第8話 犬さらい

小学生の頃買っていた犬が急に見えなくなった。勝手にどこかへ遊びに行ったのかな と思っていたら。近所の人が犬サライが来て連れて行ったんだと教えてくれた。僕が泣いていたらお母さんが 保健所に電話して聞いてくれた、今日はその地区には野良犬の保護には行っていませんよと。そう言われて裏庭を見たらいつものようにメリーはいた。僕は喜んでメリーを抱きしめた。僕たちの住んでいた地区には 昔いい犬 さらいと悪い犬さらいがいた。いいのさらいは保健所の人たちが野良犬を保護してゆくもので、悪い犬さらいは捕まえた犬たちを食用の肉として動物園に売ったり、食べてしまうというものだった。僕は飼い犬のメリーはてっきり 悪い 犬さらいに捕まえられて食べられてしまうと思っていた。メリーはたまたま 遊びに出ていただけて 犬探さらいにも役所の人の保護犬にもされていなかった。僕はその後 メリーを連れて 山の向こうに見つけた広場に遊びに行った。ここは 昨日 僕が見つけた僕だけの広場だった 他には誰も知ってる人はいない。僕は メリー とかくれんぼをして遊んでいた。メリーが少し向こう向いている間に 僕が 姿が見えないところに隠れるのだった。僕の姿が見えなくなるとメリは驚いて キョロキョロ と辺りを探し回った。僕は少しの間 面白がって見ていたのだけれど、そのうち あんまり 一生懸命探しているメリがかわいそうになってメリーの前に姿を現すのだった。いつもかくれんぼはそんな風に終わっていた。メリーは幼稚園の時に誰かからもらった黒い犬だった。メスだということは分かっていたけどあとは何にもわからない。他の犬とは 毛並みがちょっと違って、割と 長い毛がウェーブを巻いていた。そしていつのまにか メリーという名前になっていた。僕がつけた名前ではなかったけれど なんとなく メリーという名前でいいかなと思ってメリーになってしまった。僕はその頃テレビで見ていた犬の物語 に憧れてメリーの背中にまたがったことがあった。僕がまたがるとメリーは腰を落として座り込んでしまう。ダメじゃないか メリー と言いながら何度またがってもメリーはしゃがみ込んでしまう。これじゃ乗れないなと思って仕方がないので近所で見つけた馬に引かせるための小さな馬車のようなものをメリーに引かせようと考えた。だが それもうまくいかなかった。メリーは力がなくて馬車を引っ張ることはできなかった。みんな見に来ていたのにメリーが全く引っ張らないから 僕はメリーに引っ張りなさいと叱ったけれども 全然引っ張ってくれなかった。メリーと遊ぶのは好きだったけれど メリーに何かをさせようとしても無理だということを 僕は悟った。それからはメリーに何かを引っ張らせようとしたり乗ろうとしたりはしないでただ遊んでいた。ただどういうわけかメリーと一緒に散歩というものはしたことがなかった。メリーはいつも勝手に散歩してまわっていたからだ。

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