【一章完結】🦊家族思いのお稲荷さまは顔バレNGです ― ダンジョンで配信していた女子大生を助けたばかりにバズってしまった🙄 ―

石矢天

第一章

このネコ譲ってもらってもいいっすか?―

ある女子大生の配信



「ほのりんの『ほのぼのだんじょん』へようこそ!」


〇こんほのー

〇待ってました

〇遊びにきたよ

〇ほのりんは今日もかわいいね

〇あれ? 大学はお休みなの?


 帆乃夏ほのかが配信機能付きドローンのカメラに向かって、最高の営業スマイルで挨拶をすると、腕に付けたアームモニターに視聴者のコメントが表示された。


 明るい声とは対照的に、彼女がいる場所は薄暗い。

 陽の光など一筋だって入ってこない洞窟だが、ダンジョン苔と呼ばれる発光植物によって、街灯に照らされた夜道くらいの明るさを保っていた。


「今日はねえ、二限までだったから遊びに来ちゃった」


 大学の二限はお昼頃に終わる。

 帆乃夏はダンジョン特化型オンライン動画共有プラットフォームDunTubeダンチューブでライブ配信をするため、奥多摩おくたまにある雲取山くもとりやまダンジョンを訪れていた。


 大学からここまで、電車とバスを乗り継いでだいたい二時間くらい。

 つまり、いまは午後二時をちょっと過ぎたところだ。


 …………遠い。

 どう考えても『遊びに来ちゃった』なんてテンションで来るような場所ではない。

 移動時間だけで往復四時間は、ちょっとした小旅行だ。

 

 ここはアマチュアの探索者ハンターでも入れる一般開放フリーダンジョンなのだが、危険な場所であることには変わりないので、基本的に人が少ない場所にしか存在しない。


 東京都は、中でも二十三区と呼ばれる地域は、どこにいっても人でごった返している。 

 そんなところにはダンジョンなんてひとつもない。


 いや、二十三区を出たところで、三鷹市にも調布市にもダンジョンはない。

 八王子市まで出てみても、結果は言わずもがな。


 東京の端っこ。奥多摩町の中でもさらに人里離れた山の中。

 もはやここは東京なのか、埼玉なのか、山梨なのか。

 日本において、管理されているダンジョンとはこういう辺鄙へんぴな場所にあるものだ。


 そんな僻地にあるものだから、平日の昼過ぎという時間帯も相まって、他のハンターの姿はほとんど見えない。

 

 ライブ配信の同時接続は64人。

 時間帯を考えれば……まあ、こんなものだろう。


「それじゃ、『アイテムドロップするまで帰れまテン』やってくよー」


〇8888888888

〇何時間かかるかなー

〇スモウルフでドロップ率0.5%だっけ

〇200匹か……。スモウルフは群れで出るからまとめて倒せば案外早いかも

〇ウルフルズ

〇ばんざーい!


「ば、ばんざーい?」


 スモウルフとはスモールなウルフのこと。

 上層のモンスターの中でも最弱の部類だが、複数体で現れる。


 それはさておき、コメント欄が妙なテンションで盛り上がっている。

 だが残念ながら、帆乃夏には理由がわからなかった。


 ウルフルズとはなんのことだろうか。

 ちなみにWolfの複数形はWolvesでウルフルズでは無い。

 しかし、そんなことをいちいち指摘しても同時接続数が減るだけである。

 ここは鉄でスルーの一手。


〇ほのりんはウルフルズ知らんかー

〇ジェネレーションギャップwww

〇そらそうよ

〇ダメなものはダメ♪

〇泣けてくる♪

〇みんなウルフルズ好きすぎて草


 音符マークから察するに、ウルフルズというのは音楽アーティストらしい。

 まだ二十代前半で、音楽への感度も高いはずの帆乃夏が知らないということは、きっと古い世代の人気アーティストなのだろう。


 どうやら今日の視聴者も年齢層は高め。


 不思議なことに『ほのぼのだんじょん』の視聴者はオジサンが多い。

 下手すると平均年齢は帆乃夏の父親と同じくらいかもしれない。


 ぞわっと背筋に寒気が走った。

 自分の父親が、平日の昼から女子大生のダンジョン配信をかぶりつくように見ている姿を想像してしまったのだ。


 ないわー。ないない。

 父親のそんな姿を見たい娘なんているはずない。


 帆乃夏は気を取り直して「はい!」と仕切りなおす。


「早速、はじめていくよー。あっ、スモウルフが出てきた。いち、に、さん……。なんだ、たったの五匹か」


 ダンジョンの奥。暗がりから姿を現したのは狼タイプのモンスター『スモウルフ』だ。スモール小型ウルフでスモウルフ、その名の通り小型犬くらいの大きさだ。


 この雲取山ダンジョン上層でとてもよく見かける、定番のモンスターである。

 数あるモンスターの中でも最弱の部類に位置するため、ダンジョンデビューしたばかりのハンターに打って付け。某国民的RPGに出てくるスライムのような存在――それがスモウルフだ。


〇たったの、て

〇え? え? ソロなのに、いっぺんに五匹はヤバくない?

〇あれれ? もしかして初見さんかな

〇ほのりんならヨユーだから

〇【¥1500 ほのりーん、いつものやってー!】


 いつも視聴してくれている常連さんが、応援のコメントをしてくれる。

 コメントだけでなく、1,500円の投げ銭スパチャまで投げ込んでくれた。

 スパチャというやつは、もちろん懐に良いが、何より気分が良くなる。


 心配してくれた人には悪いけど、五匹だろうと十匹だろうと関係ない。

 上層のザコモンスターなんか、帆乃夏の相手になどならないのだから。


 世間では、ダンジョン配信は深い階層まで潜るのが偉いみたいな風潮がある。

 しかし、帆乃夏のダンジョン配信チャンネル『ほのぼのだんじょん』は上層メインの安心安全な配信がモットー。

 ジャンルでいえばエンジョイ系で売っていた。


 チャンネル登録者数は80,000を超えている。

 帆乃夏は中堅のDunTuberだと言っても差し支えないだろう。


「スパチャありがとー。では、リクエストにお応えして」


 帆乃夏は意味ありげに笑い、腰に下げた革製のムチを取り出した。

 右手でギュッと握りこむと、力がムチへと伝わっていくのを感じる。


 地面に振り下ろすと、パシンと高い音がダンジョンの壁に当たって弾けた。


「おしおきの時間よ、覚悟なさい。痺れさせてあ・げ・る」




🦊 🦊 🦊 🦊 🦊 🦊



 新連載はじめました!

 なにやら『カクヨムコン執筆限界チャレンジ』なるものが始まるようなので、1月8日まで毎日2話更新で頑張ります!

 8時過ぎと、20時過ぎの2回です。


 黒毛和牛(のカタログギフト)が欲しくて何が悪い!🐂


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