第三話 予想外の潜伏者②
「持つ者相手に持たざる者の武器を使うとは、随分と舐めた真似をしてくれるじゃねぇか」
『VALTHER PDP FS-5』は、法執行機関向けに開発された拳銃であり、魔力を伴う魔導銃では無い。
だがこれにはこれで利点があり、隠密行動をする人間の中には好んで使う者もいる。
何しろ、魔法は相手の索敵魔法の圏内であれば容易に場所を探知されてしまうのだ。
その点、鉛玉を放つ拳銃は銃撃音がするのみであり、銃撃音はサプレッサーの装着によりある程度は軽減することができる。
「その考え方は随分と時代遅れなんじゃないか?」
「ふん、後から後悔しても知らねぇぞ?」
相手の言葉尻を待たずして、課長は即座に二発射撃した。
「他の敵は俺に任せてください」
敵は課長と渡り合う一人を除いて四人。
彼らの武器はこの職場に来てから散々相手取ってきた『FA-MAN』。
だがコマンド部隊仕様なのか二脚はなく、射撃安定性向上のためかバーティカルグリップがついている。
発射レートは高いが銃口初速がFタイプに劣るGタイプというわけらしい。
「それならどうということは無い……か」
支援魔法の【
あとは回避機動を取りつつ敵へと肉薄するだけだ。
「敵の動きは追うな、動線を予測しろ!!」
【
なるほど的確な判断だな……。
今でこそ魔導レーダーにより飛躍的に効果を発揮するようになった対空戦闘もその昔は敵の動線を予測して射撃するというものだったという。
いくら特殊部隊仕様だからといって小銃にレーダーを載せられるはずもなく、そのやり方はまだ現役というわけだった。
「クッソ、コイツ弾が当たらねぇッ!!」
「弾幕で叩き落とせ」
予測されるのなら予測されないような回避起動を取ればいい。
接敵までの最短時間では無くなるが、それでもその誤差は数秒。
足の取られるバンカーは回避しつつ速度を維持したまま、敵に出来た隙を見逃しはしない。
タンッ―――――。
乾いた破裂音と共に、まずは一人目。
引鉄を指にかけたまま眉間を撃ち抜かれた敵は、弾倉が空になるまで銃を撃ち続けた。
「ゴフッ!?」
周囲の敵がその乱射に巻き込まれ、また一人。
これでようやく半分だ。
僅かな隙を突いての攻撃はこれが限度。
でも敵はもはや至近距離といってもいい距離にいた。
それならあとは―――――
「【
【
『FA-MAN』の威力は、養成機関にいた頃に嫌という肌身に覚えさせられた。
いわゆる痛みを伴った教訓は身体に刻み込まれる、というやつだ。
故に防御魔法をどの程度の出力にすれば敵弾を無効化出来るかは簡単に想像がつく。
「ろくに攻撃魔法も使えない雑魚が!!」
憎悪を剥き出しにした残りの二人は、魔導銃による射撃を繰り出す。
その全てを弾き返しながら吶喊した俺はまず一人の懐に飛び込んで、そのまま急所を撃ち抜く。
「ンッ!?」
絶命の声すら上げる暇も与えない刹那の奪命。
だがそこで防御魔法が耳障りな音と共に砕け散った。
「チッ!!」
敵の攻撃を散々に食らった防御魔法はもはや限界だったのだ。
生命を失い崩れていく敵の死体を盾がわりにしてもう一人の方へ狙いを定める。
「し、し、死ね、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
血飛沫を上げ見るも無惨に襤褸へと変わる死体はしかし防御魔法を再展開させるには十分な時間を稼いだ。
タンッ――――――。
何の感慨もない酷く乾いた音。
それに遅れて噴き上がる血潮は、バンカーの砂を赤く染めた。
「ご苦労」
背中から声がしてみれば、そこにはいつもの調子の課長がいた。
「それ、お持ち帰りするんですか?」
課長の足元には後ろ手に縛られ服をひん剥かれて転がる男がいた。
「ありったけの魔導医療品を投与したし、最低限は尋問に耐えられると思ってな?」
課長は、俺が着任するまでは一課のエースだった人だ。
今でもその腕前は健在で、執拗く俺たちを追い回してきた敵の隊長を生け捕りにしていた。
「……お、俺は…何も答えない…ッ」
男は恨みがましい視線を課長へと向けると、やっとといった様子で声を上げたが課長はただ一言、
「好きにしろ。だが口を割らないと後悔することは保証する」
そう答えた。
戦争でない以上、国際法上の解釈によっては男の身柄は捕虜とはならない。
つまりはデン・ハーフ陸戦条約、ジェネヴラ条約は適応されないということで、彼に待ち受ける未来を思えば気の毒としか言いようの無いものだ。
「時間通りだな」
東の空から聞こえるローター音に気付いて見上げれば、大型ヘリがこちらへと向かってきていた。
「憲法擁護庁一課の二名でお間違いないですか?」
「そうだ」
「第64ヘリコプター飛行団所属機です。収容は重傷者一名、死者四名ですね?」
「あぁ」
陸軍の大型輸送ヘリコプターから降りてきた人員が黙々と死体を収容していく。
「よく陸軍が輸送依頼に応じましたね?」
「上層部に掛け合ったら二つ返事だったな。余程、今回の事態を重く受け止めているのだろう」
公的機関の一職員でしかない俺には、今何が起きているかを詳細に把握する術は無い。
だがロタールの特殊部隊と戦闘を経た今、まるでパンドラの箱が開こうとしている、そんな気がしてならなかった――――――。
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