再会

猫又大統領

再会

 この世に犠牲を払わずに願いが叶うことなどない。

 犠牲を払えば払っただけ何かが叶うこともこの世にはない。

 犠牲の払い損で終ることが多い世の中。

 だが、私たちは違う。人の願いを叶えてあげることが出来る。願う者の犠牲によって必ず叶える。犠牲を払った者の願いを叶えなければ我々は魔導士として力を失ってしまうという罰がある。払った犠牲から生まれる苦痛が我々の故郷の世界に運ばれ、故郷がそのエネルギーで潤う。

 ただ今回は我々の中から間抜けが出てしまった。町を滅ぼすという願いを抱いた人間が自らの命を犠牲にしてしまったのだ。願いを叶えなければと焦った魔導士は町に怪物を放して今まさに殺戮が行われている。

 まずは町を滅ぼすなんていうやつに近づいてはいけないという基本中の基本がわかってない。

 事態の収拾のためにこの町へ以前派遣されていた私が選ばれた。町にはサイレントと赤色灯と悲鳴。記憶の中の穏やかな町を削り取っていく。


 数十年に一度のこの一大事。この事態を治める秘策があった。上の方々もそれを知っていて私をここに向かわせたのだろう。

 そう、この町には彼がいる。

「久しぶり」

「な、なんだよ。こんな時に、突然……お、俺が、どんな思いで今までいたのか知ってるのかよ?」

「知ってる」

「それは……私も同じ……だから」

「お前が勝手に姿を消したのにどうして同じなんだ? 同じなわけないだろう!」

「私もあの日の早朝に力づくでこの町から引き離された。いや。あなたから引き離された……上の方々は人間との深い関りをよく思っていないから」

「そ、そんな……俺はまだ好きなんだ……」

「私も、だからこの町を守ろう。この町を守れば許しがでるはずだから。すぐにとはいかないけど……」

「もう一度、俺たち……一緒に……」

「うん……必ず」

 未来の旦那さんだから犠牲になってもらいことにためらいはない。これで幸せに近づけるのだから。おかげで怪物を魔法で葬り事態は収束した。

 もちろん彼が犠牲を払って。

「俺でよかったらいつでもいってよ。だけどこんなにも楽だと思わなかった」

「馬鹿言わないで。魔法の力であなたの全身の痛みは無効にしてあるの」

「魔法が解けたら?」

「激痛で失神からしら? そのほうがいいでしょ?」

「大丈夫か? 顔色が悪い」

「私の心配してる場合? 魔法があと少しで切れる。そして、あなたの両手両足は折れていて痛みも魔法が解けると同時に全身を駆け巡るの」

「あと何秒? あと何秒くらい魔法は残っているんだ。離れたくない」

「この魔法はあと十秒で解ける。あと十秒……私も……」

 彼の永遠とも思われるほど抱きしめ合う。

「もう、十秒たったか? また会いたい。俺、待ってる。必ず待つから……」

「まだ……大丈夫。まだ。魔法は……とけない」

「え、まだ、まだ大丈夫なの……」

「この魔法はあと十秒で解ける」

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再会 猫又大統領 @arigatou

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