お稲荷さまのモンスタードロップ
「……すごい。力が流れ込んでくる」
鑑定されていなくても、この黒く幅広の長剣(以降、黒剣と記載)に秘められた力が尋常でないことは感覚で
どう扱えばアイテムスキルが発動するのか、まるで初めから知っていたかのように身体が動く。
「グギャギャギャッ!! ギャッ!!!」
飛び掛かってきた
明らかにタイミングが早い。黒剣の剣先からマイゴブリンまでの間にはまだ数メートルの開きがあった。
だが、それで問題ないと黒剣が教えてくれる。
黒剣から迸る黒い衝撃破によって、マイゴブリンは真っ二つになった。
斬られた側も、まだ自分が斬られたことを知覚できていない。
なぜ自分の視界が離れていくのか、と疑問を浮かべた表情のまま消えていった。
飛ぶ斬撃。
これならば武器の耐久を考える必要もない。
マイゴブリンが、
飛ぶ斬撃によって次々と斃れていく。
(これが……、レジェンダリーアイテム)
並みのダンジョン産アイテムとは一線を画する桁外れの性能。
下層モンスターをたったの一振りで絶命させてしまう攻撃力。
黒剣の柄を握る手が喜んでいる。
手放したくない。返したくない。自分のものにしたい。
これは私のものだ。誰にも渡すものか。
琴莉の目が、ウットリと黒剣を見つめている。
すぐに我に返った琴莉は、直前までの自身の考えを思い返して
なんという魅力、求心力。形容するなれば魔性の武器。
これがレジェンダリーアイテムに共通するものなのか、それともこの黒剣だけが特別なのかは琴莉には
琴莉は心を強く持って、黒剣を振るう。
「みなさーーーん! 爆炎石、投げるっすよーーーっ!」
突如、響き渡った吉音イナリの声。
セリフを言い終わるのとほぼ同時に、凄まじい爆発音が鳴り響いた。
それも一度ではなく、二度、三度と。
物理攻撃への耐性が高いダンスライムも、辺り一面が炎の海になってしまってはどうしようもない。
一般的に、爆炎石はウルフェゴルのレアドロップでしか手に入らないとされている。希少価値の高い、高価な消費アイテムであるこの石を一度に三つも投げ込むという大盤振る舞いに、戦場には「あれは誰だ?」とどよめきが広がっていく。
ダンスライムの炎上を見届けた吉音イナリは、モンスターたちの中で唯一、爆炎石に怯まず唸り声を上げているウルフェゴルの後方へと忍び寄ると、ケツアゴアトルとの戦いでも使っていた金色の剣で急所を一刺しにした。
声もなく絶命する赤黒い狼。
霧散した跡に残されたものは魔石と――爆炎石が一つ。
信じがたいことだが、彼はレアアイテムの爆炎石を現地調達しているのだ。
剣を振るい、時に短刀を投げながらウルフェゴルを狩り続けること十数匹。
通常ドロップである魔狼の大腿骨と肩甲骨に混じって、時折り地面に転がる爆炎石を拾い集めては、ダンスライムが多い場所を狙って投げつける。
よく見ればドロップアイテムの二割から三割ほどが爆炎石のようだ。
「これが……『お稲荷さま』のモンスタードロップ」
雲取山ダンジョンでのケツアゴアトルとの戦いのあと、琴莉は彼がネットで話題の『お稲荷さま』だと知った。
ほぼ100%の確率でドロップするアイテム群。
当然のようにドロップするレアアイテム。彼にとっては
彼の特異性については、動画を見て知っている……つもりだった。
だが、動画で見るのと、実際に目の前で見せられるのとでは大違いだ。
ついさっきまで、終わりの見えなかったモンスターの群れが、みるみるうちに減っていく。
「皆さん、間もなく応援部隊が着きます。……といっても、もう応援部隊が着くのが早いか、モンスターを殲滅するのが早いかって感じですけどね」
戦場に多少の余裕が出てきたらしく、彼の言葉に配下のハンター達からも小さな笑いがこぼれた。苦笑だ。
たった一人。しかもプロハンターですらない一個人に全て持っていかれた形だ。
ハンター連盟の理事が直々に臨場したダンジョンバーストの結末としては、面目丸つぶれである。
それから十数分後。愛宕山ダンジョンのダンジョンバーストは幕を閉じた。
災害発生から約二時間。民間人の死傷者・行方不明者は八十七名。ダンジョンから十キロ圏外の被害はゼロ。
突発性ダンジョンバーストとしては異例のスピード収束であった。一方でハンター連盟は、ダンジョンの異変を事前に感知できなかった責任を問われ、マスコミからの集中砲火を浴びることになるのだが、それはさておき。
最も世間を揺るがせたのは、愛宕山ダンジョンのダンジョンバーストが収束した日の夜に公開された、ひとつの動画であった。
『【ダンジョンバースト】モンスターの群れ、燃やしてみた【お邪魔しました】』
と題されたその動画は、たった一晩で3,000万再生を突破した。
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