(4)

「でも、どこから出したの? たった今までこんなの持ってなかったよね?」


「さーて、どうだろうね?」


この人ったら、なんてイジワルな笑みを浮かべるのだろう。


「もうっ、変な夢」


わけのわからない場所で、うさんくさい人の相手をするなんて、やってらんないよ。


男はわたしの前から横へ移動して、『あちらへどうぞ』と高級ホテルのドアマンみたいに礼をした。その手は扉を示していて、暗に「行け」と言っているのだ。


このままこの人の相手をしていても仕方がない。何がなんだかわからないけど、行くっきゃない!


わたしはゆっくりと扉に近づいて、銀の鍵を鍵穴に差し込んでひねる。がちゃり、と音がして扉がひらくと、その隙間からまばゆい光が差し込んでくる。わたしは足を踏み出そうとして、ふと気づいた。



「ねえ、まだあなたのお名前を聞いてないよ」


「そうだったね、ワタシの名前は……Nyarlathotep」


にゃーう? なー? 聞き取れなかった。


「はは、ニンゲンにはちょっぴり発音が難しい名前なんだ。そうだね、ニャルとでも呼んでくれたまえ」


「ニャルね、なんだか猫みたい」


「やめておくれ、ワタシは猫が苦手なんだ」


それまで余裕たっぷりに笑っていたニャルが、眉をしかめるのがなんだかおかしい。謎の男の弱点がわかったことだし、そろそろ行くとしますか。


「きみの活躍を期待しているよ」という男の言葉を背中に受けながら、わたしは光の中へ飛び込むと、そのまま意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る