続けるのも、やめるのも
熱い抱擁にタップアウト
ダンジョンの崩壊。
ハンター連盟からの事情聴取。
病院での精密検査。
警察からの事情聴取。
追いかけてくるマスコミ。
慌ただしい数日間がやっと終わった。
原因は、もしかしたらと期待して
本当に犯人と遭遇した上にダンジョンコアを目の前で破壊され、犯人のうち二人は逃亡、一人は死亡、もちろんダンジョンは崩壊というお粗末な結末。
休日を返上し、グレーラインすれすれの手段まで取って『なんの成果も得られませんでした』では立つ瀬もなくなる。
腹部にケガを負った
久方ぶりの出勤日を迎え、カーテンを開いてみればどんよりと曇り空。
ただでさえ重たい気持ちが、さらに重くなる。
嫌がる足をなんとか前に出して連盟本部までたどり着いた私は、地下一階にあるダンジョン犯罪対策課のドアに手を掛ける。
「こっ、とっ、りっ、ちゃああああああああああっっっん!!!」
部屋に入るとニコ先輩がものすごい勢いで飛びついてきた。
ギュッと抱きしめられ、私は先輩にどれだけ大きな心配を掛けてしまったのかと自省した。
想いの強さが抱きしめる強さだとするなら、私は今までの人生でこれほど強く想われたことなどない。
それほどきつく、きつく抱きしめられ――――痛い、すっごく痛い。
心が、とかいうオチではなく絞めつける力が強すぎて物理的にとても痛い。
ちょっと抱きしめる力が強すぎやしませんかね?
大きめのヘビ型モンスターに絞められても、ここまでのダメージはない。
これは
「……ったい、痛い痛い痛い。痛いですって、ニコ先輩!!」
「だ~~~め。これはあたしを心配させた罰だよぉぉん」
「いだだだだだだだだだだっ」
私は何度もタップアウトを繰り返して降参の意思表示をするが、ニコ先輩は話してくれないどころか更に力を込めてくる。
都合十回目のタップでようやく解放して貰えた。
「まったくもう。せっかくコトリちゃんが危ない目に遭わないように現場から外してたのに、プライベートでクローズドダンジョンに行ってダンジョン連続襲撃事件の犯人に遭遇するってどういう星の下に生まれたらそんなことになるのよ」
オフィスチェアに座り、腕も足も組んだ姿勢のニコ先輩がふくれっ面で文句を言う。私が襲撃されやすそうなダンジョンをあえて選んだことまでは気づいていないようだ。それはそれで、ちょっと良心が痛む。
「心配かけて、ごめんなさい」
「…………仕方ないけどさあ。どこのダンジョンが狙われるか
「……はい」
今は神妙な顔をして、頭を下げることしかできない。
ここしかない、というチャンスを逃したときの反動は大きいもの。
それに今回は、キツネさんが偶々ライブ配信のゲストに呼んでくれたという口実もあっての裏技だったわけで。ニコ先輩に言われるまでもなく、しばらくは大人しくするしかないと思っていた。
ふと、私は疑問を覚えた。
そういえば、どうしてニコ先輩は私の隣にいるのだろう。
ちょっと前まで私はこの部屋に一人残されていた。
それは私が戦力外だと判断されたから。
なんの戦力か。
もちろん、行方不明になった
紺屋課長も、ニコ先輩も筒城先輩を探すためにずっとダンジョンを巡っていた。
しかし今の先輩は……ものすごくマッタリしているというか、手持ち無沙汰な感じがする。
ということは。
「あの……、もしかして筒城先輩が見つかったんですか?」
私の完璧な洞察力が導き出した、パーフェクトな推察に、ニコ先輩は少しだけ首を傾げて、
「見つかったといえば見つかった。んだけど……見つけてないといえば、見つけてない」
何やら禅問答のようなことを言い出した。
「なんですか、それ」
「んー。ごめんだけど、あたしの口からはまだ何とも言えない」
それはつまり、課内でも話せない機密情報。
「そう……ですか」
またしても私は、蚊帳の外の戦力外。悲しさも口惜しさも通り越し、なにやら諦めにも似たため息がこぼれた。
窓の外では雨も降りだした。
私の代わりに泣いてくれるのか、なんて月並み以下のポエムが頭をよぎる程度にはショックを受けている。
「だから、これからそれを訊きにいくよ」
「……はあ?」
立ち上がるニコ先輩を見上げ、私は呆けた声を漏らす。
ニコ先輩は壁に掛かった時計を見て、
「あたしとコトリちゃん、
私に向かって『早く行くぞ』とジェスチャーで急かす。
「え? 鹿尾理事と風頭理事が? なんでですか?」
「いいから、いいから。急いで行かないと遅れちゃうよ」
「なんで呼び出され、え?」
「理事が二人そろってるところに遅れて入るとか……いや、それはそれでちょっと面白いかな? いっそ遅れてく?」
「あー、もう! 行きます! 行きますよっ!!」
どういう理屈かも
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