5-7 幼いふたり
「それだけじゃないと思うよ」
咄嗟に彼を庇う言葉が出た。その先はなにも思いついていない。注がれる視線を感じながら慎重に考えてみる。
「もともと体が弱かったとか。環境に馴染めないとか。きっと、いろいろ」
「環境は俺のせいじゃない?」
「そうなっちゃうかな。だけどそれも巡り合わせなんだよ。陽輝のせいじゃない」
ポケットの中で陽輝の指がわたしの手を撫でた。
「そっか。ならよかった。花緒は」
考えるために顎を持ち上げた拍子に白い息が上空へと昇って行った。
「くまのぬいぐるみかな」
「可愛い」
陽輝が笑う。
「とても大きなくまのぬいぐるみがあったの。両手で抱えるくらいの。手触りがよくて、いつもそれに顔を埋めて寝てた」
「たしかにそれは、抱きしめて寝たら気持ちよさそうだ」
「そう。ないと不安な時期もあった」
「くせになってたのかな。それとも、本当は抱きしめてほしかったのかな」
心臓を直接撫でられたみたいな心地がした。陽輝はわたしの様子に気づかないみたいに「子どもの頃、クリスマスってちょっと苦手だったんだよね」と続ける。
「イブまではあんなに胸が躍るのに、二十五日の朝になると、あ、もうぜんぶ終わるんだって急に実感が湧いてきて。ケーキの残りとかさ、前日までと全然味違うじゃんって思って」
「陽輝は寂しがりなんだね」
わたしは息を吹きかけるように慎重に言った。こっそり見上げてみても、陽輝はこちらに視線を寄越さない。陽輝の視線を追いかけるように、わたしも空を見上げてみる。星が見えない。
「それで、結構気にしい」
そう言うと、陽輝は
「ええ?」
とようやく笑った。
園内をじっくり回ってから車へ戻った。シートベルトを装着していると、ふいに影が迫る。
陽輝の鼻先がとても近いところにあった。驚く暇もなかった。
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