冷たい北海道

エリー.ファー

冷たい北海道

 特に北海道に思い出があるわけではない。

 別に特別な思い入れもない。

 ただ、来て。

 ただ、帰る。

 それだけ。

 寂しい限りだが、それもまた良し。

 そういう旅行。

 いや、旅行とは言えないかもしれない。

 観光も特にしないし。

 地元の人と喋って、飯を食べて帰る。

 波打ち際だから分かる北海道に住む人たちの心根を知る時間。

 甘い、甘い時間。

 楽しいのだ。

 いつもなら積み重ねるために、訪れるのだが、今回は時間を潰すためにやって来た。

 十分な準備をしないことで、北海道を深く知る切っ掛けとする。

 京都ではない。

 神奈川でもない。

 石川でもない。

 沖縄でもない。

 香川でもない。

 大阪でもない。

 島根でもない。

 北海道で良かった。

 何もかも大切にするつもりだ。

 お土産も、思い出も。

 会話の一粒、一粒。

 そう。

 忘れられない。

 忘れる瞬間なんて、一生来ない。

 さようなら。

 本当にさようなら。

 何にも感動していなかった自分、さようなら。

 何も受け入れようとしなかった自分、さようなら。

 後悔するために時間をすごしていた自分、さようなら。

 ありがとう北海道。

 もしかしたら、これからの人生で他の場所を訪れたら、同じようなことを言うかもしれない。

 その時は許してほしい。

 いつだって、最新の情報に洗脳されてしまう情弱人間であることに来年も再来年も誇りを持って生きていくと心に決めた人間という名の文化の中心にいる浮浪者だからだ。

 でも。

 それにしても。

 北海道は余りにも大きい。

 何かの冗談のようにすべてが大盛だ。

 移住したい。

 北海道は、人を誘惑する。

 何故か。

 単純な理由だ。

 大きくて強いからだ。

 沖縄の友人に話を聞いた。


 北海道は最高だよ。

 だって、涼しいんだ。

 間違いないのは北にあるってことだ。

 タイミングさえ合えばオーロラが見えるという噂も聞いた。

 今度の夏休みに家族で行こうと思うんだ。

 もしかしたら、北海道に操られているような気さえしてくるんだ。

 嘘じゃない。

 本当だよ。

 でも、それが心地いいんだ。

 北海道以外をすべて消し去ってしまいたくなるんだ。

 不思議だよね。

 北海道は人間を支配するべき上位存在なんだよ。


 今、北海道は日本を飲み込もうとしているらしい。

 沖縄は、もうダメかもしれない。

 ただし、北海道と戦うための準備が整っているのも事実なのだ。

 銀座では、北海道の心臓とも言える時計台に巨大な爆弾を落とす計画が練られている。

 北海道は魅力的だが、余りにも強大過ぎる。そして、悪意の塊と化した。

 もしも、北海道と喋ることができるなら、もう一度、仲良くしようと呼びかけるつもりだ。

 本当は、皆で肩を組んで日本という国を盛り上げたいのだ。

 でも、そんな日は来るのだろうか。

 いや、来ないだろう。

 岩手は戦いたいと言っているし、長野は闇のテーブルゲームで北海道をいじめてやろうと考えている。

 勝つしかない。

 負けたら終わりなのだ。

 北海道が消えるのか。

 北海道以外が消えるのか。

 日本だけの問題ではない。

 地球規模の問題である。

 いつしか、透明な意思を持つはずの自由な鳥たちは多くの哲学にまみれて答えを失ってしまった。

 自由自在でありたい。

 君にとっての北海道であって欲しい。

 そして、もちろん。

 僕にとっての北海道でもあって欲しいのだ。

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