殺島
ぐーすかうなぎ
殺島①
目覚めてから見たのは、白い砂と通り過ぎるヤドカリだった――ここは海……いや、波打ち際か。
なんとか波の届かないところまで這い進んだものの、今度は急な息切れが彼女を襲った。
老人の苦悩とはこんな感じだろうか。
のんきに想像したのは、育ての親のことだった。
『私が殺したんだ。あんたの実の父さんを』
そう告げられたのは、ごく最近になってだった。
それについては動揺したが、土子(つちこ)は即座に答えたのだった。ぴしゃりと。
――それがなんだ。おっかぁはおっかぁだろ。ここまで育てたのは誰だ?あんただろ。私にはそれだけでいいんだ。くだらんことで泣くな。
何もかもをさらけ出せる育ての母を、土子は愛していた。
だからこその言葉だった。
だが、そんな罪を持つ母をかばい続けた天罰だろうか。
ある日、土子は殺島(さつしま)行きの船の船番に抜擢されてしまう。
殺島とは――鬼を殺し、捨てるための小さな島のことだ。
土子らが住む都からは船で渡るというのが通例で、どこの陸地とも接していない孤島だとされている。
しかし彼女の乗りこんだ船は嵐にのまれ――目が覚めたら、このざまと。
土子はあたりを見渡した。
黒い骨がある。頭蓋骨だ。
こっちはあばら骨。あっちは――腕だろうか。足だろうか。骨の区別などつかないが、それらを見つけた土子はすべてを悟ったのだった。
「そうか、ここは」
なんてことだろうか。
浜を歩けど歩けど、黒い骨の山しかない。お情け程度にしかない自然は枯れている。というか、腐っている。
殺島だ。
どうせ来る予定だったとはいえ、こんな形でだなんて。
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