変える不思議な空間、現実離れした
だがチラリと見えたオレのコメント欄は、賛否で盛り上がっていた。
まあいつものことだが、同接1万以上あるのに赤スパが無いのは泣けてくる。
“さっさと倒せよ。キメラなら物理で余裕だろ”
「そうしたいけど、キメラにしては身体の動きが自然すぎるんだって!」
“キメラ、どうか放送事故頼むわw”
「何でモンスターの肩持つんだよ!」
近年ダンジョンの発生件数が増えているが、今回潜った遺跡型ダンジョンは特に難易度が高く、段々と余裕がなくなってくる。
これを同時にやらなきゃいけないのが、配信者の辛いところだ。
“@カムナ $100.0 アリヴァ様、カッコいいトコ見せてください!”
「おっ、カムナちゃん赤スパありがとね!」
よく投げ銭に来てくれる子が、両手を合わせてオレに祈りを捧げてくれている。
なら期待に応えなきゃ、男として、そして配信者としてメンツが立たないよな?
「ちょうど
ニィと笑みを浮かべながら、トン、トンと軽くバックステップを踏む。
コイツは近くの獲物に爪や牙を、そして遠くの敵には超音波を放つ。雷は視界外だ。
“残像!?”
“カメラ新品にしたって言ってたのに映ってないんだけど”
“あんなこと言っといて追い詰められてるw”
避けてはいるものの、俺は壁際に追い詰めてしまった。
そして逃げられなくなった敵には突進を放ち、一気に仕留めに掛かってくる。
「そう来ると思った」
バカ正直に真っ直ぐ突っ込んでくれて助かったよ。
オレは黄土色に輝くレンガの壁を足場に大きく宙へと飛び、そのまま天井を蹴って愛用の黒いカットラスを抜き。
「〈パッシブ:ストレングスⅨ〉〈パッシブ:クリティカルヒットⅧ〉〈セット:星の砂時計〉〈セット:
ステータスを上げるスキルで極限の攻撃力を、そして今まで手に入れた宝を惜しげもなく使って稲妻の如き速さを携え。
「
隙だらけとなった首元へ急降下し、決めゼリフと共に一撃で巨大なボスモンスターを葬り去った。
“@カムナ $500.0 はい神回! あと50回観ます!”
“うおおおおお!!”
“未踏破ダンジョン初見クリアきちゃあああ”
“やっぱりアリヴァがナンバーワン!”
“タレントスキル無しで勝つの草”
“@うどん食べたい $3.0 トゥイスターでトレンドに載ってたよ!”
ほかの配信では見られないほど豪華なバトルと宝箱の出現を見届けた視聴者は、これ以上ないほどのボルテージで沸き立っている。
これこそが、未登録ダンジョン専門配信者アリヴァ・イズラーイールの真骨頂。
「ッ!」
“え、なに!?”
“スパチャ読まない配信者おりゅ?”
“あとは宝箱開封の儀じゃないの!?”
だがオレはキメラの人面を掴み、そのままボス部屋の奥へ疾駆した。
「奥の壁の紋様、そして奴が一切首を後ろに向けなかったのには理由がある!」
命を落とした魔物は、すぐに身体がボロボロと崩れ去ってゆく。
だから時間が無かった。たとえ不発に終わろうとも、何事も試してダンジョンのギミック解明を優先しなければならない。
それが未登録ダンジョンを探索する者の仕事なのだ。
「……やっぱそうだ。この先に、もっと凄い宝がある」
“壁画が光った!”
“アリヴァの勘が大当たりとかマジ?”
“@匿名くん $10.0 初見です。チャラ男系イケメンによるガチ攻略めっちゃ面白いw”
「……」
後ろに現れた金の宝箱やコメントの溢れるカメラフォンにも目もくれず、四方に開かれてゆく壁の奥へと意識を向ける。
“今回いつも以上にガチじゃん”
“これEX級認定来る?”
“↑エアプ乙、これ最低でもS級だから”
正直、気を抜いたら死ぬ気がする。
「おそらくSS級はあるだろうな。このダンジョンレポートはWDOに高く売りつけてやる」
“あ! これ歴史の教科書で見たところだ!”
“↑はい嘘乙。こんな建築技術を持った文明なんてないから”
“待って、この土壁、3000年くらい年季入ってる”
“↑え、これ歴史変わるんじゃね? 大丈夫なの!?”
一歩ずつ、警戒しながら踏み締める。罠の類は無い。
黄ばんではいるが特別風化した様子も見られず、そして最奥の寝室に続くよう劣化し尽くした絨毯で道ができている。
「……カムナちゃん、うどんさんに匿名くん。スパチャのお礼に、すげえモン見せてやるよ」
“!?!?!?”
“マジで?”
“やっばwww”
カメラフォンを向けて映したのは。
未登録ダンジョン歴10年の俺ですら初めて目にする、ふんだんにエメラルドが施された宝箱だった。
“神回確定!!”
“え、これ本当に配信して大丈夫なやつ!?”
“同接5万いってる!!”
“こんな宝箱はじめてみた”
「プラチナは見たことあるけど、固有レアはオレも初めてだな……」
ダンジョンに巣食うボスモンスターを倒すと現れる宝箱には、レアリティがある。
低い順で、
“金箱もA級からでしょ? それにアリヴァの配信でしか見たことないし”
“アリヴァ様のカットラスも、白金箱から手にされた大業物だから。2年前の配信見て”
“カムナってやつ厄介夢女じゃん草”
だが公にはされていないが、白金以上のレアリティがあるとは聞いていた。
宝石の散りばめられた箱……。WDOでも例が少ないため『固有レアリティ』としか言われていないソレを前にして、オレの心臓は今までにないほど興奮のビートを刻んでいた。
「みんな、開けるぞ。チャンネル登録といいねもよろしくな」
“はよ!”
“歴史が変わる!”
“真剣なアリヴァ様尊い……”
“何が出る!?”
視聴者の期待に応えるように、オレは宝箱の鍵を、蓋を開けた。
そして、その中にあったのは。
宝箱、いや棺に収められた、王族のような装飾の施された絶世の美女の遺体だった。
「っ……」
言葉を失ってしまった。
オレは無類の女好きだ、自覚はある。
だが棺に収められた古女王のミイラは……いや、もう亡くなっているはずなのに。
“おいありゔぁさまそっちいくから”
“コイツやりやがった!!”
“あーあ、放送事故じゃん”
“拡散! 拡散です!”
理性が気付く前に桜色の唇へ吸い込まれ、接吻してしまうほどに美しかったのだ。
「っ、しまった――!」
気がついたときには遅かった。
確かにオレは、よく
「ライブ切るぞ、これはマズイ!」
だが本能が呼びかけている。これは生命に関わると。
まるで歌のように唱えられる呪文に、オレは、いや画面越しの視聴者も殺されるのだと。
【さあ叫べ 我の生誕を
さあ謳え 我の譚詩を
さあ注げ 我の臓腑を
さあ祝え 我の復活を】
意識が渦に呑まれてゆく。
彼女の口から唱えられた聞き慣れない呪術に成す術もなく、脳をミキサーされた後に掃除機で吸われているかのような感覚が全神経に走る。
(っ、っ……!)
まだ呪文は続いている。だが一節でも耳にしてしまっただけで、オレという存在が破壊され、なにか得体の知れないものへと作り替えられ――
〜〜〜〜〜〜
そして目が覚めたら、彼女の白い太腿が視界に広がっていた。
「……あれ、生きてる?」
「いいや。貴様は妾に生命を注ぎ込み、死を遂げた」
「はっ?」
まるで犬を扱うかのように、女王はオレの顎を羽根ペンのような指でなぞり。
「そして妾の奴隷となったのじゃ。誉れ高きミイラの兵として、のう」
無情にも、一目惚れした女に配信者人生の終わりを告げられてしまった。
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