七つの二つ名を持つ男〜なんちゃって賢者の少年に転生した口下手男の成長譚〜

米糠

 プロローグ

「来たぞー!あれがドラゴンハートだ! あの先頭に立っている奴だ!」


「アイツが敵の首領だ! 奴さえやってしまえば俺たちの勝ちだぞー!」


アグルは向かってくる敵の声を耳にする。

「フッ! 無駄な事を…」


アグルの軍はザラド軍と正々堂々正面から対峙してた。そしてその先頭にはいつもの様にアグルの姿があった。


アグルが押し寄せるザラド軍に向けて広域大魔法メテオストライクを連射し始める。1発撃つだけでも多量の魔力を消費する高度な魔法だ。

立ち昇る多数のキノコ雲に後続の軍が大きな被害をだし続ける中、ザラド軍の先陣の軍が特攻隊の様に突っ込んできた。


「全軍突撃!」


アグルの号令でアグル軍がザラド軍を迎え撃つ。

ドミトリー(アグル軍第一軍)軍とシザーズ(アグル軍第2軍)軍が前衛としてザラド軍を受け止め、ピッケル(アグル軍第3軍)軍魔術師部隊が後衛として敵後衛に魔法攻撃を行った。


今、アグルはその後ろからメテオストライクを連射し続けている。後続が壊滅状態になり、ザラド軍は薄い先陣を残すのみとなるとアグル軍の分厚い攻撃に蹴散らされて行った。


ザラド軍は撤退のホーンの音を鳴らし全軍撤退を始めた。アグル軍はザラド軍に追撃をかける。そしてアグル自身も空を飛び追撃して魔法攻撃を続けた。その日ザラド軍は壊滅したのだった。


ザラド軍を退けてアグル軍は従兄弟アゴンの守る城塞都市ドランに入場した。アゴンはザラド軍に包囲されながらもこの都市を半年もの間守り続けていたのだ。


「よく来てくれた。アグル」アグルの顔を見てアゴンが抱きつき涙を流す。


「遅くなってすまなかった。アゴン、無事そうで何よりだ。よく此処を守り通してくれた」アグルもアゴンを抱きしめる。


「でもな、俺はこんな都市を失ってもお前が生きていてくれる方がよほど嬉しいいんだ。無理しなくても良かったんだぞ」


「バカ言ってんじゃねーよ。こんなの余裕ーで守ってたんだぜ! ザラド軍なんかにこの都市を落とされるアゴン様じゃねーって事よ!」アゴンが強くアグルを抱きしめながらみえをはった。


実際食料不足は深刻で兵士の士気も下がっていたのだ。ただ城塞の硬い防御力に支えられて守り通せていたと言っても良かった。


「バラデス王国からの侵略は大丈夫だったのか?」


アグルが笑って答える。

「ああ! あいつらはボコボコに返り討ちにしてやったぞ。今はアポンに守りを任せてある」


「アポン1人で大丈夫か?」アゴンが心配そうに眉根を寄せた。アポンとアグル、アゴンは従兄弟同士だ。


「大丈夫だ。バラデスの奴ら、2度と攻めて来れないように全滅させておいたからな」アグルが笑って答えた。


「ハハハハハ! そうか、それなら大丈夫だな」アゴンも笑い出した。


「ところでアグル、ザラド軍の奴らまだまだ本国には戦力があるらしいぜ。此処にいたのはごく一部だ。それにお前が援軍としてやって来るという噂は伝わっていたようだから奴等も援軍を派遣しているかもしれね〜」


「そうなのか、ならそいつらも倒してザラド王国を服従させるか?とにかく戦争が起きないようにしなければな」


「そうだな。此処ドランはちと遠すぎて補給が滞りがちなのがネックだな。戦争が起こらなければこの辺りもかなりの農業生産が見込めるからそうすれば自力で此処も豊かになる」


「戦いが無くなれば井戸を掘り水路を巡らせて農地を作る事もできるからな。そうすれば食糧生産量は跳ね上がり、生活も豊かになるだろう」


「そういう事だ」アゴンが頷いた。


「まずは、使者を送ってみるか?不戦条約を結び共に栄えよう……て言って」


「まず無理だろうな。奴らは食糧生産力が足りないから定期的に戦争をして略奪をしなければならない。その時に人が死ぬのは口減らしも兼ねているのさ」


「なら将来の労働力もいただこう」


「言葉も違うし奴ら野蛮だからな……上手くいくかどうか?街の中で事件が多発したらやってられないぜ」アゴンはあまり乗り気ではない。


この地にいて奴らの事をアグルより良く知っているアゴンの言う事はおそらく正しいのだろう。言葉の壁、文化の壁は厚いのかもしれない。異民族に対して戦い奪う事が正義と考えている奴らと仲間付き合いをできるようになる事は難しいのだろうか?命の軽い世界。仲間にはあたたかく、そうでないものには何をしても許される。野蛮……か。


「じゃあ、俺が行って話してみるよ。俺は多分奴等の言っている事くらいは判るし言葉も直ぐに覚えられる。不戦条約と交易の約束くらいならできるんじゃないかな」


アグルは転生者で聞いた言葉の意味は判るしピクチャーメモリーの能力を持つため言語の習得も早く喋れるようになるのもそう時間がかからない。

転生前はコミュ障だったがこちらに来てからは話す事には適応できた。多少説明下手ではあるが。


「ちゃんと防御の体制は整えて相手をしろよ」アゴンは心配そうに言った。


「ああ、その前に奴らの街に潜入して言葉を覚えてくるから此処を頼んだぜ」


「全く命知らずな奴だよ。お前は」呆れ顔のアゴン。


「ステルスで消えていれば街中でも見つけられないさ、ふふふ。近くの街か敵の野営地に行けば言葉を覚えられるだろう。数日で戻ってくるからよろしく頼むよ」アグルはそう言うとフライを使って空に舞いあがった。


アグルは、ザラド人のいる場所を探して飛びながら転生して来た時のことを思い出していた。
















 




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